13・死(とリンゴと小人たち)
「死んでしまったね」
「うん、死んでしまったね。ばたりと倒れて、死んでしまった」
「ぼくらの可愛い女の子は、林檎を齧って、死んでしまった」
「可哀そうな子だったね。絹糸のような漆黒の髪、血の紅のようなくちびる、純白の初雪の色の肌を持つ、可愛いかわいい子だったね」
「『そんな美しい子供がほしい』って、お母さんがお祈りして、神様が願いを叶えてくださって、それで産まれた子だったのにねえ」
「あんまり子供が美しすぎて、お母さんはひどく焼きもちを焼いたんだ。子供を憎んで、自分の国から追い出したんだ」
「お母さんが女王だから、この子はお姫様だったのに。追い出されて絹のドレスもぼろぼろになって、ぼくら小人の棲む森の奥までやって来たんだ」
「ぼくらには千里眼があるから分かる。お母さんの女王様は、今は自分の若い従者に夢中なんだ。寝ても覚めても彼のことばかり考えて、この子のことは忘れてしまった」
「だから何も、この子が死ぬ理由はないのにね」
「お前がいけないんだよ。お前がこの子に、ちゃんと教えなかったから。
ぼくらの庭に生えるリンゴの木。雪の降る頃花を咲かせ、実をつける魔法の赤いリンゴは、ぼくら小人には美味しくても、人間には毒なんだって」
「お前だって教えなかった。ぼくだけが悪いんじゃないさ」
「――ああ、それにしてもこのお花みたいなこの子の体臭! この子は本当に美味しそうだ!」
「美味しそうだねえ、本当に!」
* * *
ぼそりぼそりと話していた七人の小人たちは、お互いの顔を順繰りに見回して、小さなのどをごくりと鳴らした。
――数時間後、どこかの国の王子様が、お忍びでこの森を訪れた。
王子がここで目にしたのは、齧りかけのリンゴ一つと、七人の小人きりだった。
少し前、ちらりと降った初雪は、ほのかに積もってすぐ溶けて、今は小人たちが狂ったように踏み回った足跡ばかりの泥の地面。
王子はふんふんと形の良い鼻をうごめかし、小人たちにこう訊ねた。
「何だろう、ここら辺りにはひどく良いにおいがするのだが……。
お前たち、ここには何人か他にいるのか? 最高級の香水をつけた、見目麗しい女人などいらっしゃるのだろうか?」
小人たちは口をそろえてこう答えた。
『いいえ、どなたもいらっしゃいません!
そもそもこの甘いにおいは、香水などではとても出せない、自然で甘い良い香り、きっとそこにあるリンゴの木の、花のにおいでございましょう!』
「そうだろうか? ……そうだろうな。
やれやれ、お忍びで嫁探しに来たというのに、今回もまた空振りか……。
ああ、我はどうしても美人だが性格のねじ曲がった、隣国の姫と結婚しなくばならないのか?」
そうして王子は嘆きながら、また自分の国へ帰っていった。
かくして、白雪姫と出逢えなかった王子様は気に入らぬ相手と結婚し、嫌々相手を「愛し」ながら、国を護って老いて死んだと、これがおとぎ話の真相さ。
……ん? 「それじゃああんまり救いがない」って?
お嬢ちゃん、おとぎ話はこの世界にも異世界にもいくらもあるよ。
「そのうちの一つくらいは、こういう結末だってあるだろう」って、つまりはそういう理屈だよ。
――おっと!
お嬢ちゃん、その真っ赤につやつやとしたリンゴ、食べても本当に大丈夫かい?