989.止むを得ず、無双。
迷宮都市『ゲッコウ市』中区
「みんな、魔物を倒すわよ! まだ空中にいる奴は、私がまとめて倒すわ! ブルールちゃんは、好きに戦って! アイスティルちゃんは、リリイとチャッピーのそばで一緒に戦って! 三人で離れすぎないように、戦うのよ!」
ニアが、同行していた仲間たちに指示を出す。
「了解」
「分りました」
「ルージュちゃんのお家の方が危ないのだ!」
「助けに行きたいなの〜」
「わかったわ。じゃぁ三人は馬車で向かって。リリイとチャッピーは馬車の屋根に登って、魔物を倒しながら行くのよ。アイスティルちゃんも、御者台から倒せるだけ倒して! 屋敷に着いたら、馬たちを自由にして怪我している人の回復にあたらせて。近くを走り抜けるときに、回復魔法をかければ気づかれないと思うから」
「分りました」
「オッケーなのだ!」
「すぐ倒しちゃうなの〜」
「「「ヒヒィィィン!」」」
アイスティルとリリイとチャッピーはもちろんだが、馬車を引いている六頭の白馬たちも、了解の鳴き声を上げた。
◇
俺は、ギルド会館を出ると、ニアたちの様子を確認するために、スズメの『使い魔人形』を起動し飛び立たせた。
中区までは少し距離があるが、普通のスズメよりもかなり高速で飛行できるので、すぐに到着するだろう。
それから……ニアの口ぶりからして、かなりの数がいるようだから、怪我人が多く出る可能性がある。
基本的には俺たちだけで処理する予定だが、助けられる命が救えないというのは本末転倒になる。
俺は、密かに『エンペラースライム』のリンちゃんを呼び寄せることにした。
人気の少ない裏通りに移動して、『救国の英雄』としての『職業固有スキル』の『集いし力』を使って、リンちゃんを呼び寄せた。
『集いし力』は、念話が繋がる相手を自分の下に転移で呼び寄せることができるスキルなのだ。
そして、こんなときのために密かに組織させていたリンちゃん直属の遊撃部隊のスライムたちも呼び寄せた。
『スライム軍団』の中から選抜した百体で、普段は自由行動をしている集団なのだ。
最近は百体でまとまって、遠征という名の旅に出ている羨ましい連中なのだ。
『コウリュウド王国』全域のスライムを仲間にすると言いつつも、スライム独特ののんびりした感じで、楽しく遊びながら旅をしているのだ。
「リン、ニア達がいる方に向かって! スライムたちに怪我人の救助と回復をさせて」
「あるじ、わかった! あるじのため、がんばる!」
「「「わかった」」」
「「「わかった」」」
「「「がんばる」」」
「「「がんばる」」」
リンちゃんは、スライムたちを引き連れて、すごい勢いで向かった。
ニアの場所を説明していないが、おそらく感覚でわかるのだろう。
まぁ念話を繋げて訊けばいいしね。
他にも仲間たちを呼ぶことも考えたが、やはり無双する軍団が突然現れるのは、目立ちすぎるので自重した。
悪魔の軍団が襲って来たとかいう場合なら、そんなことも言っていられないが、魔物が襲ってきた程度なら、みんなを動員しなくても何とかなるだろう。
まぁ『集いし力』のおかげで、状況が急変したらすぐに応援を呼べるから、こんな発想ができるんだけどね。
もっとも……リンちゃんと直属の遊撃部隊のスライムたちだけで、充分無双する軍団ではあるけどね。
冷静に考えると……俺の自重する論理は自己破綻している気もするが……スライムたちなら、何とか誤魔化せる気がしたんだよね。
基本的にはどこにでもいるし、俺も凄腕テイマーということになっているからね。
あれ……そう思いつつ……今気づいたが……この迷宮都市では、全くスライムを見かけていないなぁ……。
それどころか……普通にいるような野鳥もほとんど見ていない。野良の動物もだ。
まぁそんな事は、今はどうでもいいけどね。
と思いつつも……もう一つ思い浮かんだことがある。
それは……カラスだ。
カラスだけが、やけにいる。
その中に……悪魔たちの使い魔のカラスがいる可能性もある……。
うーん、念の為に、リンちゃんに極秘指令を出しておこう。
(リン、極秘指令だ。周辺にいるカラスたちの中に、悪魔の使い魔のカラスがいる可能性がある。その気配を察知したら、密かに倒して欲しいんだ)
(うん、わかった! リン、あるじのため、がんばる!)
