973.テンプレ、キター!
『アルテミナ公国』の迷宮都市『ゲッコウ市』の南区の『西ブロック』にある『冒険者ギルド』の本所にやってきた。
『西ブロック』の中でも、メインストリートに近い場所だ。
『西ブロック』の『上級エリア』の中に迷宮の入り口があるために、そこにほど近い同じ『上級エリア』内に『冒険者ギルド』があるのだ。
『ギルド会館』は三階建てで、かなり巨大な建物だ。
一階が大きな酒場になっていて、二階がギルドの受付、三階が特別室、応接室、ギルド長室などがあるらしい。
敷地もかなり広く、『ギルド会館』の隣には倉庫のような建物がある。
魔物の『解体場』だそうだ。
『ギルド会館』と『解体場』の裏には広いスペースがあって、ちょっとした訓練ができるようになっているらしい。
そのさらに奥には、ギルド長と副ギルド長が住むことができる邸宅が二つと大きな三階建ての建物がある。
三階建ての建物は、ギルド職員の寮とゲストハウスになっているとのことだ。
俺が『ギルド会館』に来た目的は、三つある。
一つ目は、冒険者登録をすること。
二つ目は、元『怪盗イルジメ』で後天的覚醒転生者のオカリナさんと『コボルト』のブルールさんと、攻略者パーティーを組んでいたという『ハーフエルフ』のハートリエルさんに会うこと。
彼女は、副ギルド長でもある。
それから三つ目は、『ヨカイ商会』のメーダマンさんと一緒に、ギルド長に会うことだ。
ギルドの酒場に商品を納入する契約を結ぶかどうか、商談するためである。
一緒に来ているのは、ニア、リリイ、チャッピーと、リリイの伯母であり『フェアリー商会』の幹部であるサリイさんの冒険者仲間だったアイスティルさん、『コボルト』のブルールさん、メーダマンさんだ。
アイスティルさんのアドバイスで、先に冒険者登録をすることになった。
冒険者証を発行するのに、多少の時間を要するので、手続きを先に進めておいたほうが効率的との事だ。
『冒険者ギルド』での冒険者登録なんて……異世界のテンプレすぎて、めっちゃワクワクする!
そんなワクワクを抑えつつ、ギルドの中に入ると……すごい熱気だ!
というか……ただの酒場状態だ……。
まだ昼だというのに……大勢が食事を楽しみながら、ガンガン酒を飲んでいる。
すごく楽しそうだ。
いかにも冒険者という風体の人が多いが、年齢層は意外に幅広い。十代から五十代くらいまでいるようだ。
イケメンもいれば、少女のような冒険者もいれば、色っぽいお姉さんのような冒険者もいる。
まだ昼食を食べていないので、リリイとチャッピーがよだれを垂らしそうになっていたが、ここは我慢して二階に直行した。
二階も結構人がいる。
銀行などにあるような大きなカウンターで仕切られていて、その奥にはギルドの職員が十人以上はいる。
受付窓口も六つ設置されている。
大きな掲示板があり、冒険者への依頼が張り出されているようだ。
めっちゃワクワクしてきた!
アイスティルさんの話では、冒険者は掲示板に貼り出されている依頼を受けることができるが、冒険者のランクによって受けることができないものもあるそうだ。
また依頼とは関係なく、迷宮に潜って魔物を倒して持ってくれば、ギルドが買い上げてくれるので、中堅くらいの実力の冒険者なら充分稼ぐことができるのだそうだ。
中堅クラスになれば、それなりに良い生活ができるらしい。
冒険者にとって依頼は、オプション的なもののようで、割に合わない依頼は受け手がいなかったりするらしい。
ただ依頼をこなすことによって、冒険者ランクが上がりやすくなるので、おいしい依頼には受け手が殺到するそうだ。
冒険者ランクの昇格は、ギルドへの貢献度で判断されるらしく、ギルドに持ち込んだ魔物の数やこなした依頼の数などが重要らしい。
冒険者登録の手続きは、アイスティルさんが段取りをしてくれることになった。
『冒険者ギルド』と言えば……“美人の受付嬢と知り合いになる”というのはテンプレだと思うが……。
万が一にも、むさくるしいおっさんに受付されたくはない……。
そう思いつつ受付カウンターを見回すと、女性しかいなかった。よかった。
アイスティルさんが話してる受付の女性は、青髪の綺麗な女性だ。
あの人が、受け付けてくれるのかな……?
