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銀の指輪を抱く騎士  作者: しろげん
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3 再会

 跪いていたリュシアンが頭を上げると、玉座で微笑む国王がいた。

 三年前よりも痩せたその姿とだいぶ増えた顔の皺が、リュシアンの心を曇らせた。

 密偵の知らせは確かなものだった。

 国王のやつれぶりが自分のせいだと思うのはおこがましいが、後悔に胸が痛んだ。

 ――傍にお仕えしていれば――。

 いくら思っても、今さらのことだった。

 王の傍らには、王子エミールと並んで王女アデリーヌが立っていた。

 そして二人の後ろには、護衛役であるドミニクが相変わらず、冷たく鋭い眼光を油断なく振りまいている。

 父王を見守る姉弟の顔は、痛ましそうに歪んでいた。

 一瞬、王女と視線がぶつかった。

 リュシアンはすぐに目を逸らした。

 視界の端で強烈な存在感を放つアデリーヌを直視しながら平静を保つ自信はなかった。

「よくぞ戻った。我が王子と王女も、お前の帰りを待ちわびていた」

 国王が親しみのこもった声を上げた。

「もったいないお言葉です」

 リュシアンはアデリーヌの視線から逃れるように瞼を伏せた。

「辺境の土地の現状はどうであった」

「はっ」

 リュシアンはこの三年間に自分が見て来たことを伝えた。

 王都から遠く離れれば離れるほど、人々を悩ませるたくさんの困難に立ち向かわなければならなかった。

 作物の不作や山賊団に怯える暮らしをなんとか解決するべく自分が行って来たことを、リュシアンは順を追って簡潔に語った。

「三年もの間、よくやってくれた。お前のことを話に出す旅人もいたと聞いておる」

「長らくお傍を離れてしまったこと、お許しください。今後は陛下のためにより一層の力を尽くします」

 国王は満足気に頷くと、豊かな顎髭に手をやった。

「どうだ……今回戻ったのを機に、この城でまた務めを果たす気はないか」

「は……」

 リュシアンは返事に詰まった。

 自分の使命はまだ完全に果たしたとは思っていない。

「辺境の村々には、お前の代わりに役目を果たす者達を送ろう」

「ですが、私は……」

 リュシアンはじっとこちらを見守っている王子と王女の方へそっと目をやった。

「王国一の騎士と言われるお前がいてくれれば、わしも何かと安心だ」

 国王は微笑んだ。まるで自らの未来を予感しているような笑みだった。

「わしの願いを聞き届けてはくれぬか」

「それは……できません」

 リュシアンは丁重に、だがきっぱりと断った。

 国王は顎髭を撫でる手を止め、深く息を吐いた。

「そうか……だが、お前ほどの男ならば、それに相応しい地位と任務を持つべきではないのか」

 リュシアンは顔を上げ、臆せずにはっきりと答えた。

「今していることが、私に相応しいと思うのです。代わりにできる者はいくらでもいるのかもしれません。ですが、私はもっと人々の役に立ちたいのです……その方法を選んだ結果、王都を離れることになろうとも」

 王の間に沈黙が落ちる。

 それを破ったのは国王の長い溜め息だった。

「……わかった。お前の意志は固いようだ」

 国王はようやく諦めたようだった。

 エミールもアデリーヌも、言葉を発したりはしなかった。

 だが国王と同じことを思っているに違いないことは、ちらりと盗み見た二人の表情からわかった。

 不意に国王が咳き込んだ。

 背を丸め、苦しそうに何度も体を揺らす王を支えたのは、王女アデリーヌだった。

「ああ……大丈夫だ、アデリーヌ」

 やがて落ち着いた王は、娘の手を借りて立ち上がった。

「リュシアン。今夜はお前の帰還を祝ってささやかな宴を用意してある。存分に骨を休めるがよい」

「はっ……ありがとうございます」

 リュシアンは深々と礼をすると、国王の退出を見送った。

 その間際、ふとアデリーヌが振り返った。

 ほんの瞬きするだけの間に、視線が交わる。

 その時確かに、王女の視線はリュシアンを捉えていた。

 必死に言葉を探すが、そんな動揺も、アデリーヌの愁いを帯びた高貴な視線に打ち消されてしまった。

 リュシアンは息を止め、彼女の挙動を見守ることしかできなかった。

 ドレスの裾が動いて擦れる音で我に返った時、王女は背中を向け視界の外へ出て行った。

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