報告
…………あー、えーっと……『沖富白島放送局』をご覧の皆様、……えー、こんにちわ。沖富白島資源開発局、えっと……広報官、の……『衣乃瀬未来』……です。
資源開発局より、調査報告……第三回目となる調査報告、を……えー、お送りします。
調査報告……今回これ第三回目、ですが……本日も前回に引き続き……えー、沖富白島開発状況の進捗について報告しよ…………ご報告、いたします。
えー、はい。……前回、第二回の調査報告では、ですね……『沖富白島灯台』の設置に関して、報告させて頂きました。……はい。あっちのトラス構造のやぐらがソレですね。
……そもそもこの沖富白島は、これまでは深い海だった場所にいきなり出現した火山島となるので……周辺を航行する船舶の安全のために、灯台施設の設置は喫緊の課題でした。
灯台整備関連に関しては、前回の報告を参照頂ければと思いますが……ともあれ、これで外への務めは果たせたので、今回から本格的に島のこと、島内のことについて報告してこう…………ご報告、させて頂こう……と、思います。
この島『沖富白島』は、東京の南およそ1,500kmの海上に位置する火山島です。
島の大きさや島が発見された大まかな経緯なんかは、調査報告の第一回をご覧頂ければと思うのですが……今回の調査報告は、この島における『産業』についてです。
専門家の調査によると、この島には豊富な地下資源が眠っていると考えられるそうで。
もともと水深およそ4,000mの海底火山が噴火して生まれた島なので、マグマに含まれるといわれる金や銀、その他希土類元素を採掘できる可能性が高いとのこと。
現在私達は、主に調査人員用の滞在環境整備の手伝いを請け負ってるわけ…………請け負っているわけなのですが……そちらの環境が整ったら、順次作業スタッフを受け入れ試験採掘を行っていく予定、です。
……私達の『転送』技じゅ……えー、『転送魔法が』、こんなことに役立つとは……光栄です。
また、もう一点。現在はまだ試行錯誤の段階ですが……将来的な食糧自給を目指し、食用作物の栽培試験も開始しました。
私のむすっ…………妹達が主導で取り組んでいる『農業試験』なのですが……結論から言いますと、日本本土で行っている一般的な畑作を行うには、まだまだかなりの手間が掛かりそうです。
原因というか、問題は幾つかあるが……あるのですが…………とりあえず、三つ。ずばり『土壌』と『水』と『虫』です。
まず『土壌』ですが……これは簡単といえば簡単、この島は単純に『土』が無いから。
地盤は冷え固まった溶岩であり、その上を火山性噴出物……軽石や火山灰が覆っているのが、この『沖富白島』の地面です。
地中のミネラルやら養分やらを得やすいのは良いことなのですが……普通は土中に存在するはずの微生物が現状『存在しない』ないし『限りなく少ない』ため、有機物の分解能力が非常に低いです。
これに関しては、他の島や……いっそ日本本土から直接『土』を持ち込むことで解消できるだろうというのが、対策チームの見解です。
つぎに『水』ですが、これも見ればわかると思います。この島にはもちろん水道なんてありませんし、水路や川もありません。
また……島全体がなだらかな円錐形に近い形状なので、水を溜め込む池も無いし、またダムなんかも造りづらい。
単純に地面掘るか、もしくはコンクリなんかで貯水池を造れば解決出来るとは思う……ので…………このあたりも有識者と協議してこうと思う。……思います。
そして三つ目、意外かもしれないが『虫』の存在。これがこの島には欠けてるわけだ…………わけ、です。……もういいか。
…………『害虫が居ない』というのは良いことだと思われがちだが、この島には『益虫』さえも存在しない。受粉の手助けをするミツバチやチョウなんかも居ない。これら昆虫を受粉に用いるような植物は、ヒトの手で受粉を手伝ってやる必要がある。
これに関しては……単純に連れ込んだところで、彼らの住環境を整えてやらなきゃ、その場凌ぎにしかならんだろうな。
餌場や棲家など、島全体で総合的に環境を構築してやらなきゃならんわけで……気長にやるしかない。
……まぁそんな感じで、『産業』関連の進捗は……現在のところは、こんなもんだ。
正直どちらもまだ『準備段階』ではあるが……ゆくゆくはこの『沖富白島』で立派な産業を起こせるよう、私達『資源開発局』主導で取り組んでいく次第だ。
