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4話 芝野、乾杯の音頭を取る

 芝野が出かけて行ってからしばらくはフォミュナルアを撫でたい明穂と逃げ回るフォーナの追いかけっこが続いたが追い込み下手の明穂が素早いフォーナを捕まえることは出来ずスタミナ切れで明穂がギブアップ。


 途中からは楽しそうに逃げるフォーナを笑いながら追ってる明穂のさまじゃれているようにしか見えなかった。

その間に高嶺は部屋に戻り小さめのTシャツと部屋着用の短パンを持ってきて


「明穂さん、これをフォーナに。フォミュナルア、こっちに来て明穂さんに着替えさせてもらいなさい」


 鬼ごっこをしたから少し気を許したのか主人の言うことはちゃんと聞くのかフォーナはトテトテと走ってきて明穂の前に立つ。

途中で邪魔だったのか肩にかけていた毛布はその辺に置き去りにしてジャケットを羽織っただけの格好だった。

明穂がフォーナの前にしゃがみ


「こっちにお着替えするから今度はそのジャケットをくれるかな?」


 そう聞くとフォーナはこくりと頷きジャケットを脱ごうとしたので高嶺は慌てて隣の台所に移動した。

 フォーナの服もなんとかしないとな。

そう思いながら頭を掻きつつ冷蔵庫を開けて晩御飯をどうするか考える。

それなりのものは作れそうだが豪華と呼ぶには少し物足りなかった。

食材を出し下準備を始めていると

居間から着替えたフォーナが嬉しそうに走ってきて高嶺の足にしがみ付く。


「おっと、危ない」


 高嶺は包丁を置きフォーナの頭を撫でてやる。

フォーナは耳を下げくすぐったそうに笑う。

尻尾がパタパタと大きく揺れる。

 明穂が台所に顔を出し


「豪華な夕食にはありつけそうかしら?フォーナのために洋服を買いにいってこようと思うのだけど一緒になにか買ってきましょうか?」


 渡りに船とはこのことか。高嶺には明穂が神様に見えた。


「お願いできますか?芝野くんを喜ばすには少しおかずが足りない感じですので。あと洋服、すごく助かります」


 高嶺の返答を聞いて少しテンションの上がった明穂が


「まかせてっ!!!もうフォーナちゃんをこの世の物とは思えないくらい可愛らしく仕上げて見せるわっ!!!」


 そういうと目にもとまらぬ速さでかっ飛んで行った。


「おほぉぉぉぉぉぉ」


 という謎の奇声を残して。

高嶺は唖然としてその後ろ姿を見送った後、フォーナを見て


「夕飯の買い出し、ちゃんと買ってきてくれるのだろうか」


そう呆れながらフォーナ頭を撫でる。


 高嶺は料理をするためフォーナに台所から出ているようにお願いする。

最初は渋ったが厳しい表情でお願いすると、しぶしぶ台所と居間の間の所に移動し暫く高嶺を眺めたり居間をうろうろしていたが料理に集中して目を離してた間に高嶺が見える位置でフォーナは眠っていた。


