944.避難民、受け入れ要請。
レジスタンス組織のリーダーだというハートリエルさんについて、サリイさん達はもう少しだけ教えてくれた。
このハートリエルさんは『ハーフエルフ』で、元『怪盗イルジメ』で『後天的覚醒転生者』のオカリナさんの攻略者仲間だった人だ。
十二年前まで『コウリュウド王国』の迷宮都市で、一緒にパーティーを組んでいた仲間ということだった。
ちなみに『コウリュウド王国』では迷宮に挑む者を『攻略者』と呼び、『アルテミナ公国』では『冒険者』と言うらしい。
前にニアが言っていたが、一般的には『冒険者』という呼び方が普及しているとのことだ。
『コウリュウド王国』の呼び方は、特殊らしい。
サリイさん達の話によれば……ハートリエルさんは、何年か前まで冒険者をしていて、その当時から高ランク冒険者だったローレルさん達とも知り合いだったようだ。
もちろん、その弟子のパーティーであるサリイさん達とも顔見知りだったのだそうだ。
ハートリエルさんは珍しいソロの冒険者で、一人で迷宮に入っていたらしい。
時々助っ人として、知り合いの冒険者パーティーに加わる事はあったようだが、基本的には一人で迷宮に挑んでいたとのことだ。
そんな命知らずな冒険者は他にはいないので、かなり有名な存在だったそうだ。
今は冒険者を一旦辞めて、『冒険者ギルド』の副ギルド長に就任しているわけだが、それもここ半年のことらしい。
現在のギルド長に頼み込まれて、副ギルド長を引き受けたということのようだ。
ハートリエルさんが、『ハーフエルフ』であることは、冒険者の間では知られていることらしい。
ソロで迷宮に潜る凄腕冒険者として有名だったとのことだったが、そのせいで『狂気のハートリアル』という微妙な感じの二つ名まで付いていたそうだ。
現在の『冒険者ギルド』のギルド長はかなり高齢の男性で、ハートリエルさんを後継者にしたくて、何年も口説き続けて、やっとギルドに入ってもらったのだそうだ。
しかもハートリエルさんは、いろんな条件をつけたようだが、それを全て飲んだらしい。
ハートリエルさんは、数年前に、バラバラに活動していた反政府勢力をまとめて、大きな組織にしたのだそうだ。
それが、レジスタンス組織『月の光』とのことだ。
副ギルド長の就任依頼を受けたのは、公国の圧政が酷くなる中で、レジスタンス活動の情報収集のためにも、ギルドの力が使えたほうがいいと判断したかららしい。
現在は、レジスタンス組織に的確な情報を流し、活動を指示する司令塔の役割を果たしているそうだ。
実際の活動は、『鬼人族』のシュキさんが仕切っているとのことだ。
シュキさんは、ハートリエルさんの攻略者仲間だったわけだが、半年くらい前に『アルテミナ公国』を訪れて、合流したのだそうだ。
どうもハートリエルさんが呼び寄せたわけではなく、シュキさんは別の目的があって、たまたま訪れたという事だったらしい。
そしてレジスタンス組織の中で、シュキさんが一番強いので、すぐにリーダーになったそうだ。
危険な状況になっても、彼女一人で公国の兵士を屠ってしまうらしく、既に仲間から絶大なる信頼を得ているとのことだ。
アイスティルさん曰く、まさに鬼神のような強さらしい。
鬼神のように強い『鬼人族』とは……言い得て妙だ。
それにしても驚きだ。
この話をオカリナさんとブルールにしたら、喜ぶとともに驚くのではないだろうか。
仲間の元気な様子を知れて喜ぶだろうが、レジスタンス組織のリーダーというのは、多分予想してないよね。
早く教えてあげたい。
レジスタンス組織とリーダーについて、大体の説明が終わったところで、アイスティルさんが、真剣な眼差しで俺の前に進み出て跪いた。
「グリム様、お願いがございます。我々の組織で保護している人々……多くは亜人たちですが、助けていただけないでしょうか?」
俺にそう言って、頭を下げた。
詳しく話を訊くと……レジスタンス組織で保護している人たちの数が増えて、匿っている場所が限界になっているとのことだった。
そこで、一度国外に逃すことを考えていて、その人たちを受け入れてもらえないかと依頼をされたのだ。
今回『コウリュウド王国』に来た目的の一つは、サリイさん達にこの件を頼むためだったとのことだ。
