シャクナゲ~警戒~
王都からは、大きな街道がいくつも出ている。
エッジさんと相談して、まずは南の街道を行くことにした。
国境沿いの谷に、珍しい花が咲くのだという。
革鎧も服も平民の旅人と同じようなものを身につけ、剣はエッジさんの助言で細剣に変えた。
私は筋肉があまりないから、片手剣では重くて扱いにくかったが、近衛騎士団では片手剣しか装備できない決まりだったから、仕方なかった。
扱い方がだいぶ違うが、エッジさんに一通り教えてもらうと、なんとか形になった。
のんびり歩いて、植物観察をして、時にはエッジさんに剣技を教えてもらいながらの旅は、とても楽しかった。
街道を一週間ほど進んで、とある村についた。
宿屋兼酒場に向かい、エッジさんが部屋の交渉をする。
十代前半の少年に見える私が交渉すると、ぼったくられたり手入れの悪い部屋をあてがわれたりすることもある。
アンさんの家から王都へと戻る旅路から、交渉事は任せてくれとエッジさんに言われたから、ありがたくお願いしている。
無事に部屋を決めて、奥まった席で夕食を取る。
エッジさんはいつもなるべく奥の席を選び、食事中でもマントのフードを取らない。
『敵が多い生き方をしてきたから』だそうだ。
戦争中の国に雇われて傭兵をしていたこともあったから、当時の恨みを晴らそうと襲いかかってくる人が時折いるらしい。
だから外ではなるべく名を呼ばないようにとも、旅の当初に言われていた。
顔を隠しているのに、名前を呼んだら意味がないのはわかるが、少し寂しい。
同じような理由で、私達の関係は【植物学者希望の裕福な家の少女】と【道案内兼護衛】だと答えるよう言われている。
もっとも、ほとんどの人には私は少年だと思われているようで、二人部屋を希望しても特に何か言われたことはない。
ぽつぽつと話しながらの食事の後、エッジさんは酒を頼んだ。
私なら匂いだけで酔ってしまいそうな強いものを、いつも何杯も飲む。
それでも悪酔いもしないし二日酔いにもならないのだから、感心してしまう。
エッジさんが言うには、慣れと体質の差らしい。
私は酒に弱い体質らしく、すぐに酔っぱらって眠ってしまうから、飲みすぎるなといつも言われていた。
果実酒のごく薄い湯割りを少しずつ飲んでいると、ふとエッジさんが顔を上げた。
つられて同じ方向を見ると、がっしりとした体格でいかつい風貌の傭兵風の男が近づいてきた。
「よお。まだ生きてたか。
連れがいるとは珍しいじゃねえか」
エッジさんは少しだけフードを上げ、男を見てかすかに笑う。
「あんたは、相変わらず一人か」
「ああ」
男はどかりとエッジさんの横に座った。
傭兵時代の知り合いだろうか。
珍しくエッジさんは気を許しているようだ。
男からちらりと視線を向けられて、軽く会釈する。
「こんばんは」
「……おう」
うなずいた男は、エッジさんを見てにやりと笑う。
「珍しいタイプだな。
護衛か? 道案内か?」
「両方だ。
最近西はどうだ」
「リバーランドの動きが怪しいな。
武器や傭兵を大量に集めてるらしい」
「リバーランドか……」
エッジさんは硬い声でつぶやいて、ちらりと私を見る。
「カウンターに行ってろ。外には出るな。
何かあったらすぐ呼べよ」
「……はい」
うなずいて立ち上がり、コップを持ってカウンターに向かう。
追いはらわれたような気がして少し寂しいが、話の邪魔をしたくないし、血生臭い話を聞かせたくないという気遣いだともわかったから、終わるまでおとなしくしていよう。
カウンターの端の席に座り、コップを両手で包むように持って少しずつ飲んでいると、隣の会話が聞こえてきた。
「きみを見てるともうドッキドキだね。
心臓やばいぐらい。
かわいすぎて困っちゃうね」
「えー」
若い男の軽い口調に、その隣の若い女がくすくすと笑う。
「いやもうほんとだって。
このままじゃ俺死んじゃうよ。
ね、だから人助けだと思ってさ」
「人助けならしてあげたいけど、連れに怒られちゃうから。
じゃあね」
笑って言って女が出ていくと、男はおおげさなため息をつく。
「あーくそまたふられた」
酒をあおって、私の視線に気づいたのか、くるりとふりむく。
「なんか用?」
「あ、いえ……」
私よりいくつか年上ぐらいの青年で、それなりに整った顔をしていた。
流れの剣士風の革鎧姿で、腰の長剣もよく使いこまれている。
じろりと私をにらんだ青年は、ぱちぱちと瞬きをすると、突然笑顔になった。
「ごめん、きみ女の子なんだね。
俺に何か用?
