解析 7
なかなか症状収まらないので
更新が不定期になる可能性があります
「…………私達としても、気にしていたところだ。大気中の魔素濃度が、ここ数年で急速に上がってきている。ニホンは勿論だが……恐らくは、世界中で」
「同意見だ。そのため、人々や思考生命体の悪意に共振したΛD-ARK……いや、『魔素』が集束し、魔物が受肉する。この認識で合ってる…………ます、か?」
「くくくっ。喋り易い口調で構わんよ? ……まぁ、そうだね。私達も概ね同じ認識だ。つまり魔物を滅するためには、空間中の『魔素』濃度をある程度下げてやらねばならず……かといってそれは、一朝一夕で出来ることでは無い」
「………………同意見だ」
幸いというべきだろうか、私達が遭遇した『魔王』プリミシアは、私達の素性に関して掘り返す様子を示さなかった。
この部屋には『会談用の魔法結界』とやらが張り巡らされているようで、盗聴や透視や録音撮影機器の類をほぼシャットアウト出来るのだとか。
『…………なるほど、状況を認識。ワタシの思考演算に走るノイズの原因を解明致しました。……通信ジャミング対抗パッチの生成、実装を開始します』
(後回しでいい。母艦との同期は『魔法結界』とやらを脱してから取れ)
『了解しました』
ここで重要なのは、先方『魔王』プリミシアは私達の素性にある程度感付きながらも、正体の隠蔽に協力してくれそうな雰囲気であるということ。
他に聞き耳を立てている不埒者は、どうやら今は居ない様子。信じるしかないが……信じてみても良いだろう。
私がかつて生きた地球には影も形も存在しなかった、魔物に抗うための技術体系。……それをこうして形にするには、尋常ならざる苦労があったことだろう。
少なくとも、彼女が『ヒト種』とりわけ『日本』を大切に想っていることは、わざわざ言われずとも理解出来る。
「……ときに、魔王プリミシアは――」
「できれば『局長』で頼む。私はそちらのほうが性に合っているのでね」
「では……プリミシア局長。単刀直入に訊くが……貴女は『魔素』の発生原因に、心当たりはあるか?」
「…………あるんだなぁ、それが」
「それは心強い。……情報の摺合せと、知識をお借りしたい。私達が今日押し掛けたのは、その『原因』の解消に関して相談したいが為だ」
「願ったり、だとも。……私達の知らぬ『外つ世界』の知識だ、値千金の価値が在ろうよ」
奇遇というかなんというか、ともあれこちらとしても同じ考えである。
我々のものとは異なる技術体系に依る知識や技術が得られるのならば、我々だけでは解決できない事象にも突破口が見えてくるかもしれないのだ。
古くからこの『地球』に根差してきたモノではなく、なんと『異なる世界からの来訪者』であるという魔王……もとい、プリミシア局長。
今はもう滅びを迎えたと、どこか自嘲気味に語っていた彼女の出身惑星だが……やはりというか、これまた全く別の法則に支配されていた惑星であるらしく。
そもそも『魔法』という技術自体が、かの惑星の原生知的生命体の種別的特徴を模倣・再現したものなのだという。
ヒト型の知的生命体が文明を築いている異星が、他にも存在していたことにも驚きだが……それがこうして、同じ惑星で邂逅を果たすとは。
本当にこの宇宙は広く、多様性に富み……そして可能性に満ちている。
「……それでは、貴女の知恵をお借りしたい。私達も『原因』に目星は付いたが、かといってどう対処すれば良いものか」
「それはそうだろう。アレは少々以上に手強い。単体ならばどうということは無いが、生命力が凄まじい」
「な…………確かに生命力は凄まじいだろうが、アレを『どうということは無い』とは……正気か?」
「う、うん?? …………あぁ、そうだな。私もこうして劣化する前、以前の世界に居た頃には、それこそ生殺与奪の管理を担っていた程だ。伊達や酔狂で『魔王』など名乗ったりせぬよ」
