<原子力発電所>
この作品中の法律は作者に都合のいい解釈やご都合主義で展開を進めていきます。また作品に登場する人物の思想信条や考え方は必ずしも作者本人と同一ではないことをご理解の上お読みください。
バチン!
急にテレビが消え、エアコンも止まった。どうやらブレーカーが落とされたようだ。この真夏のクソ暑い中と思うが俺は原発反対派なので仕方がない。
この国の電力供給状況ははっきり言って足りていない。原発をフル稼働すれば十分に余裕があるのだが、俺たち反対派がいるためにすべての原発が稼働しているわけではないのだ。そして、今日のように真夏日で電力使用量が増え、需要に供給が追い付かないときは俺たち反対派の電気を止めることによって電力を確保する。
どういった仕組みでそうなっているのかというと、原発反対派の家や施設のブレーカーには専用の装置がつけられ、電力会社からの電波を受信して電気を止めてしまうのだ。そして、これを外したり壊してしまったりすれば厳罰に処される。仕方がないので俺はどこか、エアコンのある所に出掛けよう思い家を出る。
・・・・・
「コーヒーになります」
俺はコーヒーを受け取ると飲みながら新聞を読む。金欠の俺には喫茶店のコーヒーぐらいしか頼めないのだ。原発に反対である以上、俺のような人間は再生可能エネルギーなどによる発電を望む。しかしそれらはコストが高く、コスト増加分は原発反対派の人間だけが負担するのだ。そんなこともあり、電気が使えないことがあるにもかかわらず電気代は賛成派よりも高い、これで金欠にならないほうがおかしい。
新聞を読んでいると気になる記事を見つけた。飲食店で一番安い商品を頼んだだけで五時間も粘った男が営業妨害で逮捕されたのだという。先日の午前十時から午後四時ぐらいまで続いた停電の日の出来事らしいが、どうやら俺と同じように電気が止まってずっと店に居座り続けたのだろう。俺も気をつけなくてはならない。
そして、もう一つ。熱中症で死亡した女性の家族が電力会社を訴えた裁判の判決が出たらしい。女性も原発反対派であり、電気が止まった後も家に籠っていたようだ。裁判では電力会社の過失は認められず敗訴となったが、俺も他人ごとではない。
その後、喫茶店を出た俺は近くのショッピングセンターの中で時間を潰した。通路には誰でも座れるソファーが置かれているし、本屋で立ち読みもできる。
こうして俺のいつもの真夏日の一日が終わったのである。