今さっきフラれたとこだから、完全フリーだよ」
愛想よく言われて驚く。
「女だって、よくわかりましたね」
「そりゃあ、見ればわかるよ。
それで、何かな?」
ずいっと顔を近づけられて、軽く身体を引く。
とまどったが、さっきの会話で気になったことを聞いてみることにした。
「あの……誰かに対してドキドキするのって、その人が好きだからでしょうか」
「まあ普通はそうだと思うけど。
それがどうかした?」
「……ドキドキする時もあるんですが、すごく安心できる時もあるんです。
その違いはなんなんでしょうか」
「んー、たとえば安心できるのはどんな時?」
「え、と……少し寂しい気分の時に、頭を撫でてもらった時とか」
「じゃあ、ドキドキするのは?」
「……なんとなく見つめてたら、笑ってくれた時とか……」
言っていてなんだか恥ずかしくなってくる。
きっと顔は赤くなっているだろう。
店内が薄暗くてよかった。
「それは、間違いないね。
その相手が好きで好きでたまらないから、そうなるんだよ」
青年はどこか楽しそうに言って笑う。
「けど残念だな。
一人だったら口説こうと思ってたのに」
「え?」
「きみみたいな素直でかわいいコ、好みなんだよね」
にこにこと笑う青年を、とまどいながら見返す。
「……私、かわいい、ですか?
今まで男性にそんなこと言われたことないんですけど」
エッジさんは好きだとは言ってくれたが、かわいいと言われたことはない。
言われたいとも思っていなかったから、どう対応したらいいかわからない。
「そう? きみはすっごくかわいいよ!
きみの周りの奴は、よっぽど目が悪いんだね。
あ、でも、そうか」
青年はさらに身体を近づけて、私の顔をのぞきこんでくる。
「きっと、きみがそいつと付き合いだしたから、かわいくなったんだよ。
恋は女の子を磨くからね!」
「恋……」
今まで、異性に特別な感情を抱いたことはなかった。
エッジさんを好きだとは断言できるが、恋しているのかと問われると、答えられない。
この気持ちは、恋、なのだろうか。
「もしかして、今の奴が初めての男?」
「……はい」
「だからわかんないだけかもよ?
他の男を知らないから、比べられないだけでさ」
「……他の男の人のこと、知りたいと思いませんから」
「そうかな。
知らないよりは知ってるほうがいいよ?
たとえばさ」
言いながら、青年は私の肩を抱いて身体を密着させてくる。
「……あの」
身体を離そうとしたが、男はかまわず私の耳元で囁く。
「今どう思う? ドキドキする?」
「……いいえ」
「じゃあ、きみが好きな奴と俺と、何が違うんだと思う?」
「え……」
「ドキドキすんのと安心すんのとなんとも思わないのと、何が違うんだと思う?」
次々と言われて、頭が混乱してくる。
「わかんないでしょ?
