943.レジスタンス組織の、リーダー。
『アルテミナ公国』の建国神話が示す通り初代公王のヒカリイ女王と猫亜人の勇者タマは、強固な信頼関係のバディーだったようだ。
二人の英雄は、今でも絶大な人気を誇っているそうだ。
そんなこともあり、『アルテミナ公国』では、亜人たちを非常に大事にし、亜人だけの村を作ることも許されていたようだ。
そして、月光の勇者タマが作った村である『バディード村』とアルテミナ王家は、代々交流を重ねてきたとのことだ。
建国以降の歴史においても、時々固い絆で結ばれたバディーが誕生して、国の発展に貢献していたらしい。
だが現在は、亜人が迫害されているという状況のようだ。
俺は改めて、なぜ亜人が迫害されだしたのかということを尋ねてみた。
サリイさんによれば、表だって迫害されだしたのは、この半年くらいの話らしい。
ただこの半年の間に、ほとんどの亜人の村は壊滅状態になってしまったとのことだ。
一番最初に、亜人の村で中心的な村だった『バディード村』が悪魔と魔物の襲撃で壊滅。
その後、各地の亜人の村が、次々に魔物の襲撃で壊滅したのだそうだ。
なんとか生き延びた者も、奴隷商人に捕まったり、公国の兵士に連行されたりしたらしい。
『闇オークション』で落札というかたちで保護した狼亜人の親子も、同じようなことを言っていた。
父親のベオさんが、村が魔物に襲われ、なんとか生き延びたところを、奴隷商人に捕まったと言っていた。
公国は、魔物や奴隷商人から救うどころか、助けを求めて逃げてきた人たちに、難癖をつけて連行してしまうのだそうだ。
なぜ急に亜人が迫害されだしたのかという原因は、いまだにはっきり分からないとのことだ。
亜人の優れた運動能力を警戒しているとか、建国神話にあるように、亜人の中から勇者が現れることを警戒しているのではないかということぐらいしか思い当たらないようだ。
『アルテミナ公国』では、七年前のクーデター以降、新公王が酷い政治を行なっており、国民の生活は苦しくなる一方で、今では圧政と言える状態にまで陥っているとのことだ。
そんな状況なので、人々の間には、勇者待望論のようなものが広がっているらしい。
勇者が現れて、圧政から人々を救ってくれるという希望を持つ人が増えているらしいのだ。
そんなことも、亜人に対する迫害に拍車をかけているのかもしれないとサリイさんは言っていた。
まぁ迫害の確実な理由は、わかっていないということだろう。
悪魔の動きが活発化していることから考えて、この迫害についても、悪魔の影響が及んでいるのかもしれない。
迫害されている亜人たちを救ったり、他にも国から迫害されている人たちを救って保護しているのが、レジスタンス組織らしい。
このレジスタンス組織についても、いくつか訊きたいことがある。
「そのレジスタンス組織は何という名前の組織なのですか? もし差し支えなければ、組織のリーダーや活動などを、もう少し詳しく教えてもらえないでしょうか?」
俺は、サリイさん達に尋ねた。
「はい、組織の名前は……『月の光』といいます。リーダーは……本当は明かすことができないのですが……グリムさんなので明かします。ハートリエルさんと言って、元冒険者の人です。メンバーは、元冒険者や元公国の兵士だった人が中心になっています。戦える力を持っている少数精鋭の組織です。地下組織として、数年前から活動していましたが、ここのところの公国の圧政の酷さに応じて、組織の活動も活発になっています。この組織やメンバーのことは、くれぐれも内密にお願いします」
サリイさんは、そう言って俺に頭を下げた。
隣のジェーンさんも頭を下げた。
そして今日初めて会った元冒険者仲間だというアイスティルさんは、一瞬焦った顔をしていた。
それはおそらく……サリイさんが組織のリーダーの名前を、俺に言ってしまったからだろう。
おれもダメ元で訊いてみたのだが、サリイさんは俺を信じて教えてくれた。
そして、そのハートリエルという名前には聞き覚えがある……。
俺は、必死で記憶をたどる……。
……あれ……もしかして……?
「あの……そのリーダーのハートリエルさんという方は……もしかして『冒険者ギルド』の副ギルド長ではありませんか?」
俺がそう尋ねると、サリイさん、ジェーンさん、アイスティルさんが、ビクッと驚く反応をした。
「どうしてそれをご存知なのですか!?」
サリイさんが信じられないといった表情で、俺に問いかける。
「やはりそうでしたか。その方は、元冒険者ということですが……十年以上前は、『コウリュウド王国』の迷宮都市で攻略者をしていたのではありませんか?」
「は、はい……その話は聞いたことがあります……」
「その時の攻略者仲間だった人と、最近知り合って、仲間になったのです。『フェアリー商会』の仕事も、手伝ってもらうことになっているんですよ」
俺が言っている攻略者仲間だった人というのは、元『怪盗イルジメ』で『後天的覚醒転生者』のオカリナさんのことだ。
「え……」
驚きでサリイさん達は固まっている。
「オカリナさんという人で、この前一緒に、攻略者仲間だったという『コボルト』族のブルールさんの里に行ってきたのです。その時に、ギルドの使いが来て、ハートリエルさんから剣の依頼を受けたという話を聞いたのです」
俺は、そんな経緯を説明した。
「そ、そうだったんですか……」
サリイさんは、未だ驚きに包まれているようだ。
「さすがグリムさんですね……。まさかそんな繋がりがあったとは……もう運命みたいなものを感じちゃいますね」
ジェーンさんは、少しおどけるような感じで言った。
驚きで笑っちゃっている感じだ。
「そういえば……シュキさんの剣を昔の仲間に頼んだとハートリエルさんが言っていたような気がします……」
アイスティルさんは、頬をさすりながらそう言った。
やはりまさかの展開に、驚きが収まらないようだ。
もちろん、俺も驚いているけどね。
まさかオカリナさんの元攻略者仲間が、レジスタンス組織のリーダーなんて思いもしないからね。
でも冷静に考えると……怪盗イルジメをやっていたオカリナさんの仲間なんだから……アリかもしれない……。
「確か……そのシュキさんという方は、鬼人族の方ですよね。その方も多分一緒にいるはずだと言って、オカリナさんとブルールさんが会いたがっていました。ブルールさんは、私たちと一緒に『アルテミナ公国』に行く予定になっています。今日か明日にでも、合流する予定なんですよ」
「そうだったんですか……」
「きっと、ハートリエルさんも喜ぶと思います」
「シュキさんも喜びますよ、きっと」
サリイさん、ジェーンさん、アイスティルさんが落ち着きを取り戻して、笑顔で言った。
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