国家指定対災調査員事務局 関東第三支部
9/20付のLFデイリーにて、なんとびっくり6位に入っていました!!わが目を疑いました!!!!はわわ!!!!
多くの方々にお目通し頂き、またご評価頂き、とてものことですごくわたしはうれしいです!!
すごくとてもたくさんありがとうございます!!
うれしかったので午前中の仕事サボって仕立て上げました。
ストック無いので更新は不定期ですが……よろしければ宜しくお願いします!
『ちょ、ちょっ、すみませんちょっと待って下さい。待って、待っ…………え? 嘘でしょう? そんなワケさすがに』
「いえ、ほんとに……嘘だったら良かったんですけどね。……少なくとも、普通にお店で買えるような下着じゃなかったです。ありあわせの布で、自分で作ってみた……みたいな」
『…………ぇえ、そん………………ぇえええ』
「……いちおう、店員さんもその場に居合わせたので……『しまうら鷹森店』の『モトムラ』さんって店員さんに確認取って頂ければ」
『いえ、すみません。そこは疑ってないんですが……しかし、ある意味信じ難いと……いや『自作の下着』って…………ぇえ』
この世界に受肉を果たし、災いを齎す『魔』の存在である『災魔』。
その対処を主任務とする国家指定調査員、俗称『魔法少女』。
そんな『魔法少女』達の職場にして、詰所にして、司令部にして、溜まり場でもある多目的拠点……通称『アトリエ』。
関東地方に複数存在するうちの一つ、その会議室にて……とても信じがたい報告を受けた画面越しの中年男性と、とても信じがたい報告を上げざるを得なかった少女、ついでに機器操作を担当する中年男性が、揃って頭を抱えていた。
今日はもともと当直に入っていない非番の日であり、本来ならば顔を出す必要も無かった少女であったが……かといって『顔を出してはならない』わけでもない。
私用で街に出ていた際に遭遇したとある出来事について報告を上げるため、映像通話会議環境が整えられた事務局へと顔を出した次第である。
『…………すみません、取り乱しました。続けて下さい』
「はい。……それで、お洋服……っていうか、主に下着を買いたかったみたいなんですけど……持ってたお金が、ちょっと変だったんです」
『…………変、とは?』
「お財布も無くて、素手で持ってたんです。……一万円札を、一枚だけ」
『それは……確かに。変というか、奇妙というか』
「誰かから貰ったお小遣いのかなって思って、聞いてみたんです。そしたら『大丈夫、ちゃんと自分で稼いだお金だ』って」
『…………………………』
「…………………………」
「…………あ、あの?」
映像通話先の中年男性と、会議室内に同席していた実務担当中年男性の両名は、告げられた報告を理解するとともに息を呑み……言葉を失う。
報告を上げている【神兵】の魔法少女本人、未だ在学中の少女がそのことに思い至っていないことを祈りつつも……あの白銀の少女が金子を『自分で稼いだ』と聞き、嫌な予感が湧き立たずにはいられない。
戸籍も持たず、満足に食事も摂れず、着るものにも難儀している……しかし容姿は非常に整っている少女。
マトモな生活環境を持ち合わせないであろう少女が、数百円や数千円の規模ではなく『万札』を稼ぐ手法など……軽く考える限りでも、そう多くはないように思えてしまう。
どうか只の下らぬ勘違いであってくれ、何かの思い違いであってくれと。
衝撃的な報告を上げた【神兵】の言葉を受け、大人達は血の気が引く音が聴こえたような心境で、そう祈らずには居られなかった。
『…………そう、ですね……【神兵】さんの対応で、全く問題ありません。ありがとうございました。経費として事務局で支払いましょう。……ほんの僅かとはいえ、【アルファ】さんが受け取ってくれたのは有り難い。此方としても救われた気分です』
「大臣、しかし…………しかし!」
『解っています支部長。国家指定調査員『魔法少女』達を預かる立場としても、またこの国の現状を憂う一人の大人としても……彼女【アルファ】さんの置かれる状況が、このままで良いとは思っていません』
少なくとも表面上は平静を取り繕った本鳥羽大臣は、今回の【神兵】の対応に心から感謝の意を述べる。
加えて……謝意も誠意も伝わらぬと知りながらも、魔法少女【イノセント・アルファ】への接触について、改めて思考を巡らせる。
とはいえ接触する機会を得ることは叶わず、また直接感謝の意を示すことが出来ない大人達にとって……今回のケースのように魔法少女達を介して謝意を示すことが、現状唯一残された手段であるといえる。
実際に彼女【イノセント・アルファ】に助けられたという魔法少女は、決して少なくない。儚げな容姿と絶対的な実力を備える彼女に対し、日頃から『彼女に会いたい』『お礼を伝えたい』『仲良くなりたい』と願う魔法少女達もまた、少なくないどころか大多数なのだ。
そんな彼女達の気持ちを『利用する』と言えば聞こえは悪いが……今回のようなケースを参考に、なんとか彼女の生活を支援することは出来ないだろうか。
……もっとも、彼女と遭遇することが、まずもって困難であろう。思うようにはいかないだろうと理解しているが。
「…………そういえば大臣、先日の【神鯨】さんの『作戦』は」
「えっと……失敗した、って言ってました。みうさ……【神鯨】さん」
『えぇ、私の方にも報告頂いてます。……なんでも聞くところによると……自分は『満腹だから』と遠慮して受け取らず、年少の……近畿第二の【跳兎】さんと【導犬】さんに振る舞った、と』
「あの二人は……! ……はぁ……悪い子じゃない、いや……素直で良い子なんですけどね」