そういうことは、数こなしてくうちにわかってくるもんだからさ」
「はあ……」
「知らないと、失敗しちゃうかもしれない。
好きな奴に呆れられちゃうかもよ?」
「…………」
確かに、私は世間知らずだと思う。
エッジさんはいろんなことを知っていて、なんでも優しく教えてくれる。
だがもしかしたら、内心呆れているのかもしれない。
「……俺の部屋においでよ。
もっといろいろ教えてあげるよ?」
耳元での囁きに、はっと我に返る。
いくら私が世間知らずでも、その誘いの意味ぐらいわかる。
「いえ、結構です」
きっぱりと言って身体を離そうとするが、肩を強く押さえられていて身動きできない。
「大丈夫。俺うまいよ?
優しく教えたげるから」
「離して、ください」
カウンターに手をついて立ち上がろうとしたが、逆にその手をつかんで引かれて姿勢を崩す。
「いいから、おいでよ」
「わ……っ」
椅子から落ちそうになったところを、背後から伸びた腕にしっかりと支えられた。
同時に肩を押さえていた手がひきはがされる。
「こいつにさわるな」
「いてて、痛いって」
私の身体を片腕で支えたエッジさんは、もう一方の手で青年の手首をひねりあげる。
「話してただけだろ、って痛たた、いや、あの、わかった、俺が悪かった! ごめん!」
エッジさんは、細身だが力は強い。
掴まれた青年の手は、指先が白くなっている。
「……あの、私は大丈夫ですから、もう放してあげてください」
「…………」
エッジさんはちらりと私を見て、男を突き飛ばすようにつかんでいた手を放す。
「二度目はない。失せろ」
「わーったよ。おーいて」
青年はおおげさに手首をさすりながら、奥の扉を開け二階へと上がっていった。
「何かあったら呼べと言ったろ」
「すみません。ありがとうございます……」
肩を抱いて促されて奥の席に戻ると、エッジさんと話していた傭兵風の男はにやにやと笑いながら私とエッジさんと交互に見る。
「ずいぶん過保護じゃねえか」
「うるせえ」
エッジさんはそっけなく言って、奥の席に私を座らせ、自分は男の向かいの席に座る。
入れ替わるように男が立ち上がった。
「へいへい。邪魔者は退散するさ。
お互い生きてたらまた会おうぜ」
「ああ」
そのまま酒場を出て行った男から、エッジさんに視線を戻す。
「すみません。
お話の邪魔をしてしまったんでしょうか」
「いや、話はもう済んだ。
……一人にして悪かったな」
優しいまなざしを向けられて、それだけで嬉しくなった。
「いえ、大丈夫です」
☆☆☆☆☆☆☆
翌朝、酒場のカウンターで朝食を取りながら女将と話していて、宿の裏の小山にシャクナゲが咲いているという話を聞いた。
このあたりでは白い花を咲かせるものはあちこちに自生しているが、宿の裏のものだけが、ピンク色の花だという。
道を聞いておいて、エッジさんの分の朝食をお盆に乗せてもらって部屋に持っていく。
エッジさんは、まだぐっすりと眠っていた。
ここ数日は休憩所で夜を過ごしていて、仮眠しか取っていなかったから、疲れているのだろう。
軽く揺すって起こして、朝食の盆を渡し、女将から聞いた話をする。
「ちょっと見にいってきますね」
エッジさんは膝に乗せていた食べかけの盆をずらす。
「俺も行く」
「すぐそこですし、一人で大丈夫です。
三十分ぐらいで戻りますから、ゆっくり食事しててください」
エッジさんはじっと私を見て、小さく息をついた。
「……剣は離すな。気をつけろよ」
「はい」
植物観察用の手帳を手に宿を出て、教えてもらった小道をたどっていると、背後から声をかけられた。
「おはよー! 昨夜はごめんね」
振り向くと、昨夜の若い青年がにこにこ笑いながらやってくる。
「さっき女将にちらっと聞いたんだけど、きみって植物学者なの?」
