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10話 廻沢高嶺、シュノドゥラと契約する


「…はい、そうです。……はい、そのようにお願いします。書類とレポートは明後日には提出しますので。…はい、よろしくお願いします。では失礼します」


 明穂は電話を切った後、大きくため息をつく。

近くで会話を聞いていた高嶺は申し訳なく思いながら


「どうでしたか?」


 結果はおおよそ想像できていたが一応確認をしてみる。

明穂は少し疲れた顔で苦笑しながら


「やはり難色を示されましたが、とりあえず許可はいただきましたので早急に儀式を行いましょう」


 明穂は早々に契約に移ることを促す。


「え?あ、ああ。わかりました、でもなんでそんなに急かすのですか?」


 明穂にしては珍しい反応であった。


「…だいたいこの手の決定は一度保留にされることが多いんです。だから既成事実をつくっちゃうのが早いと私を指導してくれた先輩の教えです」


 ずいぶんと力業な話をしているが、明穂がそういうのならその方がよいのだろう。

高嶺は頷くと居間へ移動する。そこには芝野がすでにちゃぶ台を移動させて中央を広く開けてくれ、儀式を行えるようにしてくれていた。

シュノドゥラは呆然と最初に座った場所に座ったままだった。

高嶺は彼女に近づき、しゃがみ込むと


「シュノドゥラ、これより君と『隷属の契約』を行いたいと思う。僕が君の主人となるけど、君はそれでいいかい?」


 優しく微笑みシュノドゥラに問う。

明穂は少し呆れた。獣人がその問いにNOと答えないのを知ってるだろうに、と思ったがわざわざ問うのが高嶺らしいなと思い笑みを浮かべた。

 虚空を見ていたシュノドゥラの視線がゆっくり動き、高嶺を正面から捉える。

しばらく見つめて彼女の目が少し細くなり静かにコクリと頷いた。

高嶺も頷き、片膝をついて目を閉じる。深呼吸をして、ゆっくりと目を開けてシュノドゥラともう一度目を合わせる。


「我、ここに1つの盟約を紡ぐ。我と汝、共に歩み共に進まん。汝の名は‥‥」


  静かに言葉を紡ぐ高嶺。少しの沈黙の跡、


「我、シュノドゥラ。汝と共に歩まん」


  シュノドゥラの芯のある声が居間に鳴り響いた。




「しゅーの、これはね、こーなの」


 フォーナはシュノドゥラと一緒に洗濯物をたたんでいた。

あれから3日が過ぎた。

シュノドゥラは契約が完了すると、少し意識がはっきりしたのか周りの状況を認識するようになった。

口数は少ないが教えれば大概のことをすんなりと覚えて実践できるので、いろいろと教える手間はフォーナよりは楽であった。


 特にフォーナが妙にお姉さんぶっていろいろ教えてくれるので、高嶺はだいぶん助かっている。

ただ…フォーナの独特な指導は、傍から聞いてる高嶺ですら難解であった。

言葉足らずと無駄に大きなリアクションによる説明で、伝えたいことが分かっている高嶺にはかろうじて伝わるが…といった内容だったのだが、なぜかシュノドゥラはあっさりと理解するのだ。

 彼女は相当賢いのかもしれない。

今も明らかに綺麗にたためていないフォーナのたたんだTシャツを手本に、圧倒的に綺麗にたたんでいた。

それも見て腕組みで頷くフォーナ。

そんな2人を微笑ましく見ながら


「さぁ、晩御飯できたよ。机を用意して運ぶの手伝って」


 そう言うとフォーナは嬉しそうに台所へと走ってきて、居間の準備は昨日フォーナから学んだばかりのシュノドゥラが、ちゃぶ台を移動させて台の上を拭いていた。

おかずを盛り合わせた大きな皿を、涎を落としそうなほど見つめながら運ぶフォーナ。

その後方をひっくり返しやしないかと思いながら、高嶺は茶碗などをのせたお盆を居間に運び、シュノドゥラに手渡す。

テキパキと準備するシュノドゥラの横でおかずのどれを食べようか、ニコニコと指さしながら選んでいたフォーナ。尻尾がパタパタと激しく動くので


「フォーナ、落ち着きなさい。尻尾で埃が立ってしまうよ」


 高嶺は少し厳しく嗜める。

高嶺に怒られるとフォーナは少しシュンとして、耳が垂れ、頑張って尻尾を落ち着かせようと妙な減速の仕方で尻尾はおとなしくなる。しかし、先端はフリフリと力ずよく動こいていた。

なんだかそれがとても可笑しくて、高嶺はうっかり吹き出す。

すると笑われたことに少し怒ったフォーナははむくれてそっぽを向く。


「ごめんごめん。さぁご飯にしよう。シュノ、ご飯を装ってくれ。芝野くんの分は…まだ帰ってないようだから後でいいよ」


 シュノに指示をしながら高嶺は味噌汁を碗に注ぐ。

ちゃぶ台の上にご飯とみそ汁、すべての準備が整い、高嶺が手を合わせるのを2人が真似をして


「いただきます」


「ただきましゅ」


「・・・いただきます」


静かだが温かみのある夕食が始まったのだった。

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