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962.裏メニューのお返しは、すき焼き。

 養鶏場の打ち合わせを終えた俺は、同じ『西ブロック』の『中級エリア』に来ている。


 ここに来た目的は、『屋台一番グランプリ』で表彰仲間となった『ニクマツリ商会』が運営している食堂を訪れるためだ。


 会頭さんに、一度遊びに来て欲しいと言われていたのだ。

 昼が過ぎ、丁度お腹がすいたので、美味しいお肉を食べようと思う。



「これはこれはグリムさん、ようこそおいでくださいました。どうぞ、こちらに席をご用意します……」


 会頭さんが出迎えてくれて、席に案内してくれた。

 奥にある特別室のようなところに通してくれて、共に席についた。

 一緒に食べてくれるようだ。


「早速特別メニューを出しますから、期待してください」


 会頭さんは、そう言うとニヤリと笑った。


 少しして出てきたのは、前に話していたワニの肉だった。

 串焼きになっている。


 会頭さんが、一番好きな肉だが仕入れが難しく、裏メニューにしかできない特別な肉と言っていたが、約束通り振る舞ってくれたのだ。

 セイバーン公爵領では、猟師が狩りをする一般的な場所には、ワニがほとんどいないそうで、中々手に入らないらしい。


 俺がこれから向かう『アルテミナ公国』では、よく獲れるメジャーな食材だとも言っていた。


 ワニ肉は初めて食べるが……楽しみだ。

 俺は、早速食べてみた。


 おお、この食感……うまい!


 確かに……鶏の胸肉みたいな食感なのに、ジューシーで……めちゃめちゃうまい!


 これ……唐揚げにしたら、絶対うまいと思う。


「それから……これも裏メニューでして……数が取れない貴重品です。美味しいんですよ!」


 会頭さんがそう言って出してきたのは、小さな茹で卵が四つ刺さった焼き串だった。

 特製のタレをつけて焼いているので、香ばしい匂いがする。


 見た目には……どう見てもウズラの卵の串焼きだが……


「これは何の卵ですか?」


「それは、ウズラっていう小さい鳥の卵です。鶏のように、結構産むんですが、この大きさでしょう……誰も飼育しないんですよ。昔はよく飼われていたみたいですけど、今じゃ鶏がすぐ手に入りますからね。私は、この卵が好きなので趣味で飼育してるんです」


 会頭さんは、ニヤリとしながら言った。

 というか……ドヤ顔という感じだ。


 そしてこの卵は、本当にウズラの卵だった!


 俺は、辛抱たまらず一つ口に入れた。


 うまい!

 あぁ……これはまさにウズラの卵の味だ。


 今まであまり思い出す事はなかったが、俺はウズラの卵が好きだったんだよね。

 ウズラの卵の串フライとか、中華丼に入っている卵とか……好きだったのだ。


「美味しいです! すごくいいですね、この卵!」


「そうでしょう! グリムさんなら、この良さがわかってくれると思ったんですよ。うっはっは」


「ウズラは、どうやって手に入れたのですか?」


「あぁそれはですね……契約してる猟師の何人かに頼んで、捕まえてきてもらったんですよ。領都の近くの森には、結構いるんですよ。ただ生け捕りにするのは、大変なんですけどね」


「その辺の森に行けば、すぐ見つけられますかね?」


「ええ、いますよ。ちょっと奥に入れば、いると思います」


「実は、今さっきオッカアさんのところに行って、この前話に出てた子供たちが働ける養鶏場の打ち合わせをしてきたんですよ。そこで、ウズラも飼育したいと思いまして……」


「本当ですか!? 卵がこんなに小さいし、鶏に比べたら一羽が産む数も全然少ないと思いますけど……大丈夫なんですか?」


 会頭さんが驚きつつ、心配してくれている。


「そうですね……普通に考えたら、大変かもしれません。利益だけ考えたら鶏の方が良いでしょう。でも何よりも……この卵を気に入っちゃいまして……」


 俺が若干、苦笑いしつつそう言うと、会頭さんは大きく頷いて満面の笑みを作った。


「いやぁそれは嬉しい! グリムさん、もし本当にウズラを飼育して卵を採るなら、うちに売って下さい。よかったらですが、大量に買い上げますよ。お店のメニューに入れたいんです!」


「ありがとうございます。ぜひお願いします」


「よかったら……契約している猟師にウズラの捕獲を頼みましょうか?」


「お気遣いありがとうございます。でも私の仲間に、捕まえるのが得意な者たちがいますので大丈夫です」


 俺は、会頭さんの気遣いに頭を下げた。


 ウズラがいる場所さえわかれば、出かけて行って俺の仲間にしてしまえばいいからね。


 ウズラの卵の味を思い出したからには……飼育するしかない!