「無理もないですよ、あの子たちには『作戦』教えてなかったんでしょう? ……半泣きでしたよ、【神鯨】さん。『お腹空いてないわけないのに』って」
『渡すものも悪かったのかもしれません。……日持ちするものであれば、あるいは…………えっ? 何です? …………えっ!? あっ……すみません、【神兵】さん、平林支部長、時間が』
「あぁ………、承知しました。お忙しいところ、ありがとうございます」
「あっ……ありがとうございました! 本鳥羽大臣!」
『いえいえ、こちらこそ。……また何かありましたら、お願いしますね』
大型モニターに映し出されていた中年男性が、ばたばたと慌ただしく姿を消し……程なくして映像出力信号そのものが途切れる。
多忙な『大臣』の職責に就く者の、僅かな空き時間を使った突発的な会議ではあったが。
この場に居合わせた者の……そして同じ組織に籍を置く者たちの想いは、今や自然と一致していた。
全国を股にかけ、誰よりも積極的に、誰よりも多くの災魔を下し……しかし決して報われない。
私生活は崩壊し、国の支援からも見放され、かと思えば一方的な訓示に怯え身を隠す日々。
そんな彼女を、しかしこのまま眺めているわけにはいかない。なんとかして報いたいと思い続けてきた者達の想いが……ほんの一片、無理やりとはいえ、しかし確かに届いたのだ。
「……やはり…………月並みな言葉ですが、『仲良くして頂く』のが……一番の近道なのかもしれませんね」
「私もそう思います。……たしかにあの子は、口も悪いし態度も悪いし聞き分けも悪いし、頑固だし強情だし非常識だしあとハレンチだし、ダメなところいっっっぱいあるけど」
「随分あるんですね……」
「でも! 可愛いし強いし良い子だし優しいし、あとちょっと抜けてるけど可愛いし、ぶすっとした顔も可愛いし……とにかく良いところもいっっっっぱいあるんです!」
「随分と、その……気に入ってるんですね?」
「もちろん! 私も、あともちろん理沙ちゃ……【星蠍】ちゃんも! あの子とずーっと仲良くなりたくって!」
確かに、初めて相対した『白銀の魔法少女』から心無い言葉を投げられたときは……悲しかった。憤りもした。
【神兵】と【星蠍】……関東第三の主戦力と言われる自分達は、これまで多くの魔物を倒してきた実力者だ。
多くの仲間や後輩を守ってきたという自負もあるし、またこれからも皆を守っていく立場なのだと、当たり前のように考えていた。
だが……あの『人語を話す鎧の魔物』と会敵し、上には上がいるのだということを思い知り、【星蠍】ともども一時は塞ぎ込みもした。
上位だと信じて疑わなかった自分達の実力が、まだまだ未熟なのだと思い知った。
何よりも……自分たちが守りたいと願う存在である、自分たちよりも年下であろう少女に、助けられた。守られた。命を救われた。
そのことに悔しさを感じたのは事実だが……また同時に、嬉しくもあった。
自分たちにもしものことがあっても、仲間を、後輩を守ってくれる者が居る。
自分たちに勝てない相手が現れても、助けてくれる者が居る。
自ら望んだこととはいえ、多くの人々の命と生活を背負ってきた自分たちには……その残酷な事実は単純に、とてつもない安心感をもたらしてくれたのだ。
「だから……たとえあの子が、私や理沙ちゃんに『会いたくない』って思ってたとしても! ……それは、確かに……とっても悲しくはあるけど…………でも、あの子が私たちの『希望』でいてくれることは……変わらないから」
「…………仲良くなれると、良いですね」
「はいっ!」
規格外の闖入者、白銀の魔法少女への『敵意』を込めた視線など……既に【神兵】【星蠍】は持ち合わせておらず。
顰められたその視線に篭められていた『負の感情』とは……憧れに追い縋れない『悔しさ』と、そして嫌われているという事実に対する『悲しさ』に他ならない。
しかしながら、奇しくも【神兵】本人によって齎された、ほんの些細な希望を見出し。
不器用かつ乱暴な物言いの少女であり、しかし話しかければきちんと返してくれる子であり……そしてその根底では確かに『魔法少女』たちの身を案じてくれている、不器用で優しい子なのだということを感じ取った。
未知そのものであった【イノセント・アルファ】を、ほんの少しだが『既知』に出来たのだ。
この日を境に……関東第三所属はもちろん、多くの魔法少女達の『【アルファ】ちゃんと仲良くなりたい』ムーブメントは。
全国規模で、同時多発的に、一気に盛り上がりを見せていくことになる。
……………………………………………と。
まさかのまさかそのまさか、知らないところでそんな盛り上がりを見せていたなどと。
そんなことなど当然知る由もなかった【イノセント・アルファ】本人は。
初めて身に着けるぴったりサイズの下着の、予想以上の着心地と肌触りの良さ、その衝撃に打ち震え。
また……嫌われていると思っていた相手に見繕って貰った『常識的な女の子らしい装い』の、その惚れ惚れする出来栄えに。
「…………よし。スー、私はちょっと地表散歩して来る。何か異常あったらすぐに知らせろ」
『了解。艦長ニグ現在ステータスは『非常に上機嫌』であると判断致します』
「まぁ……否定はしないがな」
『ほんのちょっと関係が改善したと』思い込んでいる魔法少女に揃えて貰った衣類一式に身を包み……無防備にも、そして呑気にも街中へと繰り出していき。
直接面識のない(と本人は感じている)少女達からの立て続けの、そして様々なアプローチに……しばらくの間、困惑し続けることとなる。