今後も『沖富白島放送局』として、定期的に調査報告を更新していく予定なので……どうか、温かく見守っていてほしい。…………です。
それでは、第三回調査報告は……このあたりで。
沖富白島資源開発局、広報官の『衣乃瀬未来』がお送りしました。
「かあさま〜〜〜〜キャラがぁ〜〜〜〜」
「仕方ないだろう! ずっと丁寧語とか違和感が半端なさ過ぎるんだって! そもそも広報なんざ私には不向きだってわかりきってただろうに!」
「んゥーー…………でもでも、ワタシはニホンゴがぽやぽやです。スーもおしゃべりは苦手です。かあさましかいません」
「…………がん、ばって……かあさま」
「理解してるが! ……いや、だからもう素でいいだろ。普通に報告上げる分には何も懸念は無いんだよ私は」
「だってだって、かあさまのおしゃべりは『きむずかしいオッサン』みたいですって。プリミシアから『かわいらしいキャラで』オーダーを届いています」
「火口に投げ込んじまえそんな注文」
さて、この火山島で好き勝手に遊び回ってしまおうと画策していた私達だったが……結論から言おう、なんと政府公認で(※地球文明の常識の範囲で)好き勝手できるようになってしまった。
また……それに伴い、長いこと宙ぶらりんだった私達の身分に、晴れて『日本国籍』という肩書が追記されることとなった。
ディンやスーは当然ながら初の、私にとっては半世紀ぶりとなる日本国籍。あまり実感が湧かないが……様々な思惑があったとはいえ、関係各所が色々と動いてくれた成果である。ありがたく頂戴しておこう。
先程の調査報告動画にて名乗った『衣乃瀬未来』というのが、私の戸籍名……要するに【イノセント・アルファ】ではないときに名乗る用の名前、というわけだ。なお名前以外は何も変わらないものとする。
ともあれ、こうして晴れて『身分を保証された日本人』となった私達。日本国における現在の私達の所属は、ずばり『沖富白島資源開発局』となっている。
組織図的にはプリミシア局長の下であり、つまりは伝接のユシア課長はじめ魔法方面に達者な同僚が少なくないらしく。
要するに、色々と極秘事項の多い部署である。
とはいえ、その『資源開発局』の実態はというと……書類上のみの存在となる架空の人員が大多数を占め、実際の実働要員は私達【タイプ・ヴォイジャー】が三機とシシナさんのみと、完全に『私達が好き勝手できる』環境が整えられていたりする。
裏を返せば、私達四名のみで『資源開発局』としての成果を出さなければならないのだが……まぁ他人の目が無い環境で『好き勝手』できるのなら、容易いことこの上ない。
滞在施設となる揚星艇や輸送艇、輸送にかかわる費用も時間もゼロにできてしまう『転送』機能、複合マニピュレーター【ジェミニ】をはじめとする各種作業装備、そして私達の標準機能である精密重力干渉。
それらを遠慮なく活用すれば……資材さえ揃えば専門業者を手配する必要なく、迅速な設営が行えるのだ。
灯台設置の草案を提出したときのプリミシア局長、ならびにユシア課長の反応を窺う限りでは……まぁ、圧倒的な低予算と短工期の実現に貢献できたようで、私達としても誇らしい限りだ。
真顔で『いや……正気か?』『桁が二つほど間違ってないか?』『嘘だドンドコド』とか言われたもんな。
しかしながら、こうして実際にちゃんと『お仕事』のほうも真面目に取り組んでいるのだが……共犯者をはじめとする内部はそれで納得したとしても、外部は黙っていないだろう。
しかし、それも当然だ。なにせこの状況、一般の目からすれば『話題性抜群の火山島の開発事業がいきなり始まったかと思えば、責任者は得体の知れない子供』なのである。
常識的な思考を持つ有権者および納税者であれば、さすがに『ちょっと待て』と言いたくもなるだろう。
だからこそ……こうして外部の人々に向けて、事情と現状を公開していく必要があるのだとか。
別に写真や文章でも良いのではないかと思ったのだが……上司が『ぜひ動画で』と声高に主張してしまったのだから、一応は部下である私は従うしかない。
幸いというか、あんなのでもそれなりの成果は出ているらしい。
これまで二回ほど後悔……もとい公開してきたが、素人丸出しの私の説明でも溜飲を下げてくれる人はそこそこ居るらしい。
