32 警報
いつもお目通し頂き、ありがとうございます。
さっそくですが、一件懺悔させてください。
うれしさのあまり誇張してしまいましたが……おシゴトをサボって書いていたのはうそです。休み時間とお昼休みに脇目もふらず書いていました。
うそをついてしまい大変もうしわけございませんでした。もううそはつきません。ほんとほとんと。
お詫びのかわりに更新します。
相変わらず不定期。
現代的で標準的で活動的な衣料に身を包み、なんとか『常識人』への擬態を済ませた私達は、現在地表にて自らの脚での移動を行なっている。
周囲への悪影響を考慮して『転送』は控え、また無闇に能力をひけらかしては悪感情を煽るだろうと『浮遊』機能も自重し……自分たちの優先順位を下げ、非常に非効率的な選択を取り、ゆっくりと行程を消化していく。
だが、たとえ時間が掛かったとしても、そして非効率的だと理解していたとしても。
可愛らしい我が子と賑やかに歩を刻むというのは、なかなかどうして悪くない。
とはいえ、そんな時間が永遠に続くわけでもなく。歩を進めれば進めるほど、目的地は近付いてくるわけで。
程なくして私達は、次なる目的地である店舗へと到着を果たしたのだ。
今度の目的地とは……ずばり、書店。
このビル一棟まるまる全て、複数フロアに渡って膨大なジャンルの書籍を取り扱っている、このあたりでは人気の店舗であるらしい。
「はい、じゃあディンさん。お約束は覚えてますか?」
「あい! 静かに、発声行為を慎む静粛稼働! 自己判断による移動を禁止、かあさま随伴、作戦名『いい子にする』です!」
「よくできました。偉いぞ」
「かあさま! 既存所持戦利品、ワタシ、随伴保持します!」
「…………ッ! ……良い子だなぁ!」
「ゥえへへ〜〜」
満面の笑みで手を差し伸べてくるディンに、先程調達した衣料の詰まった大袋を預け……『お約束』の通り彼女が口を噤んだのを確認し、私は自動ドアを潜る。
冷房の利いた店内の空気が肌を撫でるのを感じつつ、荷物を引き受けてくれたディンが追従するのを確認しつつ、両側に防犯ゲートが控える入り口を通過し――
――――ピー!ピー!ピー!ピー!ピー!ピー!
「な…………ッ!」
突如、けたたましく鳴り響く防犯アラーム。その警報の出どころは言うまでまもなく、唯一の出入り口を守るように設置された防犯ゲートだ。
店員はもちろん、居合わせた一般客まで。視線の届く範囲の店内ほぼ全ての視線が一斉に向けられ、存在しないはずの汗腺から嫌な汗が噴き出る幻覚さえ感じられるようだ。
「…………? えー、っと……お客様、入られるところ……ですよね?」
「あ、あっ、そうです、はい」
「…………商品、まだ手に取ってないですもんね?」
「は、はいっ……もちろん……」
「ぅうーん? おかしいなぁ……」
「………………」
かつてのいつも通りに入店しようとしていたため、全くもって備えていなかったのだが……この事態の心当たりそのものには、ハッキリ言ってしまうが身に覚えがある。
単純にして明快、私達の身体が普通の生命体ではなく……地球外金属、つまりはゲート周辺の磁場を乱すような素材をふんだんに用いた、アンドロイドであるためだ。
クレジットカードの類や巻かれたケーブル等、ゲートの誤作動を誘発するモノの存在は、私も耳にしたことがある。
前世では詳しい仕組みを学ぶことは無かったため、正確な原因までは不明だが……何せこちらはそもそもが、超高速で膨大な電気信号が行き交う機体なのである。誤作動の原因そのものが歩いているような状況だろう。
何よりも厄介なのは、原因物を一切所持していない点だ。どれ程装備品を外そうが、私達の身体そのものが原因なのだからどうしようもない。
仮に……仮に、所持している金品から身につけている衣類の全てに至るまで、徹底的に剝かれてみたとして。普通のヒトであれば絶対に反応しない状況に直して、尚警報が収まらないとなれば。
……ゲートの故障、と判断してくれる可能性も無くはないが……私達二人が少なからず怪しまれる可能性も、大なり小なり生じてしまうだろう。
私が頭を抱えたくなってきていると……そこへ買い物を終えた一般客が、訝しげな表情を作りながら出口へと向かってくる。
道を開けるために私は一旦店外へ、防犯ゲートの検知範囲外へと身を退ける。
当然の帰結として警報音はピタリと止み……会計処理済みの一般客が軽く会釈しながら通過しても、もちろんゲートは沈黙したまま。
「………………どうぞ」
「……………………はい」
一部始終を観察していた店員に促され……改めて防犯ゲートに挑むと。
――――ピー!ピー!ピー!ピー!ピー!ピー!
