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桜木町ハードバンパイア

ボーイミーツガール的な…(´ω`)

上手く書けるようになりたい……

第二話「伯雅伊吹」


彼女――ハクミヤイブキは不思議なヒトだった。

 学校内ではかなりの人気を持っていて、学校の男子勢を始め女子からも大勢のファンがいる。学園モノの漫画とかでよく見るお嬢様みたいな人だった。文武両道、才色兼備という言葉が彼女にふさわしい――あんな人、アニメやドラマでしか見たことが無かった。

 常に取り巻きが二、三人は彼女のそばにいて、女性二人、男性一人が常にボディーガードのように付き添っている。VIPさながらの扱いだ。

「……ハクミヤイブキ……か」

 頬杖を突きながら、窓側の席でぼんやりと考えていた。

 彼女を不思議と思ったことに明確な理由は無い。艶やかな黒髪、白い肌、大和撫子よろしくな日本人女性古来の美貌あるそんな女性が、何故僕なんぞに声をかけてきたのか。

「はぁ……」

 何を考えてるんだか、僕は。

 教科書に視線を移し、文字の羅列をぼんやりと眺める。先生の声が一切入ってこない。

 あと数十分で休み時間に入る。寝ててもばれないだろう……。

「それじゃあ佐冬、この問題を――佐冬? おい」


 不意打ちのような先生の指さしは反則だと思ったが、授業中に寝ようとしていた自分が悪い。だが、これはいい結果をもたらした。クラスメイトたちから、親しみ深い者としてのお墨付きを頂いたのである。

 赤面する顔を隠しながら、僕は弁当を片手に昼休みを過ごす場所を探した。

 図書室か屋上――屋上は風が吹き付けて少々この時期には寒いかもしれないが、図書室は飲食が禁止されてる。まあ隠れスポット的な場所はもちろんあるのだが。

「図書室に行こう……うん」

 購買部のある一階昇降口まで下りて、三十人ほどの長蛇の列に並ぶ。購買の販売員のおばちゃんの手腕のおかげで十分で列は消化された。味の薄いコッペパンと安い牛乳をそれぞれ一つ、三百円の昼食を手に取って、図書室へ向かおうとした。

「あっ、サトーっ」

「えっ?」

 不意にかけられた声に、思わず動揺してしまう。

「私だよ私っ。ハクミヤっ」

 ハクミヤさんが僕の顔を覗き込んできた。予想だにしない距離感に、思わずたじろいでしまう。そばに取り巻きの姿は無い。

「サトー……って呼んじゃうけどいいよね。今からお昼でしょ? 一緒に食べてもいい?」

「えっ、でも数人くらい一緒にいたじゃないか……その人たちとは食べないの?」

「うーん……なんかいっつもついてくるからなんか鬱陶しくて。せっかくだし今日はサトーと一緒にいたいかなって思ったから。せっかく三年生になって知り合えた友達なんだし、だから……どう、かな?」

 首を傾げる素振りがなんとも可愛らしい。髪の毛をくるくるといじくりながら、僕の反応をちらちら確認している彼女を見て、僕は思わずどう反応すればいいのか悩んでしまった。

 断ろうとすれば周囲にどう思われるのだろう、ここは無難に彼女からの誘いを受けるのがいいのかもしれないが……。

「……あっ、それ」

 ハクミヤさんが、僕の朝食であるコッペパンと牛乳を見た。

「まさかそれだけで昼をどうにかしようって思ってる? 栄養不足だよサトー、私が作った弁当分けてあげるから、ね」

 彼女は強引に僕から手を拾い上げると、引っ張ってそのまま駆け出した。

「わわ……っ!」

 僕の考えなど一切介入する余地はない。

 彼女に連れられて走る様をほかのクラスメイトたちに見られて、少々恥ずかしい気持ちになるが、不思議と嫌な気持ちはしなかった。


 外の空気は、いつもより潮の香りがした。

 屋上で隣り合いながら昼食を食べていると、僕はますますハクミヤイブキという女性が不思議に見えた。出会ったばかりの僕に、何の抵抗もなくすんなりと話しかけてくれて、それで今一緒に昼食も食べている。

 正直僕は人付き合いが苦手なのだが、得意な人はこんなにもすぐに打ち解けられるものなのだろうかとふと思った。僕には理解が追いつかない。

「ハクミヤ……さん」

「伯雅でいいよ、サトー」

 牛乳飲んでもいい? と軽くつぶやいて僕の牛乳パックをさっと奪い取っていく。

「あ、えっと……伯雅、は、……その」

 あっけを取られ、何を話そうかと考えてると、伯雅はふふっと口元をゆるませた。

「もしかして……美術室前に居たのって、サトーだった?」

「っど、どうしてそれを」

「やっぱりーっ! どこかで見たことあるなあって気がしたんだよね。やっぱりサトーだったんだぁ……良かった。あの時先生が来たのかと思ってびっくりしたんだよね」

 苦笑する伯雅の姿は、まるで絵画の女性みたいに様になってた。まぶしい。

 それからしばらく絵の話で盛り上がった。有名な絵画作品や好きなイラストレーターの話、ゲームの話……漫画の話。いろいろな話をしていた。

 時間を忘れたころに、チャイムが鳴り響く。

「あ、やばいっ」

 さっと立ち上がろうとしたその時。

「大丈夫だよ」

 僕の腕を彼女が引き留めた。

「ちょっとくらいサボっていないと……ねっ」

 一瞬の出来事である。彼女の唇が、僕のと重なった。


 



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