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わたしと憧れのお姉ちゃん  作者: 小林弘二
10/22

10.二人の告白

 皆様は告白をされたことはあるでしょうか。もちろん、「実はスキップができない」「実は護身術ができる」と言ったカミングアウト的告白ではない。


 そう、「あなたが好きです」の告白である。


 男性が女性に、女性が男性に自分の溢れんばかりの想いをぶつける一大イベントだ。それはとても甘酸っぱく、時にはほろ苦い思い出になる。わたしにとってそれは大好物な話題だ。


 今回はわたしたち二人に起きた告白に関してのお話である。


「霜川さん、俺と付き合ってください」


 校舎の屋上で三年生に告白されたのは、何とわたしなのである。


「ごめんなさい。わたし、あなたのことよく知らないから」


 そう言って断ると、彼は残念そうに「そうだよな。見てただけだもんな」とそう言ってわたしたちは別れた。


 このことをお姉ちゃんに話すと、お姉ちゃんはちょっと驚いた顔をした後、戸惑った様子で「実は、わたしも最近告白されたのよ」とカミングアウトした。


 話を聞くと、どうも告白してきた相手は後輩の一年生で、こちらも「俺と付き合ってください」と真っ直ぐに言われたそうだ。その告白にどうしたか訊いたら、


「流石に一年生は子供っぽくって、それ以前に今は恋愛とか考えられないから」


 とそう答えた。


 ここでお姉ちゃんと二人でふと気づいた。告白してきた相手はわたしが三年生で、お姉ちゃんが一年生であることに。


「どんな人だったの?」


 とお互いにその相手の特徴を言い合うと、二人して「あー」と気の抜けた声が出た。わたしは「わたしによく話しかける子だ」と、お姉ちゃんは「陸上の練習とかよく見てた彼だ」とお互いに思い当たる人だった。


 つまり、こういうことだ。


「お互いに相手を間違えたってこと?」

「そうみたいだね」


 何て言うか、二人してため息が漏れた。だって、一世一代の大告白なのに、幾ら顔が似ていると言っても、好きな相手を間違えるんだよ。信じられないよ。


「告白されて二週間ほど経つけど、彼とはどうなっているの?」


 とお姉ちゃんに訊かれたので、お姉ちゃんに告白した子のことを話した。


 その子は同級生で、よく話しかけられこちらもよく話す。まぁ、関係良好の男友達だ。でも、お姉ちゃんに告白したタイミングで、何かよそよそしい感じを見せたが、まさかわたしと間違えて告白したとは思ってなかったので、わたしはいつもどおり話しかけていたら、その子も今ではいつもどおりに話しかけてくるようになった。


「わたしはどうしたら良いと思う?」


 そう訊いてくるので、その前に確認したいことがあった。


「お姉ちゃんは、その練習をよく見に来る彼の事、どう思っているの?」

「どうも思ってないよ。たまに話しかけられただけだったから、恋愛感情なんてひとつもなかったし」


 確かにわたしもあの先輩に間違えて告白されてみたものの、彼とどうにかなる想像もピンとくるものもなかった。


「だったら、いつも通りに接すれば良いんじゃない?」

「いつも通り……」


 そのわたしのアドバイスを真に受けたのか、翌日、どこか目を合わせないでいるその彼に「いつも通りに接してね」と告げたそうだ。


 お姉ちゃん、何も彼にそう告げなくても、自分の行動で示せば良いんだよ。


 そのお姉ちゃんのちょっと天然な行動のせいなのか分からないが、彼はしばらくして普通に話しかけてくれるようになったそうだ。


 そんなわたしたちの取り違え告白はこれだけでなく、学校イベントである文化祭でもそれは起きたのである。


 うちの中学校の文化祭は模擬店などはなく、クラス合唱の音楽祭をメインに、文化部の出し物、ステージでのダンスや吹奏楽部のコンサート、合唱部の合唱の他、有志によるステージ活動などが行われる。


 午前中に行われる音楽祭さえ出れば、午後は部の出し物の手伝いに回ったり、ステージでの活動を見に行ったりと、何をやっても自由なのである。


 午前中のクラス合唱では、お姉ちゃんのクラスは『流浪の民』を歌った。これにはソプラノ、アルト、テノール、バスのそれぞれにソロパートがあり、お姉ちゃんはソプラノソロを歌った。うん、お姉ちゃんのソプラノボイスはやっぱり素敵。


 午前中の音楽祭は何事もなく終わり、問題が起きたのは文化祭最後の最後に行われる『有志によるステージ活動』で起きたのである。この有志によるステージ活動というのは、いわばステージを使った自由な発表だ。これが文化祭で一番盛り上がるイベントらしく、カラオケ大会になったり、エレキにアンプを持ち出しライブが始まったりするようだ。中でも一番ヤバいと思ったのは、突然始まる絶叫カミングアウト大会だ。


