9 切っ先の行方
眩しい朝陽だった。
礼拝堂の前には、立会人として王子エミールが、そして国王と共に王女アデリーヌがいた。
物見高い貴族達は、早朝にも関わらずかなりの人数が集まって来ている。
「剣はお互いに、ここに用意した同じものを使うこと。勝負はどちらかが降参するか、または倒れるまでとする」
エミールは緊張した面持ちで、だが張りのある声でそう告げた。
リュシアンは昨夜ドミニクが企んだ卑怯な行いを、誰にも言わなかった。
国王や他の者にはもちろん、王女アデルにも、王子エミールにも。
それを知ってか知らずか、ドミニクはこの場所に姿を現してからひとことも言葉を発していない。
リュシアンは彼に直接、問い質すつもりだった。
「始めっ」
積極的に攻めて来るドミニクの剣は、正確にリュシアンの喉元を狙っていた。
鋭い気合いと共に振り下ろされる刃を受け止め、横へ弾き飛ばす。
ドミニクは最小限の動きでリュシアンのあらゆる急所を突こうと剣を繰り出して来る。
切れ長の目には、殺気がみなぎっている。
目の前の男は、確かに剣の達人だった。
だがそれでも、自分を打ち倒すのに充分ではないとリュシアンは判断した。
――容赦はしない。
既に迷いなど欠片も残ってはいない。
リュシアンは、ドミニクの懐に踏み込んだ。
間合いへ入り、剣の柄でドミニクの鳩尾へ一撃食らわせた。
背中を地面に強打したドミニクは、低く呻いて立ち上がろうとした。
「答えろ」
リュシアンはその喉元へ、剣の切っ先を突きつけた。
「昨夜、俺を毒殺しようとしたな」
ぴたりと刃を押し付けられながらも、ドミニクは答えようとしなかった。
「これを見ろ」
懐から見るも無惨に変色した指輪を取り出し、青ざめた顔に突きつける。
「覚えてるか。アデル様の銀の指輪だ。お前がくれた葡萄酒の中で毒に触れて、こうなってしまった」
周囲の者達の息を呑む気配が、リュシアンの背中を後押しした。
だがドミニクの目の光はまったく揺るがなかった。
「私がそんなものを貴様に贈っただと……言いがかりも甚だしい」
素早く立ち上がって服の埃を叩くと、再び切りかかって来た。
「俺は許さんぞ」
リュシアンは流星の如く流れるドミニクの剣を自らの刃で受け止めた。
見えない火花が散る。
「それはこちらの言うことだ」
刃と刃がぶつかり、力と力の押し合いだった。
「あっ」
貴婦人の甲高い声が上がった。
同時に、脇腹に鋭い痛みが走る。
「ああっ……リュシアン」
それはアデルの悲鳴だった。
激痛の元へ手をやり、自分の体に突き立っている短剣を掴む。
「ぐっ……」
刃を抜けば血が噴き出すのはわかっていた。
だが刃を抜かなければ動けない。
「貴様……それでも、それでも騎士か」
この男には誠実さも正直さも、騎士としての精神が何もないのだ。
「ならば……」
リュシアンは血が流れ出る傷の痛みに耐えながら剣の柄を両手で握りしめ、頭上に振り上げた。
「やめて……っ」
白い閃光と衝撃。