945.秘密を共有する、覚悟。
「グリムさん、やはりリリイとチャッピーにとっては、公国は危険だと思います。私が口を挟むようなことではないかもしれませんが、二人を連れて行くことをやめていただけないでしょうか……」
話が少し落ち着いたところで、サリイさんが切実な表情で俺に訴えてきた。
もともと今回の告白をしたのは、二人を『アルテミナ公国』に連れて行かないように、俺に頼むためということだったから、当然だろう。
「お気持ちは、よくわかります。ただ私としては、二人に今まで聞いた事実をしっかりと話して、『アルテミナ公国』に行くかどうか判断させたいと思っています。まだ八歳ですが、あの子たちはしっかり自分で判断できると思います」
俺は、そう答えた。
まず、あの子たちの出自にまつわる事実をしっかり伝えてあげて、自分たちには血を分けた親族がいるということを教えてあげたい。
その上で、現在の公国の状況や危険性を伝えて、俺につくて来るかどうかを判断してもらうつもりだ。
普通なら八歳児にそんな判断をさせないかもしれないが、あの子たちはしっかりと判断できると思うし、なるべく人として尊重し、大人として扱ってあげたいのだ。
それに……危険か危険でないかの観点から言えば、俺と一緒にいるのが一番安全だと思う。
俺的にも、自分の目の届くところであの子たちを守りたいという気持ちが強いのだ。
それに狙われる可能性があるとわかっているなら、対策のしようもある。
離れている方が、心配になってしまうしね。
まぁそれでも、あの子たちが公国に行かないで留守番をしているというなら、その気持ちを尊重するつもりだけどね。
「でも……」
サリイさんが、不安げな表情で言葉を詰まらせた。
「グリムさん、グリムさんがお強いこととあの子たちがかなり強くなっていることもわかっています。でも相手は悪魔です……やはり危険ではないでしょうか? 悪魔が本気であの子たちを狙ってきたら……」
今度は、吟遊詩人のアグネスさんがそう言った。
彼女は、リリイの父方の叔母に当たるわけだが、すごく心配そうな表情だ。
気持ちは、よくわかる。
俺が反対の立場でも、少しでも危険は避けたいと思うだろう。
安心させるには……この手しかないかなぁ……
「リリイとチャッピーが充分強いことと、私と一緒にいたほうが安全だということを、より理解してもらう方法があります。ですが……それをお教えすると言うことになると……私と深く繋がり、生涯の仲間になる覚悟が要ります。その覚悟があるなら、お教えしますが……どうしますか?」
俺は、ここにいるみんなにそう尋ねた。
「なるほど! グリムにしては思い切ったわね。私もそうしてもいいかなと思ってたのよね。みんな! 私たちの強さの秘密を教えることになるから、それを知ったら私たちの家族として、一生付き合う覚悟が必要よ! それでもいいなら、秘密を教えて、仲間として向かい入れるけど、どうする?」
今度は、今まで黙って聞いていたニアがそう言った。
緊張をほぐすためか、めっちゃ明るい感じで言っている。
「はい、ぜひ教えてください。一生を共にする覚悟は……もうできています」
「私も……この身を捧げる覚悟はありますから、大丈夫です。逆に嬉しいです! 花嫁団に入れるなんて!」
「私も……今日お会いしたばかりですが……運命を感じています! 一生お仕えする覚悟も、先ほどしました!」
サリイさんと、同僚のジェーンさん、そして今日会ったばかりのアイスティルさんがそう言った。
なんとなくだが……答えの感じからして……若干勘違いがあるような気がしないでもないが……。
花嫁団というワードが気になるし……。
だが、そこを突っ込んでいる雰囲気ではない。
続けてローレルさんたち元冒険者パーティー『炎武』のみなさんが、椅子から立ち上がった。
「私たちでもよろしければ……残りの人生をかけて、お仕えいたします」
「私も覚悟はできています」
「私もです」
「とにかく家族ということなら……喜んでお仲間になります」
「ローレルの血縁は、我々全体の家族でもあります。それが増えるのは、いいことです」
ローレルさん、サラさん、フェリスさん、ディグさん、オリーさんがそう言った。
男性二人が微妙にひきつった顔をしているのは、なぜだろう……?