俺は、リンちゃんに指示を出しながら、近くに悪魔の使い魔のカラスがいないか、目視で確認した。
だが、今は普通のカラスも含めて一羽もいない。
今のところ、このエリアは大丈夫なようだ。
南門に到着し、外壁の上に駆け上がると、すでに衛兵たちと合流した冒険者が、戦っていた。
外壁に押し寄せている猪魔物たちに、上から矢を射ったり、魔法が使える者は、魔法で攻撃をしている。
多くの猪魔物がいるが……この感じ……暴走している感じだ。
まるで……連鎖暴走だ。
そして、どデカい奴が外壁にタックルしていて、今にも外壁が崩れそうだ。
やはり奴は、キングボアだ。
俺が昨日倒したのと同じくらいの巨体だ。
『波動鑑定』によれば……レベルも同じで49だ。
あいつを早く倒してしまわないと、外壁が本当に崩されそうだ。
——おお!
そう思っていた矢先、もろくなった部分が崩れて門に近い外壁に大穴がいた。
その揺れで、外壁の上にいた冒険者と衛兵が何人か下に落ちてしまった。
すでに大怪我だが、このままでは猪魔物たちに蹂躙されてしまう。
やはり自重した戦いをやっている余裕はないようだ。
とは言いつつも、『魔剣 ネイリング』などは温存して、普段使いの『青鋼剣 インパルス』を使うことにする。
俺は外壁の上から、キングボアに向けて大きくジャンプし、そのままの勢いでインパルスを振り下ろした!
——ザンッ
——ドスンッ
キングボアの首は、その一太刀で胴体から切り離された。
ふう、うまくいった!
キングボアの首はかなり太いので、インパルスの長さでは一太刀では切り落とせない。
そこで、斬り付けるときに衝撃や電撃を発生させることができるインパルスの特徴を応用し、風の刃が剣先から伸びるイメージで斬り付けたのだ。
それにより、一太刀で切断できてしまった。
これなら、今後巨大生物と戦う時も『魔剣 ネイリング』のように、インパルスも使うことができる。
『魔剣 ネイリング』は、刃自体を長く伸ばすことができるが、インパルスは、風の刃を作って攻撃範囲を拡張できるのだ。
キングボアは倒したので、もう外壁に穴を開けられる心配はないが……まだ多くの猪魔物が残っている。
俺に続いて……何人かの冒険者と衛兵が外壁から飛び降りた。
普通なら大怪我をする高さだが、レベルの高い人が降りたのだろう。
「すみません、私が魔物を引き付けるので、怪我人を回収してもらえますか?」
俺は降りてきた人たちに向かって声を張り上げ、返事も聞かずに魔物の方に進み出た。
そして……『挑発』スキルを使う。
「さぁ、俺に向かってこい!」
スキルレベル10の威力は絶大で……百体以上いる猪魔物が一斉に俺をロックオンしたような気配だ。
もちろん狙い通りなのだが……普通の人だったら、逆に詰んでいたところだろう。
俺は武器を、もう一つの普段使いの武器『魔法鞭』に持ち替えて、迫って来る猪魔物たちをまとめて打ち付けていった。
サイドスローで薙ぎ払う感じで回転しながら、三百六十度、全方向への攻撃を繰り出す。
『挑発』の効果で、俺を包囲するようにほぼ全方向から猪魔物が襲ってくるので、倒すには逆に効率が良い。
待ち構えて、鞭を放つだけだからね。
『挑発』スキルは、こういう戦い方ができるので、使いこなせたらすごい便利だと思う。
この効率の良い戦いのおかげで、あっという間に猪魔物を殲滅できてしまった。
一息ついた後、南門の方に振り返ると……なぜか外壁の上で戦っていた衛兵や冒険者たちが、呆然と立ちすくんでいる。
やばい……もしかして……やっちまったのか……?
まぁしょうがないよね。
こういう戦い方でもしなきゃ、外壁から落ちた人たちの命が危なかったからね。
……トホホ。
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