 俺のやる気は、完全に100%を超えてしまったのだ!

 今すぐにでも、森にウズラを捕まえに行きたい。


 というか……もっと早い方法がある。

 俺は、密かに念話を入れた。


 相手は『スピリット・オウル』のフウだ。

 俺は早速、セイバーン公爵領の森を回ってウズラ達を仲間にしてきてくれるようにお願いした。

 フウは俺の依頼に大喜びで、すぐに出発すると言ってくれた。

 どうやら一緒にいる『エンペラースライム』のリンちゃんも出動するらしい。

 セイバーン公爵領の全域にいるスライムは、もうほとんどリンちゃんが仲間にしているので、そのスライムたちに念話を繋いで、ウズラを探させるようだ。

 すぐに発見できるだろう。

 ここは、期待して待つことにしよう。



 俺は、裏メニューを振る舞ってくれたことと、ウズラの情報を教えてくれたことへの感謝のしるしとして、特別なメニューを一つ教えてあげることにした。


 厨房を借りて、実際に作ってみて、食べてもらうことにしたのだ。


「おお、美味い! なんですかこれは!? 肉がこんなに薄いのに……こんなに美味しいなんて……。しかも生の卵につけて食べるなんて……」


 おいしさに感動し、会頭さんとお店のスタッフが涙ぐんでいる。


 俺が食べさせたのは……『すき焼き』だ。

 満足のいく醤油が開発できたので、『すき焼き』も広めることができるのだ。

 そして、このメニューは、肉にこだわった『ニクマツリ商会』の食堂には、ぴったりだと思うんだよね。


「このレシピを教えてくれるのですか?」


「えぇ、我々の『フェアリー商会』で将来お店を出そうと思っていたのですが、知り合ったご縁と有益な情報を教えてくれたことへの感謝を込めて、特別に教えしますよ」


「ほ、本当ですか!? ……一体おいくら払えば……?」


「お金は要りません。このメニューは、我々で独占するつもりはないんです。味付けのポイントとなる醤油を広く販売する予定なので、醤油を手に入れれば、ある程度の料理人なら真似できてしまうと思うんです。ですから、気にしないでください」


「ですが……まったくのただと言うわけには……」


「そうですね……それじゃあ、こうしましょう。この『すき焼き』に使う卵とネギなどの野菜、醤油を『フェアリー商会』から仕入れてもらうということでどうでしょう?」


「えぇもちろんです。当然そのつもりでいますが……ほんとにそれだけで良いのでしょうか?」


「はい、構いません。ただ将来、『ニクマツリ商会』さんの邪魔にならない離れた場所では、我々もすき焼きのお店をやるかもしれません。それだけ了承してもらえればと思います」


「それはもちろんです。むしろ我々の店と競合しないように配慮してくださるのですか……?」


「もちろんです。わざわざ競争してもしょうがないですからね。共存共栄でいきましょう」


「ありがとうございます。早速メニューに追加します。これからのお付き合い、よろしくお願いします」


 会頭さんは、俺に深々と頭を下げてくれた。


 なんだか……意図せず商談がまとまってしまった。

 無理に商売に結びつける気はなかったのだが……まぁ醤油を提供できるのは、今のところ『フェアリー商会』くらいだから必然的な流れではあるけどね。


 本当は、『すき焼き』に使う具材として糸こんにゃくや豆腐なども勧めたいところだが、大量に作れるようになってから売り込むことにしようと思っている。

 豆腐は近いうちに量産できると思うが、こんにゃくはまだ目処が立っていない。

 こんにゃくいもが発見できていないんだよね。

 きっとどこかにあると思うのだが……。


 ちなみに、俺も『すき焼き』を一緒に食べたが、味は抜群だった!

 やはりいい肉を使っている『ニクマツリ商会』だから、『すき焼き』の味も抜群なのだ。






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― 新着の感想 ―
[一言] > 今まであまり思い出す事はなかったが、俺はウズラの卵が好きだったんだよね。 大王ウズラ「えっ」  大きさが違いすぎてウズラ判定されてなかったのか。  すき焼きの裏メニューで牛すき丼も作ら…
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