何か……ここにも勘違いがあるような気がしないでもないが……。
「私も覚悟はできています。すべてを……捧げでも構いません」
「わ、私も、お、お願いします。ふ、不束者ですが……」
今度は、吟遊詩人のアグネスさんとタマルさんがそう言った。
アグネスさんは真っ赤になり、タマルさんは目を閉じてガチガチになって答えているが……。
やはり違うニュアンスが入ってるような気がしないでもないが……。
ここは深く考えたら負けないような気がする……。
そしてそこに突っ込んだら、話が収拾できなくなりそうな気がするので、スルーした。
「オッケー! じゃあ決まりね! いいわよねグリム?」
ニアは、俺にそう言って親指を立てた。
「分りました。では皆さんにお話しましょう」
俺はそう言って、『絆』メンバーになってもらうことにした。
ここにいる人たちの人柄は、もう充分わかっているし、リリイやチャッピーの親族やその仲間ということは、俺の家族も同然だからね。
今日初めて会ったアイスティルさんも、信用できる人だと思うので、一緒に仲間にすることにしたのだ。
俺はまず、リリイとチャッピーの本当のレベルについて話をした。
誰かに鑑定された時の為の偽装ステータスでは、レベル40なのだが、実際のレベルは55なのだ。
元冒険者であるサリイさんは、出会った時はレベル38だったと思うが、今はレベル40になっている。
冒険者仲間だったジェーンさんはレベル38で、同じく仲間だったアイスティルさんもレベル38のようだ。
トップランク冒険者だったローレルさん達は、みんなレベル49とのことだ。
アグネスさんとタマルさんは、最初に出会った頃はレベル32と35だったと思うが、今は34と37に上がっている。
一般の人に比べると、みんなかなりレベルが高いわけだが……実は、この人たちよりもすでにリリイとチャッピーの方が、レベルが高いのである。
「5、55なのですか……?」
「レベル50を超えているのですか!?」
「冒険者だったら……トップランカーのレベルです……」
「あの子たちは、強いと思っていましたが……まさかそんなレベルだったとは……」
「私たちよりも……はるかに格上だったというのは、驚きです。もちろん嬉しいことですが……」
サリイさん、ジェーンさん、ローレルさん、アグネスさん、タマルさんが驚愕の声を漏らした。
他の皆さんも、驚きで顔を引きつらせている……。
「誰かに、密かに鑑定されることを考えて、私のスキルで偽装ステータスを貼り付けているのです。まぁ貼り付けているレベルも40ですから、八歳児ではありえないレベルですけどね。それから普段の訓練の時は、全力で訓練できるように、能力を下げることができる魔法道具を装着しているのです。ですからアグネスさんとタマルさんと訓練している時は、本気を出して訓練しているはずです」
俺は信じられない顔をしている皆さんに、追加説明をした。
「そ、そうだったんですね……」
「あの子たちが、そのレベルということは……グリムさん達はもっと高いってことですよね……?」
アグネスさんが再び感嘆の声を漏らし、タマルさんは恐る恐るという感じで、俺に質問を投げかけた。
「私のレベルは……現在の公開しているレベルは50ですが……本当はもっと高いです。ただこれについては、極一部の仲間以外には秘密にしています。ご了承ください。ちなみにニアは……」
俺がそう言って、ニアに視線を流した。
「私のは言っちゃってもいいわよ! 私はね……今レベル63だから」
ニアは、ドヤ顔&いつもの残念ポーズで高らかに言った。
「レベル60を超えているのですか!? レベル50になるのも大変ですが……レベル50以降は、レベルを上げるのがかなり大変になるので、レベル60は、冒険者の間でも壁と言われています。やはり英雄譚に出てくる勇者様と同じようなレベルなのですね……」
元冒険者のトップランカーだったローレルさんが、ぼう然としながら言った。
冒険者の中でトップランカーと言われる人も、レベル50台で、レベル60を超えている人は、ローレルさんは見たことがないそうだ。
レベルの話は、前置き程度のつもりだったのだが、みんなかなりの衝撃を受けている。
なんか少し……ぐったりしているような感じすらある……。
確かに、八歳児がレベル55というのは、信じられないよね。
そして、なんとか守ろうと思っていた子たちが自分よりも強いっていうのも、複雑な気持ちかもしれないね。
まぁ基本的には、嬉しいだろうけどね。
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