「…………畏れ入る。素直に敬意を表そう、プリミシア局長。……只者ではないとは思っていたが、よもや上位種をも従えていたとは」
「はっはっは…………ごめん、なんて??」
「えっ? いや、だから……上位種。上位知的生命体。地殻の下に棲まう超好熱性未確認生物」
「なにそれこわい」
「………………わかった。先ずは認識を共有しよう、こちらの集めた情報を提供する。……スー」
「……は、ぃ」
空間干渉によって立体投影された仮想ディスプレイに、我々の集めたデータ(のうち公開しても問題無いと判断した情報)が提示される。
大気成分の測定を行った地点と、そこで得られたΛD-ARKエネルギーの成分構成……そしてそれを代謝として吐き出す特徴を持つ類似生命体、我々の文献に記載されていた生体情報。
それらを基に、我々が立てた推論。恐らくはこの惑星の深層に棲まうであろう、未確認生命体の推測情報に関して。
それら非現実的な情報の奔流を目の当たりにし……しかし、さすが『開発局』の長を務めるだけのことはあるのだろう。プリミシア局長の目の色が変わる。
傍らのユシア課長共々、くいいるように仮想ディスプレイへと目を走らせ、口元に手を当てて熟考を巡らせる。
「…………オーケー、把握した。……なるほどね、そういうことか」
「魔王様、やはりこれが例の懸念の……」
「そのようだ。…………いや、私もおかしいとは思っていたんだよ。頻度に隔たりが在るとはいえ、魔物は日本だけでなく世界中で出現しているんだ。……地殻の内側にも原因があったというのなら、確かに辻褄が合う」
「…………詳しく詰めてみる必要がありますが、海外で魔物出現が頻発する地域……確かに、大なり小なり火山活動が確認されている気がします」
やがて口を開いたプリミシア局長は、ユシア課長と二人でなにか合点がいった様子である。
口ぶりから察するに……恐らくだが、ΛD-ARKエネルギー(=魔素)の発生原因と目される事象には、他に彼女らが注視している事象も存在しているのだろう。
そちらも追々、調べていったほうが良いのだろうが……とりあえずはこちらだ。
ともあれこれで、彼女達は私の目的――超好熱性未確認生物との意思疎通――ならびにその理由を理解してくれたことだろう。
「…………それで、可能なのか? こんな……これまでの地球上に例を見ない、大型生物との意思疎通が……」
「無論だとも。かつて私が生きた世界にも、翔龍種やら暴獣種やら泳棲種やら、そのテの大型知的生命体は存在していたからね」
「ど、ドラゴ…………なるほど、可能性はあるか。……それで、本題なんだが……その『魔法』を教えて頂くことは、可能だろうか?」
「構わない…………と、言いたいところだが」
ここで私達が『意思疎通』の手段を手に入れ、例の未確認生物とのコンタクトを取ることが出来れば……ΛD-ARKエネルギーの放射を止めることは出来ずとも、流れを変えることは出来るかもしれない。
無論、そんなことが可能なのかは判らないが……その可否を判断するためにも、まずは対話の場に着かないことには始まらない。
よって、是が非でも『対話のための魔法』を手に入れたい。それが今回の目的なのだが。
プリミシア局長は眉根を寄せ、腕を組み、唇をへの字に結ぶと……明らかに気乗りしない様子であり。
「…………相手は翔龍並の存在、その気になればヒトなど容易く屠れる……いわば上位種だ。そこは理解っているね」
「無論だ」
「そうか。ならば話は早い。……誰でも良い、ひとつ『手合わせ』を願おうじゃないか」
「………………何?」「ゥ?」「……ん」
「ユシア、特例模擬的交戦許可申請、それと『練兵場』の用意を。……クラス【A1】だ」
「本気ですか。…………はぁ……承知致しました」