……当然、鳴る。
眉を顰める店員さん、ひそひそ話を始める店内の一般客。なんだかとてもいたたまれない。
私が犯罪行為に手を染めていないのは確かであるし、手を染めるつもりも無いと断言できるのだが……そうは言っても我々、とても他人にお話できない秘密を抱えまくっているのだ。
ここまで来たからには目標の品を手にしたい、しかし防犯ゲートの突破が困難である。品物を手にしていない『入り』は見逃して貰ったとしても、この機体でいる限りは『帰り』も当然鳴るだろう。そちらは怪しまれて当然だ。
磁気的な何かが原因だということまでは推測できるが、具体的な原因の特定に至らない以上、周囲力場に干渉してどうこうできるものでもない。
……詰みか。諦めるしかないのか。自然と顔が渋面を形作る。
演算処理を巡らせすぎたから、というわけでも無いだろうが……このいたたまれない状況もあってか、身体が熱をもっていくような感覚さえしてくる。
かつての癖の名残として、衣服の首元から空気を取り込み、少しでも機体を冷却しようとしたのだろうか。
渋面かつ混乱した思考のまま、特に深く意識すること無く胸元へと手が伸びていき。
「っ!? お客様!!」
「はいっ!!?」
「まさか……胸に、何か『機器など』入れておいでですか!?」
「えっ? あっ、はいっ!!」
「…………ッ!!」
あまりにも物凄い剣幕の店員に、つい反射的に肯いてしまった。まぁ我々の場合『入れている』どころじゃなくて全身が機器そのものなのだが、誤りというわけではないはずだ。
ともあれどういう理由か、私の返答に店員は顔を青褪めさせると……胸に手を伸ばしたまま硬直を続ける私へ、急かすように入店を促す。
「早くこっち、通って下さい! 警報気にしないで! 早く!」
「は、はいっ」
引きずられるように入店を果たす私。その後に続くディン。そして鳴り止まない警報。……店員の顔が更に強張る。
警報に晒されながら『きょとん』とした顔のディンを見、店員は魔物にでも遭遇したのかと問いたくなるような表情でこちらへ目を向け。
「…………あ、妹もです」
「お通り下さい! 早く!」
「ど、どうも」
「あの……大丈夫、ですか? 体調とか、めまいや吐き気とか、苦しいとか……気分悪くなったり、とか……」
「えっ? あ、いや……大丈夫だ。……です」
「…………大変、失礼致しました。……気分悪くなったら、直ぐに近くの店員呼んで下さいね」
「あ、あぁ…………」
妙な緊迫感を伴いながらも、こうして無事に入店を果たすことが出来、その後には『ぺこり』と会釈をしながらとても偉い我が子が続く。
この機体のせいで騒動を引き起こしてしまったりもしたが、まぁそもそもの原因は私達なのだ。
こうして店内に迎え入れてくれたことだし、寛大な処置に感謝こそすれ気分を悪くする要素などどこにも無い。
周囲で事の成り行きを(ひそひそしながら)見守っていた一般客も、とりあえずは納得したのだろう。眉根を寄せたりしながらも、それぞれ自分の世界へと帰っていった。
……そうとも、ここは書店。
ここへ足を運ぶ者は、少なからず自分が浸る世界を求めているのだ。
いろいろな人々の趣味に合致する、様々な情報の集積体である『書物』を見繕い、手に取り、迎えることができる。
ここはそんな膨大な情報が集まる、大いなる可能性を秘めた場所なのだ。
そのとき、一部始終を目撃していた『一般客』のうちの一人、たまたま現地に居合わせた非番の魔法少女は……後に、上司を通じて報告を上げることとなる。
謎に包まれた魔法少女【イノセント・アルファ】およびその『妹』とされる人物についての、その衝撃的な追加報告。
それは、彼女たち幼い姉妹がふたりとも『外科手術を要するほど重篤な病を心臓に抱えている』という……衝撃を伴うものであり。
小さなその身に余るであろう、あまりにも残酷で過酷な生い立ちに。
その報告を持ち帰った魔法少女本人、およびその報告を聞いてしまった本鳥羽大臣以下居合わせた者達は……思わず歯を食い縛り、沈痛な面持ちを隠すことが出来なかった。
…………………などという事態に、まさかまさか発展することになろうとは。
自分たちが胸に医療機器を――補助人工心臓やペースメーカーの類を――埋め込まれ、それに頼らざるを得ない身体であったなどと。
これまで【イノセント・アルファ】が積み上げてきた戦果は、そんな悲壮な事実の上に築かれたものであるなどと。
……そんな事実無根で、根も葉も無い報告を、さも深刻そうに上げられていようだなどと。
ましてや……彼女だけでなく、実際に応対した者をはじめその場に居合わせた店員、および眉根を寄せてひそひそしていた一般客の多くが、概ね同様の印象を受けていたなどと。
視界すべてを覆い尽くすほど数多の本に囲まれ、目を輝かせていた【イノセント・アルファ】本人……およびその可愛い『妹』は。
当然、全く、これーっぽっちも、想像なんてしている筈もなかった。




