国家指定対災調査員事務局 近畿第一支部
ひとときの夢まぼろしかと思ったら更なる評価を頂戴しておりました。
初めてでうれしくて夢みたいで、仕事中ずっとニヤニヤでニマニマが止まりませんでした。
引かれました。
でもやっぱりとても嬉しいです。
拙作を好いて頂いた皆様、本当にありがとうございます。
「…………あ、そうそうドラ子ちゃん」
「んー? どうしたの? おペイちゃん。コンビニならまだいいかなぁ。あいちゅんカード買い行くの? 爆死した?」
「違う違う違う違う違う違う違う違う」
この世界に受肉を果たし災いを齎す『魔』の存在である『災魔』の対処を主任務とする国家指定調査員俗称『魔法少女』達の職場にして詰所にして司令部にして溜まり場でもある多目的拠点、通称『アトリエ』。
京阪神大都市圏を擁する近畿地方に設けられた、ここ『近畿第一支部』内の談話室では……現在幾人かの魔法少女達が、それぞれ思い思いの方法で寛いでいた。
そんな寛いでいたうちの一人、高等部に属するであろう年頃の少女が、紅茶片手にスマホ読書に勤しんでいた同年代の少女へと話し掛ける。
公私共に交友が深く、同じ学舎に通い、職務においても肩を並べる二人。それぞれが相手を『権能』由来のあだ名で呼び合うほど、気心の知れた間柄である。
彼女達のように『アトリエ』所属の魔法少女は、ローテーションにて有事に備えての待機任務が発生する。
いつ何時現れるか不明な魔物を迅速に迎撃するため、常時一組二名以上の魔法少女が待機する運びとなっている。
……ただ『即応可能な魔法少女は多ければ多いほど望ましい』との考えから、シフト以外でも極力入り浸ってもらえるようにと、談話室や仮眠室等はそこそこ以上に居心地が良い。
「ホラホラこれ、知っとる? 最近ちまたで話題なんやて。謎多き神出鬼没の美少女フードファイター、その名も『白雪』とかいうてな」
「いやこれ【アルファ】ちゃんじゃないの」
「そうなんよーもー。なーにがスノウホワイトやて勝手に名付けんといてほしいわぁーホンマになぁー」
「あらあらあら…………まぁすごい。高難易度メニューを連続制覇、だって。見た目によらずいっぱい食べるのねぇ、あの子」
ちなみにこちら、お紅茶をはじめとするソフトドリンクはおかわり自由。ハーブティーやブレンド等ずらり並んだ茶葉の数々は、下手なファミレスをも凌駕する充実の品揃えである。
多感なお年頃である『魔法少女』の気を引き『アトリエ』に入り浸ってもらおうという、行政の涙ぐましい努力が見て取れる癒しの空間。……そんな居心地の良い談話室の片隅にて、仲良い者どうしの賑やかなお喋りが幕を開ける。
おペイちゃん改め【麗女】の持つスマホに表示されているのは、ネット上で話題のニュースを集めた情報ポータルサイト。
普段は自分たち『魔法少女』に関する記事や、あるいは自分に関する特集記事をザッピングしているのが常だったが……その情報ポータルをここ数日騒がせているのが、例の『謎多き神出鬼没の美少女フードファイター』の存在である。
だが……ドラ子ちゃん改め【護竜】の指摘通り、いや彼女が指摘するまでもなく、記事に載っている写真には非常に見覚えがある。
この拠点、いや全国に点在する各地の『アトリエ』所属の者、いやそれどころか『魔法少女』関連の情報に耳聡い者なら、ほぼ間違いなく知っているであろう『白雪』の正体。
言うまでもなく……彼女達が【イノセント・アルファ】と呼び慕い、如何にしてお近付きになろうかと画策している相手である。
「『にぐ』ちゃんって言うのね、あの子のお名前。……お名前わかってるのに、何でわざわざ『白雪』って呼ぶんだろうね?」
「なんていうか……異国情緒あふれるカッワエエ名前やんなぁ、にぐちゃん。やっぱ外国の子なんかなぁ?」
「そうじゃないかなぁ? キレーな銀髪だったし、お目々も色素薄くて……北欧系? っていうのかな」
「そうそう、髪の毛もお目々もキレーで……いいなぁ羨ましいわぁ」
その記事曰く……北から南へ全国を股にかけ、高難易度の大食いメニューを次々に制覇しているという彼女。
行動範囲が極めて広いという特徴を考慮しても、確かに転移を使いこなす彼女ならば可能なのだろう。
