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968.いざ、アルテミナ公国へ。

 翌日早朝、秘密基地『竜羽基地』で、俺は仲間たちに囲まれている。

 みんな俺の見送りに来てくれたのだ。


 いよいよ今日が、『アルテミナ公国』へ出発する日なのだ。


 転移の魔法道具を使って、すぐに帰って来れるので見送ってもらうほどのことでもないのだが……なぜか俺の仲間たちだけでなく、国王陛下やユーフェミア公爵たちいつもの貴族メンバーも勢ぞろいしている。


「シンオベロン卿、何か困ったことがあったら、すぐに連絡をくれたまえ。できる協力はするからね。情勢不安で治安も悪化しているだろうから、充分気をつけてくれ。まぁ君には無用の心配だろうけどね。それから、一応これを保険として渡しておく」


 国王陛下がそう言って、親書と札をくれた。


「陛下、これは……?」


「万が一トラブルに巻き込まれて、『アルテミナ公国』の兵士に拘束されるようなことがあった場合に、最後の手段として使いなさい。私の勅使であることを示す証札と『アルテミナ公国』の公王に宛てた文書だ」


「これを届けるのですか?」


「いや……全くその必要は無い。中身はたいしたものじゃない。経済交流を活発にしようという提案でしかない。ただそれを持っていることによって、私の勅命を受けた者であることが証明できる。それを出せば、手出しはできないはずだ。少なくとも公王に文書を渡すまではね。だから保険なのだよ」