「くくく……務めを果たせ、【不壊】のユシア・ネウヤフォリト。……というか貴様、最近は『白銀の魔法少女』のお陰で楽しているだろうに。私知ってるんだからな。抑も貴様が今の――」
「待て、ちょっ、待って。……どういう意味だ? 手合わせって……」
「どうもこうも……言葉通りの意味だよ、【イノセント・アルファ】。君がコンタクトを図ろうとしている相手は、ヒトにとっての脅威そのものだ。下手に刺激して機嫌を損ね、その悪意がヒトの世に向いたら……どうするつもりだ? 惑星が灼けるぞ」
「…………っ、そんなことは……理解している」
確かに……今回のこの作戦は、かの未確認生物が『地上に興味を持っていない』前提で進めている。それは確かだ。
地上世界が彼らにとって生存環境に適さないから、こちらに出てくることは無いだろう。そう認識していたことも事実だが……だからといって『未知の世界からの接触』に対し、全くの受動的で居てくれる保証は無い。
突然の来訪者に錯乱状態に陥ったり、はたまた逆上して暴れ回ったりでもした日には、地底マントルが一気に活発化……爆発的な火山活動に繋がる恐れもある。
たとえ彼らに利が無かろうと、地上世界に牙を剥く可能性は少なくないのだ。
……だからこそ、かつて同等の上位生命体をも従えていた『魔王』は。
私達が彼女に匹敵するだけの力を持っていること、上位生命体に接触する資格があるのかを、確かめたいのだろう。
「……まぁ、正直あまり考えたくは無いが……最悪の場合、彼らを力尽くで黙らせるだけの『暴力』が必要だ。少なくとも私を……翔龍すら屠る『魔王』を満足させる力さえ持たぬのであれば」
「…………『意思疎通』の手段を、教える訳にはいかない、と」
「その通り。業腹だろうが、諦めて貰おう。……そんな面白そうな一大イベント、地球人類魔科学史における一大転換点を担う栄誉! 大人しくこの私に譲るが良い!」
「ぇええ…………まぁ、事情としては理解しました。お受けしましょう」
「そう来なくてはな! くくくく……久し振りの模擬戦だ、腕が鳴るというやつよ! 【イノセント・アルファ】様々だな!」
「諸々終わったらお仕事頑張って下さいね。こうして会談の場を設けている間にも、恐らく結構な量が溜まってますので」
「 」
謎の盛り上がりを見せているプリミシア局長をよそに、何処かへの連絡を終えた様子のユシア課長は、淡々と仕事を進めていく。
この……良くも悪くも研究者気質なのだろう、独特な感性を持った者が上司だというのなら……日頃から色々と苦労が絶えなさそうである。
「……それでは、魔王様の『手合わせ』にご協力頂けるとのこと、有難うございます。これより『練兵場』へご案内致します。……お相手は、アルファ様で?」
「ん? ……あぁ、そう――」「かあさ、にぐ」
名乗りを上げようとしていた私を遮るように、控えめで辿々しい言葉が発せられる。
正直に言って驚いている私と、同じく目をぱちぱちと瞬かせているディンが見つめる先……ひときわ小柄なその姿が、堂々と名乗りを上げる。
「わたし、が……やぃ、ます」
「…………そっか、わかった。……いいぞ、その提案を支持する。やってみろ、スー」
「は……ぃ、っ!」
「ほう………………これは、これは。……楽しみだよ」
魔法文明を極めた惑星の『魔王』と、機械文明の結晶たる『自律惑星探査機』の一機。
私達もそこそこの反則的立場であると自覚しているが……それと比肩、あるいは上位存在であろう人物との、模擬とはいえ戦闘の場である。
実戦経験が無く、また積極的に戦わせるつもりの無いスーの実力を確認できること。
また『魔法』技術の総本山を相手に、色々と得られるものが多そうな場であることも、私は勿論嬉しいのだが。
ウチの可愛い末っ子が、わざわざ『私の手の内を晒さずに済むように』との想いで名乗りを上げてくれたこと。
今はそれを、この上なく嬉しく思う。