総重量7kgに及ぶカツカレー、超特大の海鮮丼、食パン4斤の超重量級ハニートースト、うず高く積まれたタワーハンバーグなどなど……いい歳した男性チャレンジャーであっても手を焼く品々を、涼しい顔して悠然と片付けていったのだとか。
そんな実力に加え、彼女自身の容姿もさることながら、毎回非常においしそうに食べ進めるその姿勢と相まって、高い人気と話題性を誇っているのだとか。
……まあぶっちゃけてしまうと、彼女の正体が魔法少女【イノセント・アルファ】であることは、もはや公然の秘密である扱いらしい。
とはいえ『魔法少女』としてではなく、いち個人として大食いメニューに挑む彼女に敬意を表し、あえて『魔法少女のときとは別名で呼ぼう』という運びになったのだとか。
「どォーーでもええわ! んな拘りなんて!」
「でも……おなかいっぱい食べれてるみたいで、良かったじゃない」
「それはそやけども」
以前より刺々しさが鳴りを潜めたこともあり、最近は『アトリエ』内でもいろんな魔法少女から大人気だという【イノセント・アルファ】。
直接お世話になった子も、まだ遭遇したことがない子も、『もし会えたら何をお話ししよう』『次はどこに現れるんだろう』『【跳兎】ちゃんたちみたいにお写真撮らせてもらえるかな』などと期待に胸を膨らませている。
だが……事務局の大人達や、一部の魔法少女が知っている、魔法少女【イノセント・アルファ】の一面。
【麗女】らも知るところとなったそれは……頼るべき保護者も居らず、着るものにも難儀しており、それでありながら他人に気を配る慈悲深さを備えた……『行き過ぎた自己犠牲』とでも言えてしまう程に、危うげな一面であった。
それだけに、彼女がこうして『お腹いっぱいごはんを食べている』ということ。
その事実が知れただけで……たとえ事態は何も好転していないとしても、ひとまずは『ほっ』と胸を撫で下ろしたくなるような心境であった。
「……なんか、けーちゃんも最近関東で色々と動いとるらしいなぁ。前5〇1買いこんどったのもそれ関係やろ? ほんま『頑張り屋』さんやん」
「いいなぁ、私ももう一回【アルファ】ちゃんなでなでしたいなぁ」
「笠松っさんに聞いてみる? 近畿でも極秘作戦やらんのーって」
「教えちゃったら極秘じゃなくなっちゃうし、そもそもわたし達って『脳筋』の類だからねぇ」
「そやねぇ……魔物潰す全振りのステやもんねぇ……」
儚げで幼気な少女らしからぬ、随分と『やんちゃ』な様子に多少面食らいはしたものの、元気で健やかそうな【アルファ】ちゃんの様子を記事から読み取り、思わず笑みが溢れる二人。
『魔法少女』関連ニュースだけに留まらず、どんどん活躍(?)の幅を拡げていく彼女のことを微笑ましく感じる反面。
「わたし達も負けてられないねぇー」
「おっ? ドラ子ちゃんやる気満々ウーマンやないの。ええやんええやん、訓練所行く?」
「『待機』終わったらね。あと3時間、おしごとがんばろ」
「…………そうやねぇ。うちも周回がんばらんと」
「んふふふ。……そういえば、お目当ての子は引けたの? 茶の湯ジト目ロリおいしいですー、って言ってたじゃない?」
「天井やった。もううちのお財布さんはボロボロでドボドボよ……」
「してたかぁ爆死」
なかなか染まらない高潔な真白に、ほんのちょっとずつ様々な彩りが加わっていくことを、好ましく感じながらも。
その内には『負けてはいられないな』『もっと強くならないと』『こののんびりし終わったら本気出そ』といった、並々ならぬ上昇志向が顔を覗かせる。
長らく『強者』として君臨してきた彼女達だったが……過日の『亀さん』との戦闘は、久しぶりに力不足を味わう結果となったのだ。
関東圏の『とある二名』同様、更なる高みを目指す切っ掛けが『白銀の魔法少女』であろうことは、もはや疑う余地も無い。
良い悪いはさて置き、魔法少女達から様々な影響を受けつつある【イノセント・アルファ】ではあったが。
その実【イノセント・アルファ】もまた、多くの魔法少女達に……こちらはほぼ『良い』一辺倒の影響を、確実に与え始めていたのだった。
あわてて書いてるので誤字がめっちゃあります
誤字報告とてもたすかります……ありがとう……