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銀の指輪を抱く騎士  作者: しろげん
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プロローグ

「さあ、あと少しだ」

 額の汗を拭いながら、騎士リュシアンは馬を励ますように声を上げた。

 一面の緑が、溢れるような生命力を放ちながら風に揺れている。

 涼やかな風が運ぶ懐かしい草原の匂い、胸をしめつけるような眩しい夏の陽射し。

 すべてのものがくっきりと、色鮮やかに見える季節。

「三年ぶりか……」

 リュシアンは瞼を閉じ、面影を辿った。

 感傷に浸っている場合でないのはわかっていたが、それでも胸が疼く。

 木漏れ日が揺れる城の中庭、冷たい水が飛び散る小さな噴水、楽しげに笑い合う少年と少女。

 幼いながらも聡明な王子と、意志の強い王女。

「エミール様……アデル様」

 旅立つ日、泣き腫らした目を隠しもせずに力強い笑顔で見送ってくれた王子と、姿を見せなかった王女。

 リュシアンは唇を軽く引き結んだ。

 王女には嫌われたのだろう。仕方ないと思った。

 だがこの三年間、リュシアンの心には名残り惜しい想いが募り続けていた。

 故郷の農村を出て数年後、王城で初めてその姿を目にした時の衝撃は、今も忘れられない。

 艶やかで柔らかそうな長い髪。

 濡れたように輝く星を宿した瞳。

 汚れのない白い肌、淡い花の色をした微笑む唇。

 控えめな仕草、囁くような優しい声、ドレスの裾から時折顔を出す、小さな爪先。

 長く会っていなくとも、すべて鮮明に思い出せる。

 美しいアデル――王女アデリーヌ。

 三年の月日を経て、もし今もう一度姿を見ることが叶うなら、その時もまた同じ衝撃を自分は受けるのだろうか。

 落ち着かない期待と漠然とした不安のようなものが、胸の奥の方で混ざり合いながら薔薇の棘で刺されるような痛みへと変わり、リュシアンの理性に何かを訴えていた。

 目指す王都は、あともう半日ほどの距離まで迫っていた。

 リュシアンは馬の手綱を軽く打ち、草原を駆けた。

 光る青空にいきいきとした白い雲が広がり、王都への道を示すように流れていた。

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