幽霊式別れ
膝枕をされた次の日、美緒は部屋のどこにもいなくなっていた。少し探したが、彼女は元々幽霊だったので、昇天してしまったのだと、すぐに分かった。だけど、心配はいらなかった。俺の心の中にはどこか暖かいものがあったから。
俺は転職はせずに今の会社の仕事を全うした。部長から怒られる日々は続いたが、心の中で励まされている気がして、そのたびに乗り越えることができた。すると、今までの功績が実を結び、ついに出世することができた。責任が付きまとう仕事が多くなったが、仕事が鮮やかに見えて実に楽しくなっていた。あの時仕事を辞めなくて本当に良かったと思う。
数年後、俺は年下の同僚と結婚することになった。結婚式は晴れ晴れとしており、終始夫婦共々笑顔だった。
そして、結婚に伴い、新しい家に引っ越すこととなった。今思い返してみれば、いろいろあった家だと思った。大家さんは、「うるさい奴がいなくなってせいせいしたよ」と言っていたが、どこか寂し気な顔をしていた。
八年間住んでいたアパートに別れを告げるとき、「いってきます」と心の中で呟いた。「ばいばい」とかわいいお守りも小さく呟いた気がした。
ご愛読ありがとうございました。