 この絶叫カミングアウト大会とは、ステージに立ち、自分の秘密や他人の秘密を大声で叫んだりするものである。これは別に秘密じゃなくてもよく、カミングアウトなら何でも良いそうである。そう、告白でも。


「いたいた。霜川さん、こっち」


 多くの人の壁の後ろの方でステージを見ていたわたしに、突然女生徒がわたしにそう話しかけ、腕をつかんで引っ張ってきた。


「えっえっ?」


 あまりの突然の出来事に訳が分からず連れて行かれるままになっていると、辿り着いた先は一人の男子生徒が待つステージの上だった。


 未だにこの状況が理解できずポカーンとしているわたしに向かって、その男子生徒は大声でカミングアウトしたのである。


「君が色んな場面で活躍する姿が頭から離れない! 百合さん! 俺と付き合ってください!」


 ステージ下の大勢の生徒たちは、そのカミングアウトを聞いた途端ワッと湧いた。


 わたしは彼の告白を聞いて、「これはやっちゃった系だ」と何とも言えない顔になってしまった。明らかにお姉ちゃんと間違えている。


 そう思った次の瞬間、ステージ下の生徒たちがざわざわと騒ぎ出した。

 ステージの上に向かってゆっくりと階段を上がる女生徒がいたのだ。


 そう、お姉ちゃんである。


 わたしに告白した男子生徒は、わたしと反対側に立つお姉ちゃんを見て目を丸くした。そりゃそうである。告白までした自分が想いを寄せる女性が、自分を挟んで二人に増えたのである。


 ステージ下の大勢の生徒たちもこの状況を理解できない人も多く、「双子か?」とざわめいていた。


 告白した男子生徒は、わたしとお姉ちゃんをオロオロと見比べている。


 この男子生徒はきっとお姉ちゃんの同級生なのだろう。お姉ちゃんを好きになるのは勝手だけど、お姉ちゃんとわたしを間違えるのは許さない。


 男子生徒越しにお姉ちゃんを見ると、冷ややかな視線を男子生徒に向けている。きっとわたしと同じで、「妹と間違えるなんてありえない」と思っているに違いない。


 二人の間で狼狽えている男子生徒に、わたしはお姉ちゃんより似ていると言われるお姉ちゃんスマイルを作って言ってやった。


「わたしのことを好きと思ってくれるなら、本物の百合にもう一度さっきの言葉を言ってくれる?」


 わたしの言葉に、男子生徒はしばらくわたしたち姉妹の顔を見比べた後、叫ぶように言った。


「最初に決めた女性に間違いない! 俺と付き合ってください!」


 と再びわたしに向かって言い放ち、頭を下げて握手を求めてきた。


 シーンと静まる会場。


 お姉ちゃんは相変わらず冷ややかな顔をしている。これは怒っている顔だ。


 わたしは大振りな動作を交えながら叫んだ。


「アウト! そしてレッドカード!」


 今年から始まったJリーグの審判のように、胸ポケットからカードを取り出し掲げるポーズを取った。その途端、会場はドッと湧いた。手を叩いて笑う声に混じって、「自信満々で間違えやがった」と失笑する声が聞こえる。


 呆然としている男子生徒の横を通り抜け、お姉ちゃんの手を取った。


「お姉ちゃん、行こう」


 こうして、わたしとお姉ちゃんはステージを降りてこの場から離れた。


 これが公衆の場でわたしとお姉ちゃんを間違えた、最大の取り違え告白である。


 あの彼なのだが、お姉ちゃんに聞いてみると二年の時のクラスメイトで、それなりに話しかけてくれた人だそうだ。


「でも、それだけね」


 と、彼のことは何とも思ってない様子だ。


 きっとあの彼は、大人になってもこのネタで笑われるのだろう。


 こんな取替え告白が目立つわたしたち姉妹だが、ちゃんとした告白もされている。わたしは一年の時は三回、二年の時は五回、三年の時は九回とうんざりするほど告白されたが、お姉ちゃんから聞かされた告白の話を計算してみると、わたしより明らかに少ないのである。


 お姉ちゃんに「まだわたしに話していない告白の話があるんじゃないの」と訊いてみると、


「あなたは自分で思っている以上にモテるのよ。明るくて可愛くて、男女隔てることなく仲が良くて。そんなあなたに話しかけられた男の子は、みんな参っちゃうものなのよ」


 そう言ったのである。


 そっか。顔が同じでも、やっぱりコミュ力が高い方がモテるってことなんだね。あの渚さんがモテるのも当然だよね。


明るい子はやっぱりモテるよね。

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