「なるほど……そういうことなんですね。お気遣いに感謝いたします」


「あまり派手にやりすぎないようにね。まぁ言うだけ無駄かもしれないけどね。ハハハ」


 ユーフェミア公爵がそんなことを言って、愉快そうに笑った。


 派手にやるつもりはないんですけど……。


「私たちが、密かに遊びに行けるような大きな拠点をちゃんと作るんだよ。お忍びで遊びに行くのが、今から楽しみなんだからね。ハハハハハハ」


 今度は、マリナ騎士団長がそう言って、俺の肩を抱いた。

 やはり男同士の戦友みたいな感じだ。

 そう思って油断していたら……「これは選別だよ!」と言って、再び唇を奪われた。


 突然のことに、俺は固まるしかなかったが……微妙にドキドキしてしまうのは何故なのだろう……。


 セイバーン家の三姉妹から、「おばあさま!」という強いツッコミが入ったのは言うまでもない。


 俺が連れて行くのは、ニアとリリイとチャッピーである。

 それから『コボルト』のブルールさんと、『アルテミナ公国』在住の元冒険者で、サリイさんのパーティーメンバーだったアイスティルさんも、同行する。

 アイスティルさんは、案内役も買って出てくれた。


 『アルテミナ公国』と『コウリュウド王国』をつなぐ不可侵領域にある俺の別荘の中で、一番『アルテミナ公国』に近い場所に、サーヤの転移で行く。

 そこからは、馬車に乗る予定だ。


 不可侵領域の別荘は、以前捕縛したいくつもの盗賊団のアジトだったところである。

 使い道がないので相変わらず放置状態で、俺の仲間のスライムたちの遊び場になっているのだ。


「それじゃあ……行ってきます」

「行ってくるね。いよいよ冒険者としてのデビューよ!」

「行ってくるなのだ!」

「行ってきますなの〜」


 ニアは、左手を腰に当て、右手人差し指を突き上げるといういつもの残念ポーズをしてしまっている。

 リリイとチャッピーは、身内であることがわかったサリイさん、ローレルさん、アグネスさん、タマルさん達と抱き合いながら笑顔で別れていた。

 今朝までたっぷり甘えていたから、別れの悲しさはあまりないみたいだ。

 まぁいつでも転移で戻れるからね。




 ◇




 『アルテミナ公国』に一番近い不可侵領域別荘に転移して、馬車に乗り換えて国境の町に向かっている。


 ちなみに馬車は、昨日作った『二階建てお座敷馬車』だ。

 俺用というか貴族仕様の豪華な作りになっている。

 白地に金の装飾が入って、二階建てなのでデカくてかなり目立つ。

 『アルテミナ公国』側からピグシード辺境伯領『マグネの街』に向かう旅人とすれ違うたびに、もの珍しく見られている。

 御者をやってくれているアイスティルさんは、すれ違うたびに話しかけられて、結構大変そうだ。


 馬車を引くのは、普通なら『龍馬(たつま)』のオリョウと『スピリット・ブロンド・ホース』のフォウなのだが、今回は通常の『馬車馬』六頭に引いてもらっている。

 六頭とも白馬にしたので、白い馬車にマッチして、より貴族っぽい感じになっている。

 もちろん、みんな俺の『絆』メンバーである。


 コバルト直轄領に馬の繁殖地になっている村があって、領政官となった第一王女のクリスティアさんが、プレゼントしてくれた馬たちなのだ。

 サーヤが事前に転移で、不可侵領域の別荘に連れて来てくれていたのである。


 オリョウとフォウで十分この大きな馬車も引けるし、いつもならあの子たちが出動する。

 だが今回連れてこなかったのは、オリョウとフォウを自由に動けるようにするためなのだ。

 『化身獣』になって、『神獣の巫女』たちとの訓練なんかもあるからね。

 俺の馬車を引いて入国すると、俺の拠点となる場所に、ある程度いないと不自然になるから、今回は避けた。



 少しして、国境の関所に着いた。

 ここはただの関所というだけではなく、街ができている。

 ピグシード辺境伯領の『マグネの街』と同じような形になっているのだ。

 国境の町は、『ナンミナ』という街だ。


 ちなみに『アルテミナ公国』の大きさは、ピグシード辺境伯領と同じくらいらしい。

 小国と言うだけあって、かなり面積が小さいのだ。

 ただ狭い国土の中に、都市や街がいくつもあり、それぞれの人口もかなり多いようだ。

 『ナンミナの街』も『町』に位置づけられるようだが、人口は千人以上もいるらしい。



 当然のことながら門のところで衛兵に止められ、人物確認をされる。


 御者をしてくれているアイスティルさんは、引退した元冒険者だが、冒険者証は有効らしく、それで人物証明できるそうだ。


 俺も馬車から出て、貴族の身分証を提示する。


「『コウリュウド王国』の貴族様ですか。今回は、どのようなご用件でわが国に?」


 門番が、少し訝しげに問うてきた。


「迷宮都市に、武者修行に行くために来たんです」


「そうですか。そういう他国の貴族様は結構いますが、『コウリュウド王国』の方は久しぶりですね。同行されているのは?」


「はい。私の連れです」


「使用人ってことですか?」


「ええ、そうです」


 本当は使用人ではないが、面倒くさいのでそう答えた。

 アイスティルさんの事前のアドバイスでもある。

 貴族の場合、使用人だと言えば、一人ずつ確認することなく通してくれるということだったのだ。


「そうですか。分りました。どうぞお通り下さい」


 やはり一人一人確認することなく、すんなり通してくれた。


 アイスティルさんの話では、『アルテミナ公国』の門番は、もともとチェックはゆるいらしい。


 『アルテミナ公国』には、他国からの入国者が多く、非常時でもない限りは、大雑把な確認しかしないらしい。

 冒険者になろうと迷宮都市を目指して来る者も多く、多少怪しい風体でも入国させてしまうとの事だ。


 門を出ると、そのまま大きな広幅の直線の通りになっている。

 街のメインストリートのようだ。

 左右にお店が並んでいる。

 宿屋も多い。


 この街をゆっくり散策したい気持ちもあるのだが……目指す迷宮都市が、ここから馬車で半日くらいで着く距離らしいので、今から向かっても昼くらいには着ける。


 ということで、今回はこの街は素通りして、迷宮都市に向かうことにした。


 メインストリートをそのまま進む。

 二階建ての馬車は白くて巨大だし、豪華な装飾をしてあるので、かなり目を引いて、街行く人たちが皆ガン見している。


 御者をしてくれているアイスティルさんが、少し気の毒だ。

 というか御者を任せてしまって、申し訳ないことをした気分だ。


 街自体、人も多くそれなりに活気はある感じなのだが……何か雑然としている。

 そしてあちこちに、かなりゴミのようなものが放置されていて、清潔感があまりない街だ。



 北門を抜けて街の外に出る。

 街道をまっすぐ行くと、迷宮都市に着くらしい。


 御者席にいるアイスティルさんが振り向いて、馬車の窓を開けた。


「こんな目立つ馬車で護衛もつけてないから、盗賊が襲ってくるかもしれないですよ」


「だったら、襲ってきたところを捕まえよう。この街道を通る人たちのためにも、一網打尽にしちゃいたいね」


 明るいノリで訊いてきたアイスティルさんに、俺も明るいノリで返す。

 アイスティルさんくらいの実力になると、盗賊に襲われることも、それほど苦にならないのだろう。


「なるほど! さすがですね。じゃぁその方針で」


 アイスティルさんは、にぱっと笑い、窓を閉めて前を向いた。


 この国の軍や衛兵は、治安が悪化して盗賊が出ているのに、街道の巡回にはあまり力を入れていないらしい。



 しばらく進んだが、かなりのスピードで馬車を飛ばしているからか……予想に反して、盗賊が襲ってこない。

 御者席に通じるドアには窓が付いているので、そこから外の様子を伺う。


 何もなさそうだと油断したからでは無いだろうが、前方の道沿いの草むらが大きく揺れた。


 やっぱり何か出ちゃうわけね……。






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― 新着の感想 ―
[一言] >今回は通常の『馬車馬』六頭に引いてもらっている。  通常(無調整とは言ってない)
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