そうなら、テンプレ通りの美人さんだ!
思わずニヤけてしまった。
そんな感じで見ていたのが、ニアに伝わったらしく……久々の『頭ポカポカ攻撃』を発動されてしまった。
『お尻ツネツネ攻撃』や『頭突きアッパー』を発動する要員がいなかったことが、せめてもの救いだ。
リリイとチャッピーに、それらの攻撃を教えていないことに、心から感謝した。
「やいやいやい、兄ちゃん、ここはなあ、こんなちびっこを連れて来るところじゃねーんだよ! 冒険者に憧れて来たどっかの貴族の放蕩息子だろうが、そんな甘い世界じゃねーんだよ!」
キョロキョロしていたから目についたのか、突然ガラの悪いおっさんが絡んできた。
筋骨隆々でガタイがいい。
筋肉をアピールしたいからか、露出の多い軽鎧を着けている。
それはいいのだが……紫髪のおかっぱ頭が、ミスマッチで笑えてしまう。
普通は焦るところだろうが……思わずニヤけてしまった。
「おいおい、コノヤロウ、何笑ってんだ!? なめてんのか!」
やばい、更に絡まれてしまった。
というか……ギルドに登録に来て、アホな雑魚キャラに絡まれるというテンプレな展開が発生して、めっちゃ嬉しい!
密かに、ギルドテンプレがないかと期待していたから、嬉しいのだ。
そんな気持ちが出てしまい、またニヤけてしまった。
でもリリイとチャッピーは、真剣な顔で俺の前に立ち両手を広げた。
俺をかばってくれる動作をしている。
「コラー! チビども! ここは子供の来るとこじゃねぇぞ! とっとと帰らないと、食っちゃうぞ!」
おかっぱ男は、リリイとチャッピーを怒鳴りつけた。
テンプレ展開は嬉しいけど、リリイとチャッピーを怒鳴りつけるのは許せない。
「ちょっと! そこのおかっぱ! 私の仲間に何言っちゃってくれてんの!」
掲示板の依頼内容を見に行っていたニアが、慌てて飛んで来て、おかっぱ男の顔の前に止まった。
「は、羽妖精……妖精族か!? 妖精族だからってな……ギルドじゃ特別扱いはしないんだよ! まさか、冒険者になろうなんて思ってんじゃないだろうな? 羽妖精は、妖精族の中でも弱い存在なんだろう? やめといたほうがいいぜ、アハハハハ」
あぁあ……こいつ、終わったな……。
一番馬鹿にしちゃいけない人を馬鹿にしちゃったけど……。
死なないことを祈るのみだ。
「ちょっとおかっぱ! 羽妖精を馬鹿にしたわね。羽妖精は妖精族の中で弱い存在じゃない! 特別なのよ!」
「おかっぱだと……、ふん、何言ってやがる!? 冒険者の中で妖精族は何人か見たことあるが、羽妖精なんて見たことないぞ!」
おかっぱ男は、さらなる墓穴を掘っているが……
それにしても、はじめての展開じゃないだろうか。
羽妖精を悪く言うなんて……。
『コウリュウド王国』にしろ東小国群にしろ、妖精族を神聖視しているし、羽妖精はさらに特別な好意を持って接っせられていた。
だが、冒険者の世界では、あまり関係ないようだ。
もっとも、こいつがお馬鹿なだけなのかもしれないけどね。
そんな哀れなおかっぱ男に対し、ニアさんは悪い笑みを浮かべている。
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