「いえ、いずれなりたいとは思ってますが、今は勉強中です」
「へえー。
……面白い花があるんだ。
昨夜の詫びに教えてあげるよ」
「はあ……」
昨日の馴れ馴れしい態度には困ったが、今日は手が届かない程度の距離は保ってくれている。
『面白い花』という誘いに負けて、青年と一緒に歩き出す。
道なりに進んでいくと、向かう先にピンク色のシャクナゲが見えた。
「きれい……」
十数本が固まって植わっていて、それぞれが花を咲かせている。
一つずつは小さい花だが、これだけ集まると圧巻だ。
感動してしばらく見つめていると、どこかから声がした。
「おーい、こっちこっち」
少し離れたところから手を振る青年に呼ばれて近寄ってみると、大木の陰に小さな白い花がいくつも咲いていた。
「これだよ、この白い花」
しゃがんで花を指指す青年から少し距離を取って私もしゃがみ、じっくりと観察する。
花びらは小さいが、幾重にも重なっている。
見たことのない花だった。
「常に日陰になるとこに生えるんだ。
ちょっとでも日が当たるとダメらしい」
「へえ……」
「はい、どーぞ」
「……ありがとうございます」
ぶちりとちぎった一輪を目の前に差し出されて、指先でつまむようにして受け取る。
無駄に採取はしたくないのだが、今更言っても仕方ない。
そっと目の前にかざして、角度を変えながら観察する。
「花ん中見てみて。
花粉がいっぱいついてるでしょ」
「はい」
「それ、舐めてみて。甘くて美味しいから」
「はあ」
直接は躊躇われたから、指先に少しつけて舐めてみる。
確かにほんのり甘かった。
今まで様々な花の蜜や花粉を舐めたことがあるが、少し味が違う気がする。
「これの名前、ご存じですか?」
視線を向けると、青年はにこりと笑う。
「うん。ヒカゲマジワリソウって言うんだよ」
「変わった名前で……、……!?」
ふいに身体がしびれた。
膝から力が抜けて、前のめりに倒れこみそうになったところを青年に受けとめられる。
「花粉を舐めると、身体がしびれて動けなくなるんだ。
しかも場所は日陰だ。
そのまま押し倒してやっちゃうから、マジワリソウなんだよ」
言いながら地面に押し倒される。
「な、ん……っ」
抵抗しようとするが、手にも足にも力が入らない。
服の上から胸を触られて、全身に鳥肌が立った。
「や……っ!」
「いいね、その顔。
ぞくぞくする……」
青年が私の目元にくちづけて、にじんだ涙を舌で拭う。
エッジさんに同じ事をされた時は嬉しかったが、今は嫌悪しか感じない。
「や、め……」
「大丈夫。俺うまいから。
あいつよりヨくさせてあげる」
囁きながら胸元を撫でまわされて、嫌悪感が増す。
なのに動けない。
逃げられない。
「……や、……エッジ、さ……!」
涙をこぼしながら叫んだ時、男が悲鳴をあげた。
「て……っ!」
肩に手をやって、何かをひき抜く。
ごく細身のナイフだった。
見おぼえがある。
エッジさんのものだ。
「何……!?」
振り向こうとした青年の喉元に、後ろから刃が突きつけられる。
「二度目はないと言ったはずだ」
殺気の籠った低い声に、青年はひきつった笑いを浮かべながらそろそろと身体を起こし、両手を肩の高さに上げた。
「悪かった、つい、出来心で、だから、その、命だけは助けてくれ……!」
エッジさんはマントのフードをおろすと、動けない私に目を向け、目元を険しくする。
「こいつに、何をした」
「ヒカゲマジワリソウの花粉を、ちょっとだけ。
あ、けどまだなんにもしてないから。
服脱がせようとしただけだから!」
「…………」
エッジさんの柄を握る手に力がこもる。
本気の殺気を感じて、必死に叫んだ。
「ダ、メ……!」
エッジさんはじっと私を見て、ゆっくりと剣を引いた。