 動物のように丸くなり自分の尻尾を抱えて寝る様は愛らしく毛布をかける高嶺の胸にこの子た笑っていられるように頑張ろうと決意させるには十分だった。



 夕食の準備が終わりフォーナの横に座って一息ついたらそのまま眠ってしまったようだ。


「うぁぁぁぁぁぁぁぁ、高嶺先生のろりこんやろぉぉぉぉぉ!!」


 そんな叫び声と荷物が落ちる音にびっくりして高嶺は飛び起きようとしたが重くて身体が動かなかった。


「な、な、なにがあったのですか??」


高嶺は身体が動かないことと眼鏡がずれて周りがよく見えないこと、そして明穂の叫びで軽いパニックに見舞われる。

とりあえず視界をクリアにするため眼鏡を確認する。ずれてるだけだったのを視える位置になおして辺りを慌てて見渡すと自分の胸の上にぴくっと動く綺麗な白銀の耳が見えた。


 間近でよく見ると耳の毛先も金色が混じっている。

ああ、ここも少し金色なのか。

そんなことを思いつつなにを慌てていたのかを考えた。


 そこでやっと思考がしっかりしててきて明穂を見る。

わなわなと震える彼女は怒ってるのか羨ましがっているのか分からない表情で動きが止まっていた。


「いや、これは…寝てる間にフォーナが…」


 そう伝えようとしたが


「今日は高嶺先生ばっかりおいしい思いしてぇぇぇ」


 そんな悲鳴が木霊した。




 芝野が戻り居間に入ると


「おやおや、これは立派な晩餐じゃあないか。高嶺くん、奮発したねぇ」


 そう頬の端を持ち上げながら芝野は嬉しそうにテーブルを眺める。周りを見渡して居間のとなりの部屋で疲れ果てて倒れている明穂で目が止る。

 その周りには少女趣味の洋服から普通のワンピース、オーバーオールや白いシャツ、はたまたセーラー服などなど、いろいろな少女用の服がぐちゃぐちゃに散乱していた。

芝野は真顔で


「‥‥あれはなんだい?」


 そう聞きながらフォーナを見たが彼女はだぼだぼのTシャツに大きな短パン姿で高嶺の横に座ってコロッケに夢中なようだった。


「ああ、明穂さんがいろいろ洋服を買ってきてくれたんですがフォーナが着たがらなくて。というか着せようとする明穂さんが怖くて逃げ回りってね・・・・」


 そう言って困った顔で苦笑する高嶺。

芝野はテーブルの前に座りながら


「彼女の変質的愛も困ったものだねぇ。人のこと変態呼ばわりするわりに一番行動がヤバいのは彼女ではないかね。おっとこれはほんとに旨そうだ。さぁ遠慮なくいただくぞ!!」


 そう言って芝野は料理を眺めてにんまりと笑い一生懸命コロッケをフォークでぐしゃぐしゃにしてるフォーナを見てほっこり顔に変わる。


「なんて微笑ましいんだ、彼女は。いいぞぉ。高嶺くん、今日の君はグッジョブだよ」


 その顔を見て高嶺は危険人物度ではやはり芝野が上だなと心の中で思いながらコップを手渡し瓶ビールを傾ける。

芝野はビールを注いでもらいながら


「おっとっと。ありがとう。明穂くんもこっちに来て座りたまえ。祝賀会といこうではないかね」


 身体を引きずるようにテーブルまで来た明穂は


「なーにが祝賀会なもんですか…。せっかく買ってきた可愛い服をフォーナちゃんが着てくれないなんて…まさに画竜点睛がりょうてんせいを欠くだわ…」


 疲れ果てて不貞腐ふてくされる明穂はグラスを取り高嶺に差し出す。

高嶺は苦笑いをしながらそのコップにビールを注ぐ。

それを見届けてから芝野がすくりと立ち上がり


「では諸君。今日は高嶺君の夢、召喚士として初めて行った仕事で、まぁ、仕事としては失敗したわけだが新たな家族、フォミュナルアを得た。これは喜ばしいことだね。僕的にも高嶺くん的にも。そして明穂くんも。何よりフォミュナルアにはきっと光明だろう」


 そこで一旦区切り


「その我らの新たな第一歩を阻害する問題は先ほど僕が話を付けてきた。明穂くんのところに明日一番に連絡がくるだろう。それで万事解決しているはずだ。せっかくだから真壁さんもお呼びしようと寄ったが彼は留守だった。明日にでも挨拶に行くとして今日はこの新たな一日をみんなで飲んで食べてお祝いしようじゃあないか」


 そう言って皆の顔を一人一人みて


「では乾杯!!」


 そう言ってコップを天高く掲げたのだった。

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