上司らと相談の上で建てられた計画に沿い、誰にも見られる心配のないこの孤島で、私達の機能を以てスケジュール通りに作業を進め、一般公開用の報告動画を定期的に撮影する。
それが今の私達の『お仕事』であり、一般の人々へ向けての『顔』なのである。
幸い、というべきだろうか……今となっては遠い昔のようにも感じてしまうが、魔法少女達の活動支援組織である『特定害獣対策室』から連絡用の通信端末を貸与された際、先輩の指導の下でSNSのアカウントを取得してあったのだ。
ただその際私は、どんどん膨らんでくる新着通知の数と鳴り止まない着信音に恐れ慄き、通知をカットしSNSごと封印していたという経緯があったのだが……およそ一年のときを経て、ついにその封印を解くに至り。
私こと【イノセント・アルファ】こと『衣乃瀬未来』の近況報告、兼『沖富白島資源開発局』の非公式アカウントとして再利用することとなり。
こうして定期的に、私個人が『動画』の形で『調査報告』を上げることとなっ(てしまっ)たわけだ。
『かあさまニグ。局長プリミシアよりリアクションを受信しました。仔細を共有……『良いね。今日も可愛いよ』とのことで――』
「相変わらずだなあの色ボケ魔王。ルルちゃんの鼻ドアップでも送り付けてやれ。……まぁオッケーも出たことだし、投稿っと」
「かあさま、かあさま! ワタシは輸送艇帰還しました! 分譲地造成工事現場、土砂ぐっぽりもらってきました! 土中微生物さんもミミズさんもいっぱいげんき、畑をよいよっしょできます!」
「えらいぞディン。……よし、じゃあ第二期耕作予定地に投下。枠は出来てるからな」
「んゥー! ワタシはオーダーを受領しました、お仕事に取り掛かります! 輸送艇を回送、いってき……ミミちゃんもいっしょ! いってきます!」
「気をつけてなー」
『…………かあさまニグ、ワタシがディンのフォローおよびモニターに注力した際、作業効率ならびに取得データの精度が見込まれます。今後の開発計画におけるデータ収集の重要性は――』
「あぁそうそう。スー、悪いがディンの手伝いに行ってやってくれ。ススちゃんとテテちゃんも稼働中だろ? 投下位置を指示出来るヤツが居たほうが楽だろう」
『…………! ご命令とあらば』
「ふふ。頼んだぞ、スー」
『はいっ。…………かあさま』
まぁ正直……成果のみを求めるのなら、いくらでも『ズル』出来てしまう余地はあったりする。
実際『表向き』の調査報告に載ることは無いが……この島の地下深くでは既に、地熱発電設備ならびに逆浸透膜型の淡水化設備が絶賛稼働中である。
そこから齎される電力と真水を用い、また地底の岩盤をくり抜き、全天候型水耕栽培の地下施設を建造することも、問題なく可能なのだろう。
だが、他でもない娘たちが『それは嫌だ』と……地上に畑を作って野菜を育てたいのだと、自分たちの『わがまま』を述べたのだ。
元より明確な納期もない、多分に好き勝手出来る開発計画である。
あの子らの抱いた願いを尊重し、存分に観察を行い、好奇心を満たしながら進んだところで……何の問題もありはしないのだ。
「ああー! ロカちゃん、ロカちゃん! 畑は入っちゃダメ! ワタシとスーは退去を要請します! 土は畑なので、玩具ではありません!」
『…………わたしは理解します。ディンに謝罪が充当します。わたしは知識を持たない、しかし原因は理由によって、わたしの謝罪です』
「んゥー! ロカちゃんも見学、いっしょを提案します! ワタシとスー、畑のお勉強です!」
『…………わたしは興味を持ちます。知恵の者、エネルギー源を作る行為。それはアルガではない物質の生成であり、それは『アガルタ』所持しません』
私の見守る先、少女型アンドロイドと巨大な白蛇が織りなす、現実離れした畑作が繰り広げられていく一方で……私の手の中にあるコレも、通知まわりがちょっと現実離れした光景となりつつあったりする。
SNSに『調査報告』を投稿してからほんの5分そこらだというのに……多くのリアクションに加え、個別メッセージでの反応も(主に魔法少女達から)次々と寄せられてくる始末である。
まったく……まさかこんな、投稿して直ぐに反応されるとは。あの子らはもしかして暇なのだろうか。
まぁ、過酷な青春を送る彼女達に、少なからず『楽しみ』を提供できているのなら……私としても嬉しい限りである。
それじゃあ私は、今日も今日とて……彼女達への返信に追われるお勤めを始めるとしますか。