「……一時間以内にこの村を出て、南以外の方向に行け。
次に顔を見たら、その場で殺す」
本気の口調に、青年はひきつった顔でこくこくとうなずく。
「失せろ」
青年が肩を押さえて逃げていくと、エッジさんは小さく息をついて剣をおさめる。
ようやく殺気が消えて、思わずほっと息をついた。
「……遅くなって悪かった」
エッジさんはどこか苦しそうな表情で私を抱き起こし、乱された服を整えてくれる。
木の根元に幹に背を預けて座り、片膝を立ててそれに背をよりかからせるような姿勢で横抱きにされた。
足元のヒカゲマジワリソウの葉を何枚かちぎって口に入れてしばらく咀嚼し、私の顎を持ち上げてくちづける。
苦い汁を移しこまれて、思わず顔をしかめた。
「少しずつ飲みこめ」
「……ん……」
それを何度か繰り返すと、少しずつ身体のしびれが薄れていく。
葉に含まれる成分で中和されたようだ。
それでもまだろくに動けなくて、エッジさんにもたれたままうなだれる。
「ごめ……なさ……」
「無理に話すな」
柔らかく抱きしめられて、涙がこぼれる。
エッジさんに告白したあの日から、私の涙腺は緩くなってしまったようだ。
「ごめ……」
「泣くな……もう大丈夫だから」
優しい声に、よけい涙が止まらない。
「泣くな……」
頬を拭って目元にくちづけられる。
はっとして顔をそむけた。
「……嫌か?」
「ちが……さっき、あのひとに、同じこと、された、から……」
「…………」
エッジさんは私の頬を包むように手を添えた。
優しい力で上向かされる。
再び目元に触れようとする唇を避けようとしたが、柔らかく押さえられて逃げられない。
「ダメ……エッジさんまで、よごれてしまう……」
「……おまえは汚れてなんかない」
何度も目元にくちづけて、あふれる涙を舌で拭ってくれる。
「他にも何かされたのか」
「……胸、さわられたけど……平気……」
「……そうか」
硬い声に含まれた怒りを感じとって、身体がびくりと震える。
「ごめ……なさ……」
「……コディ」
「ごめんなさ……怒らないで……」
まだ思うように動かない手を必死に伸ばしてエッジさんの上着の裾を掴むと、なだめるように背中を撫でてくれる。
「おまえに怒ってるわけじゃねえ。
昨夜のうちにあいつを殺しておかなかった自分に腹が立っただけだ。
そうしてりゃ、おまえが苦しまずに済んだ」
エッジさんは、私と比べものにならないほど剣技がうまいが、体術にも優れていて、ごろつき程度なら剣を抜かずに倒してしまう。
剣を抜くことがあっても、動けなくするだけで、命まで奪うことはほとんどない。
なのに、さっきも、今も、『殺す』とはっきり言った。
それほど怒っているのだろうか。
「……ごめんなさい……私が、油断したから……」
「……確かに、おまえの素直さは長所だが、警戒心のなさは、もう少しなんとかした方がいいな」
静かな声にうなだれる。
「はい……ごめんなさい……」
「いや、昨夜のことがあったのに、おまえを一人にした俺が悪かった。
……コディ」
「は、い」
「これからは、絶対に一人で出歩くな。
どこかに行く時は、必ず俺もついていく。
いいな?」
静かだが強いまなざしに見つめられてとまどう。
「……でも、それじゃ、エッジさんに迷惑……」
「迷惑なんかじゃねえ」
エッジさんは苦しげに息をついて、強く私を抱きしめた。
「俺がそばにいない時に、おまえに何かあったらと思うだけで耐えられねえ。
だから、俺のそばにいてくれ。
……頼むから」
どこかすがるようなせつない声に、胸が苦しくなる。
「……はい。
エッジさんから離れません。
一人では出歩きません。
ずっと、そばにいます」
「……ああ」
約束の印のように、そっとキスをかわした。