密室でプロポーズ
ありえない…。
びびりの彼氏を連れて訪れた「リアル脱出ゲーム」の一室で、私たちはリアルに、脱出できない密室に閉じ込められてしまった。
「ねぇ、サキちゃん、ちゃんと側に居る?停電、なんとかならないかなぁ。」
隣に座っている彼氏は、暗闇になってしまったこの部屋に不安を募らせる。
(ほんとに、頼りないな~。)
彼と付き合い出して、3年。そろそろ結婚かな?なんて思っているんだけど、彼の煮え切らない態度とか、このポンコツぶりに私は一抹の不安を覚えた。
(いざと言うとき、彼はどうするんだろう?)
そんな思いから彼を試すために、この施設を訪れた。しかしゲームが始まってそうそうの停電により、この部屋のすべての扉がロックされてしまった。店員さんは停電の処理に向かってくれているので、大人しく待っているしかない。
「ねぇ、サキちゃん。」
「何よ。」
「手、繋ごう。」
彼は安心したくて、私の温もりを求めている。
「そう言うのって普通、女子が男子に言う台詞なんだけど。」
「だって、サキちゃんが言ってくれないから。」
彼は半べそ。私の口からは大きなため息。
(本当に彼とこのまま一緒にいて大丈夫かな~?)
この危機的状況で、私は彼のへたれ度にさらに将来への不安が募った。
彼は私の手を強く握っている。けれどそれは、自分が不安だからで、とても頼れるものではない。
「ねぇ。サキちゃん。」
また彼の不安そうな声がして、私は腹が立ってきた。
「何よ!さっきから!あんた!男なんだから、少しはしっかりしなさいよ!私だって不安なんだから!」
それはこの状況が怖いんじゃない。彼のポンコツぶりが私を不安にさせるんだ。本当にこのまま彼と…。そう考えると、不安でたまらない。
「この際だから言わせてもらうわ!」
私は彼と繋いだ手を振りほどいた。
「私!妊娠したの!あんたは頼りないし!赤ちゃんが出来たって言い出せなかったんだから!」
今まで胸にためていたものがせきを切ったように溢れた。不安でたまらない思いをぶつけるうちに、涙も溢れてきた。
「サキちゃん。」
「何よ!」
「結婚しよう。」
「へ?」
「僕の赤ちゃん、生んでください。」
そう言って、彼は私の手を強く握った。今度はちゃんと彼の方から、振りほどけないくらい、しっかりと…。暗くて表情は見えないけど、きっと笑えるくらい、真剣な顔、してるんだろうな。
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