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13話 シュノドゥラ、フォミュナルアを背負う

 フォーナは門の外側掃除をするシュノに付き纏って遊んでもらおうと試みた。

だが、シュノは先ほどの水遊びのように一緒に遊んでくれず、少し困った顔をするので流石に諦めた。

高嶺の元へ行こうかと思ったが少し高揚してうずうずしていたフォーナは、畑まで駆けてから帰ろうと思い立ち、いつもの道を畑に向かって走り出す。

林に入ったところでフォーナの目の前をなにかが横切り、彼女の目はその小さな何かが耳の長い生き物であったのを捉えていた。


 フォーナの体内の血がザワッと熱くなるのを感じてとっさに小さな影を追いかけた。

フォーナの腰に届きそうなほど生い茂った雑草の揺れる動きで、獲物の走った場所を瞬時に見極めて追いかける。

普段は高嶺に止められて遠くまでは行かないのだが、今日は高嶺のフォーナを呼ぶ声は聞こえない。

全神経を集中して獲物を追いかける。


 林の勾配は登り調子にきつくなり二足では速度が落ちるためフォーナは手も使ってガシガシとすごい速度で登っていく。程なく少し勾配が緩くなり何やら半分倒壊したような、古びた建物が見える場所に出た。

相変わらず雑草が生い茂り獲物の姿は見えない。フォーナは気配を殺し気配を探った。

ガサガサッという音に素早く視線を動かし音のした場所を目端で捉える。


 素早くその方向に向かって移動をした矢先、踏みつけた地面がメキメキッという音を立てて消失する。フォーナはしまったと思いとっさに近くの雑草を掴んだがその雑草ごと地面に吸い込まれていった。



「フォーーナァーー!フォミュナルアーーー。返事をしてくれー、フォーーナァーー」


 高嶺の呼声が畑で木霊する。

いつもなら高嶺の呼び声には即反応するフォーナである。これだけ呼んでも反応がないということはここにいないか、反応できないかのどちらかだ。

 ここにいないならまだいい。他の場所かもしれない。何かの事故で反応できないのなら…。

高嶺はだいぶ焦っていた。

 日はすでにほとんど落ちている。暗くなり近くにいるシュノの顔すら認識しづらくなってきている。

この中での捜索は困難であった。人手があれば…

街に連絡して捜索隊を出してもらうか?

いや、フォーナは存在を公にできない。

これ以上の人手を得ることは難しい。

高嶺は立ち尽くし、今後どうするかを考えていた時、突然シュノが高嶺の肩をつかむ。

高嶺はビクッとなってシュノを見る。


「どうした?シュノ?」


 そう問うとシュノは人差し指を立てて口に当て静かにするようジェスチャーをする。

彼女は目を瞑って何かに集中しているようだ。

先端の垂れた可愛い耳がぴくっと反応している。

聞き耳を立てていたのだった。


 「……なにか…声が聞こえた」

 シュノが静かに呟く。

暫く沈黙と静寂が続いた。

突然、シュノが目を見開き高嶺の手を取る。


「フォーナが呼んでる」


 それだけ言うと高嶺を引っ張って走り出す。

急なことで足が縺れてこけそうになりつつ高嶺も走り出した。



 大きな声で高嶺を呼ぶ。

何度も何度も何度も。

悲しさを紛らわすように。

寂しさを吹き飛ばすように。

その名を呼ぶことであの時のように諦めないように。


「たぁかぁねぇ・・・・」


 グスグスと泣き始める。いくら呼んでも彼は来ない…‥。



 凄い勢いで引っ張られ、足が追い付かなくなる。

それでも前へ足を出し、こけてしまわないようにするのが必死だった。

足場は悪い。気を抜くと本当にこけそうだった。


 林の中まで戻ったシュノが止った。


「声が…聞こえなくなった」


 シュノの言葉に息が上がって言葉が出せない高嶺が頭を上げる。


「ハッ、ハッ、ハッ…こ、声が…ハッ…し、たのか…

ハッ、ハッ…」


 なんとかそう問うとシュノは周りを見渡す。

周りは真っ暗だが彼女の目には見えているのだろうか?