サリイさんとジェーンさんは、現在の公国の詳しい状況を知るために、アイスティルさんに連絡をつけて呼んだらしいのだが、お互いにちょうどいいタイミングだったそうだ。
この件は、サリイさんと話をしていたようで、永住しても良いようなら『イシード市』に移民として住めると案内されているとのことだ。
一時的に避難するなら、どこかに場所を用意するように俺やサーヤに頼むとサリイさんが話をしてくれていたようだ。
俺は、快く引き受けた。
まず保護している人たちの希望を聞いて、永住しても良い人は、サリイさんが案内してくれたように『イシード市』に移民してもらうのが良いだろう。
一時的に避難して、いずれ公国に戻りたいという人については、特別の場所を設けることにした。
各市町に作っても良いのだが、多くの人が出入りする状態では、万が一公国の諜報員がいて発覚するとまずいので、匿う人たちだけの専用の場所を作ることにした。
それは……『イシード市』の次に復興する予定である『セイネの街』だ。
『セイネの街』は、『イシード市』を大河沿いに北上したところにあり、『マナゾン大河』の面した港町である。
現在は閉鎖されていて誰もいないので、匿うには最適な場所だ。
俺の所有している場所で、匿う場所は他にもいろいろあるのだが、秘密の地下施設とかに匿うよりは、街で暮らしたほうが、より良い環境だと思ったのだ。
ついでに『セイネの街』の整備も、やってしまえるしね。
そしてもしかしたら……そこでの暮らしが気に入って、永住してくれるかもしれないという淡い期待もある。
もちろんアンナ辺境伯の許可を得ないといけないが、アンナ辺境伯なら確実に認めてくれるだろう。
ピグシード辺境伯領の今後復興する市町は、何かしらの特色を持たせようと思っていて、この『セイネの街』は『音楽の街』にするという話を、前にみんなで打ち合わせをした時にしていた。
その点も踏まえて、大胆に町全体を再構築しようと思っている。
道幅も広げたいと思っているので、ほとんど新たに作り直す感じになるだろう。
大きな劇場というかコンサートホールのようなものも作る予定だ。
音楽家が集まったり、楽器職人が大勢いる街になってくれるといいんだけどね。
そして音楽を目指す若者が、勉強しに来る場所にもしたい。
その意味では、音楽を教える特別な学校も将来的には作りたいところだ。
今後楽器が作れる職人や、音楽家、音楽学校の先生になれる人材を頑張って探そうと思っている。
しばらくは避難して来る人たちだけでの生活だが、必要な物資を定期的に搬入して、普通に生活できるようにしてあげようと思っている。
希望者には、『フェアリー商会』の仕事をしてもらって、賃金を払うかたちにしても良いだろう。
もちろんお客さんがいないから、何かを作る系統の仕事になると思うけどね。
俺は、そんな話をアイスティルさんにしてあげた。
「グリム様、本当にありがとうございます。このご恩は、一生忘れません。私もサリイたちと一緒に、一生お仕えする覚悟でいます! 保護している人たちは、公国に気づかれないように、少しずつ旅人を装って連れ出すようにします!」
アイスティルさんが目に涙を浮かべながら、何度も頭を下げてくれた。
「私の事は……様付けではなくて、さん付けでお願いします。それに私に仕える必要はありませんから……。保護している人たちの移動の時が、一番危険だと思いますので、そこも私が請け負いましょう。絶対に安全な方法で、一瞬で運びますから!」
俺はそう言って、跪いているアイスティルさんを立たせて、席に戻した。
俺の提案にポカンとしていたので、どうやって人々を運ぶかということについて説明してあげた。
転移の魔法道具を使って、一瞬で運ぶという説明をしたのだ。
人数がかなり多いようなら『箱庭ファーム』の魔法道具に、一時的に入ってもらってもいいしね。
だから俺が『アルテミナ公国』に入りさえすれば、すぐに安全な場所に移せると説明してあげたのだ。
アイスティルさんは驚きつつも、また何度も頭を下げてくれた。
そして何度も一生仕えると言われたのだが……別に俺に仕える必要はないんだけどね……。
何度も否定するのも微妙な感じだったので、苦笑いで返すしかなかった。
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