974.テンプレを破壊され、連行……。
「『冒険者ギルド』が出てくる英雄譚で、主人公に絡んでくるアホな冒険者がいるのよ。あんたみたいな奴よ。逆にそんな展開が嬉しいから、命だけは助けてあげるわ」
テンプレの申し子のように絡んできたおかっぱ男に、ニアは悪い笑顔を向けた。
ニアが知っている物語の中でも、テンプレ展開が存在していたようだ。
「なんだと!? お前はバカなのか?」
「バカと言う人が、バカなのだ」
「おバカさんは、人をバカって言っちゃう人なの〜」
リリイとチャッピーが、場違いなのんびり口調で指摘した。
「そうよ、まさにあんたは、おバカなおかっぱ男よ! 主人公の私にコテンパンにされるオチが待ってるのよ! さぁどうする? 勝負でもする?」
「ワッハッハ、そんなちっちゃな体で俺に勝てると思っていぶぅ——」
おかっぱ男は、言葉の途中で体を飛ばされて、カウンターに頭を打ちつけた。
階段を上って押し寄せてきた兵士たちに、弾き飛ばされたのだ。
衛兵らしき者たちが、十人ぐらい入って来て、先頭にいた男がおかっぱ男にタックルをかましたのだ。
わざと突き飛ばした感じだ……。
「あなたが、グリム=シンオベロン騎士爵閣下ですねー。『ゲッコウ市』衛兵隊独立部隊のムーニーと申しまーす。あなたをスパイ容疑で拘束しまーす。抵抗はしないでくださいよー。抵抗すると、関係する者全員を拘束しますからねー」
赤髪ロングのリーダーらしき男が、少しふざけているとも取れるトーンで言った。
笑っているようにも見えるが……目が細すぎて、感情が読み取りづらい。
それに……この迷宮都市に入って、まだ半日も経っていないのに、俺のことを把握している……。
「スパイとはどういうことですか? 私は迷宮に武者修行に来ただけなのですが?」
「あー、もちろん言いたいことがあるでしょう。でもそれは、太守様の前で言ってくださーい。私は、ただ連れて来いと言われただけですからー」
やっぱりふざけているような口調だ。
口角が上がっていて、笑顔っぽいのだが、目の奥が笑ってない可能性もある。
目が細すぎて確認できないけどね。
それにしても、何この展開……?
せっかくのテンプレ展開で、絡んでくる雑魚キャラをコテンパンにするところだったのに……。
空気読めよな……。
一度やりたかったのになぁ。
まぁあのままの展開だと、ニアさんがやっちゃったから、俺はできなかっただろうけどさ。
それにしても……いきなり拘束されるなんて……。
どうすべきか一瞬悩んだが、一旦ついて行ってみることにする。
最悪の場合は、国王陛下が考えてくれたように、勅使であることを明かせば解放されるだろう。
「何か誤解があるようですが、とりあえず同行しましょう。……大丈夫だから、みんなは食事でもして待ってて」
俺は衛兵に返事をして、仲間たちにも声をかけた。
更に念話も繋げて、おとなしく待っているように伝えた。
メーダマンさんは、『絆』メンバーになっていないので念話ができなかった。
かなり心配そうな表情だが、俺は大丈夫だと示すために、大きく首を縦に振り合図を送った。
俺がおとなしく同行すると言ったので、縄をかけたりはしないようだ。
俺は衛兵たちに囲まれて、『冒険者ギルド』を後にした。
◇
衛兵隊の特別部隊と名乗る者たちに連れられてやって来たのは、中区にある太守の屋敷だ。
太守は、この迷宮都市を統治する者だ。
通常規模の都市なら、この国でも守護と言うようだが、大きな都市やいくつかの市町を纏めて統治する者は、太守の地位を与えられるらしい。
馬車に乗って来たのだが、屋敷のエントランスに直行し降ろされた。
かなり大きな屋敷だ。
この国の第二の都市の太守の屋敷だから、当然と言えば当然かもしれないが。
応接間のようなところに通された。
「お待ちしていましたよ、シンオベロン卿、私はこの『ゲッコウ市』の太守ムーンリバー伯爵です。まずはおかけください」
大守は、五十代くらいの細身の老紳士で、白髪を短くまとめている。
物腰は柔らかい感じだが、眼光の鋭さが垣間見える。
「あの……スパイ容疑とはどういうことでしょう? 私は迷宮に武者修行に来ただけなのですが……」
「まぁまぁ、ゆっくり話しましょう。まずはおかけください」
促されるままソファーに腰を下ろす。
「申し訳ありませんが、先手を打たせてもらいました。貴公がこの国に入ったことは、いずれ公王陛下の耳にも入るでしょうから」
太守が意味ありげに、ニヤッと微笑む。
「先手というのは……?」
「まぁこちらの事情で、公王陛下に対して先手を打ったということです。公王陛下からの勅命で拘束したのでは、厳しい取り調べをせざるを得なくなりますからね。下手したら大国である『コウリュウド王国』と国際問題に発展します。そんな事は避けねばなりません。それに『救国の英雄』殿を、敵に回すわけにはいきませんからな。ホッホッホ」
太守は、またもニヤッと微笑んだ。
俺が『救国の英雄』だという情報が、もう入っているらしい。
それにしても……
「おっしゃっていることが、よくわからないのですが……?」
「ホッホッホ、そうでしょう。我が国の王は、だいぶ荒れておりましてな……。貴公の入国を知れば、逮捕命令を出す可能性があるのです。思い込みでね。だから先に逮捕して、「取り調べたが問題無し」と報告をあげるのです。そうすれば、新たに事件でも起こさない限りは、再逮捕は難しくなりますから。他国の貴族を、証拠も無しに二度も逮捕したら、その時点で国際問題になりますからね。だから先に、証拠もなしに不当に逮捕する必要があったのです。ホッホッホ」
なんだろう、この人は……? 何か楽しんでるような雰囲気すらあるが。
「今のお話ですと……私を公王陛下から守っているように聞こえますが……」
「ホッホッホ、そう聞こえましたか? そうとも言えますが……同時にこの国を守っているとも言えます……」
「なぜ公王陛下が、私を理由もなく拘束するとお考えなのですか?」
「難しい質問ですね。噂は聞いているかもしれませんが、今この国は乱れておりましてね……。まぁここだけの話と言うことで、ぶっちゃけた話をすると……公王陛下が何考えてるのか、わからないんです。何するか、わからないんですよ」
またニヤッと笑っている。
「そんなことを言って、大丈夫なのですか?」
「だからここだけの話にしてくださいと、言いました」
「誰か……公王を諭す人はいないのですか?」
「残念ながら……そんな人材は皆いなくなりました。この意味はお分かりですね? 私がこの地位にとどまっているのも、従順な飼い犬になっているからですよ。ホッホッホ」
太守は、まるで人ごとのように愉快そうに笑っている。
本当に従順な飼い犬になっているとは思えない。
そう繕っているだけだろう。
ただのおべっか貴族には見えないからね。
底の知れない人物という感じがする……。
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