シュノの視線が止まる。


「こっち」


 そう言って林の道の脇の雑草群に膝をつく。


「…人が分け入った跡」


 高嶺には真っ暗なにも見えない。

呼吸が落ち着いた高嶺はもうシュノに頼るしかなかった。


「追跡できるかい?ライト付けたほうがいい?」


 そう聞くとシュノが首を振ったのが分かった。

これはライトはいらない、の方だろう。

高嶺はこくりと力強く頷くと


「すまない。君に任せる。フォーナの元へ行こう」


 繋いだ手を強く握りしめる。

シュノは集中して人の移動した痕跡を辿り始める。一度認識してしまえばそんなに難しいことではないのだろう。

すいすいと草をかき分けて林の奥へと進む。

少し勾配がきつくなり高嶺の足がもつれて何度か足を止める。

その度に気のはやる高嶺はシュノに謝る。

 情けない気分だった。普段道のない場所なんて歩かないから、こういう道なき道を進むことに慣れていなかった。

 何度も躓き、何度もこけながらシュノに手助けをされて進む。

暫く進むと勾配は緩くなる。

そしてシュノが止まる。


「…シュノ?」


 高嶺が彼女を呼ぶとシュノがその声を制するように高嶺の口に手を置く。

鎮まり還った闇の中に。

ほんの小さく、微かに聞こえる程度のすすり泣きが聞こえた。


「フォミュナルア!!!」


 高嶺が大きな声で名を呼ぶ。


すると、少し聞こえにくかったが


「たぁかぁぁぁねぇぇぇぇぇ」


 そう呼ぶ声が聞こえる。

高嶺はその声がした方向へライトを照らした。



 叫び疲れて、誰も来ないことに悲しくなりどれくらいすすり泣いていただろう。

身動きの取れないフォーナの心は昔のように折れかけていた。

なんだろう。ずっと暗がりでこうしていた気がする。身体は動かず、ただただ岩に囲まれてなにもしない。

たまに食事が運ばれてきて。投げるように与えられる。地面に落ちた食べ物を貪るように食べていた…。

 徐々に泣いていることすらどうでもよくなってきたその時、


「フォミュナルア!!!」


聞きなれた声が

待ち望んだ声が

彼女の名を呼ぶ。

折れかけた心が救われる。

彼女も呼ぶ。待ち望み、何度も呼んだその名を。



 気のはやる高嶺を制しシュノは声のした方向へゆっくりと進み立ち止まり、その場所の草をかき分け始める。そこを照らすとぽっかりと地面に穴が開いていた。


「たかねぇぇぇ」


 その穴からかすれた声が聞こえる。

高嶺はすぐにその穴を覗き込み光を当てる。


「フォーナ!!そこにいるのかっ!!!」


 ライトを移動させて中を覗き込み状況を確認する。

1mくらい下に腐った木の残骸や土に埋もれたフォーナの姿が見えた。


「フォーナ!!いま出してやる。もう少し我慢して!!」


 高嶺は穴の状況を確認する。狭いがなんとか身体を入れれなくはない。上半身を突っ込みフォーナを引き上げることは可能だと思われる。

 だが、身体を固定する場所も道具もない。

一旦戻るか?芝野に連絡するか?

そう考えているとシュノが穴に身体を突っ込もうとしている。

高嶺は慌てて止めようとシュノに近づく。


「シュノ、危ない。なにか道具かなにか…‥」


そう言おうとした高嶺を見て


「…支えてて。合図で引っ張り上げて」


そう言って上半身を穴に突っ込むシュノ。

高嶺は慌ててシュノの腰を持ち落ちないように支える。

シュノは落ちることを臆さず全力で上半身と手を伸ばして


「フォーナ、捕まって」


 フォーナの目の前まで手を伸ばす。


「しゅぅぅぅのぉぉぉぉ」


 シュノの顔が見えてさらに泣くフォーナ。

動かしずらそうに身体の位置を変えてなんとか両手を上に伸ばす。

シュノはその手をしっかりと掴み


「たかね、引き上げて!!!」


 初めて聞くシュノの大きな声で高嶺はシュノの腰に手を回し彼女の身体を引き上げる。

シュノは力強くフォーナを引っ張り腕から肩、上半身を抱き上げて彼女をしっかりと抱きかかえた。

 シュノの身体が穴から出てきて一緒にフォーナが引き上げられる。高嶺は素早く出てきたフォーナの身体を預かり彼女の身体を穴から引き出した。

夜空を見上げ、高嶺の顔を見たフォーナは擦れた声で大声で泣きだした。


「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁあ、たぁかぁぁぁねぇぇぇぇぇぇ。こわかったのぉぉぉぉ」


 そんなフォーナをぎゅっと抱きしめる高嶺。


「なんでこんなとこに来てるんだ。あぶないだろう」


 高嶺はそういいながら強くフォーナを抱きしめた。


 暫く泣き止むまで高嶺はフォーナを抱きしめていた。彼女が落ち着くとシュノにフォーナをお願いする。フォーナはシュノにも強く抱き着き、嗚咽を繰り返していた。

高嶺は携帯を出して明穂と芝野に連絡を取りフォーナの無事を報告する。

2人とも静かに安堵の言葉を吐き自宅に戻る旨を伝えて電話を切った。


 真っ暗の中、2人をライトで照らすと

泣きつかれたフォーナがうとうとしていた。


「さぁ、帰ろう。みんなが待っている」


 高嶺はそうシュノに促し、寝始めたフォーナを背負おうとシュノに申し出ると、シュノは首を振り


「…私が背負う」


 そう言った。

高嶺はそれはさすがに…と思ったが帰り道の困難さを考えるとその方がいいと思い直し


「わかった。シュノすまないがお願いするよ」


 そう言って彼は少し長めの太い木の枝を見つけて、雑草を踏み慣らして歩きやすく道をつくることにする。

少しずつだが勾配を下り、家路に着く。

 高嶺の作業を後ろから見つつ、シュノはゆっくりとしたペースで進む。

ふと寝息を立てている背中のフォーナを横目に見る。

泣きすぎて目が晴れている。

かわいい顔は台無しだった。

シュノが正面を向き直し、前へ進もうとした時、


「しゅの。フォーナね。・・・しあわせだよ」


 耳元で囁くようなその寝言でシュノは硬直した。

高嶺が歩の止ったシュノを気にかけてライトを向ける。


「シュノ、疲れたのな…‥…」


立ち止まったシュノを見て高嶺は呆然とした。



その瞳に溢れんばかりの涙を讃えて微笑む彼女の笑顔を初めてみたのだった。



なんかさっくり終わらす話が壮大な物語へと転じました。

なんの実もなかった話ががっつり実のある話に転じる。

この瞬間、物語を書いててよかったと思います。

・・・・ただね、こういうのここでは読まれないよね、という現実を除けばよぅ・・・・


さて、どうやら物語は続きそうです。

次は物語は急転します。

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