一年前の無駄話
「ああーそろそろ彼女が欲しいよねえ」
「突然どうした……?」
初めての仕事を終えてから一夜が経過した朝、ふと、思い出したかのようにクニハルが言った。
「だってほら、もうすぐクリスマスじゃん?クリスマスを一人で寂しく過ごすのは避けたいじゃん?」
「気が早いだろ……まだ九月だぞ?」
「もう九月なんだよ?三ヶ月なんてあっという間だよ?あっという間に二十年連続の一人クリスマスだよ?」
「一人クリスマス言うな」
「違う違う。二十年連続の一人クリスマスだよ」
「年数はどうでも良いんだよ!そもそも俺は二十年連続じゃないし!」
「えっ!彼女いたの!?」
「……まぁ、少し前までね」
二十年連続、とクニハルは言うが実際はそうではない。何を隠そう、俺にも過去に一度だけ、彼女がいた時期があったのだ。
それも、一年や二年では無い。中学二年の時から大学一年までの五年間だ。
一年未満で破局するカップルも数多く存在する中、五年という年数はかなり長い部類に入ると思う。
ただ、年数が長ければ長い程、お互いに興味が薄れてしまうのも事実だ。マンネリ化と言うやつかもしれない。
どちらかが浮気したとか、大喧嘩したとか、そう言った大きな事件が起こった訳ではなく、驚くほど自然に俺たちの関係は終わりを告げていた。
今となっては、どっちが別れを切り出したのかすら覚えていない。
「その人とはまだ連絡とってるの?」
「いや全く。大学も違うし会う機会も無いからね」
「そっか……悔いはないのかい?」
「全く無いって言ったら嘘になるかな。五年も一緒にいたのに、彼氏らしい事は何一つしてあげられなかった気がするし」
「泣ける話だね……涙が出るかと思ったよ」
「出てねえのかよ」
別れてからもう一年か、と思った。
この一年で、俺の生活はガラッと変わった気がする。
例えば、彼女から連絡が来る事が無くなったから携帯を見る時間が減った。変わりにボーッとする時間が伸びた。
電話をする事が無くなったから、人と話す機会が少なくなった。
孤独を感じる時間が伸びた。
思えば、彼女は俺の心の大部分を占めていたのかも知れない。それなら、もう少し大切にしてあげるべきだったかな。
なんて、別れてから思っても遅いのだけど。
「まぁ……人生は長いからさ。きっとその思いが糧になる日が来るよ」
「来るといいけどね、今のところそんな予兆無いよ?」
「し、心配いらないよ!大丈夫だから!たぶん!きっと!おそらく!」
「説得力ゼロなんだけど……」
「ああ、ほら!大学遅刻するよ!」
「うわ、ほんとだ」
話の途中だけど、まあ仕方がないか。それにしても、久しぶりに元カノの話をした。
あいつは今頃、どうしてるんだろう?少し気になりながら、俺は大学へと向かっていった。