927.スカウトできそうな、人材。
『三領合同特別武官登用武術大会』の予選で敗退したものの、アンナ辺境伯が見初めてピグシード辺境伯領にスカウトした二人の女性ケンナさんとヤリンさんは、『ペルセポネ王国』の出身だった。
護衛を請負う商会で働いていたが、取り潰しになったことで、仕官の可能性を求めて武術大会に参加したということだった。
「ところで、『護衛請負専門商会マモリヤス』の仲間だった人たちは、『ウバーン市』にいた時点で、あと十八人いたと思うのですが、その方たちは皆バラバラに解散したんですか?」
俺は、少し気になったので尋ねてみた。
「はい。『ウバーン市』で別れるときには、各自解散と言われ、それまでの給金ももらうことができました」
「私たちは一番下っ端だったので、よくわからないんですけど……上のほうの人たちは、何か商売をしたいという話をしていたと思います」
ケンナさんとヤリンさんが、答えてくれた。
「今の話からすると……一応解散したけども、何人かは一緒に商売を始めようと思っていたということでしょうか?」
「多分そうだと思います。私たちは武術大会に出てみると宣言して先に旅立ったので、詳しくはわからないんですけど……」
「私たちの護衛隊の隊長と、本部から来た仕事頭と呼ばれる現場の取りまとめ役の人が中心になっていたので、同じような護衛の仕事を始めるつもりなんだと思います」
「では、まだ『ウバーン市』にいるかもしれませんね。もしその方たちが、仕事に困っているようなら『フェアリー商会』で受け入れてもいいと思っているんですけど……」
俺は、そんな話をしてみた。
『フェアリー商会』は、人材を絶賛募集中だからね。
「本当ですか!? みんな喜ぶんじゃないかと思います」
「ええ、今どういう状況か分かりませんが、お声掛けいただけるなら私たちも嬉しいです」
「ただ……『フェアリー商会』の採用は人間性重視なので、その点に問題がなければという条件にはなるんですけどね」
「基本的に悪い人たちじゃないと思います。私たちにも、仕官が叶わなかったら、まだいるかもしれないから『ウバーン市』に寄るように言ってくれてました」
「みんな護衛として働いていたので、依頼主と円滑な人間関係を築かないといけないですし、酷いことを言われても耐える忍耐力もあります。多分……人間性は大丈夫だと思います。中には……口の悪いおじさんもいますけどね……」
ケンナさんとヤリンさんは、思案顔をしつつ言った。
なんとなく……メンバーを思い浮かべながら、確認をするように答えてくれた感じだ。
「今ふと思ったのですが、他の皆さんも腕が立つ方たちばかりだと思うのですが、武術大会に出ようとは思わなかったんですか?」
「はい、私たちも一応声をかけたのですが……賞金はともかく、大会の目的が仕官したり貴族の私兵に採用してもらうことなので、参加しようと思わなかったみたいです」
「仕官するよりも、今まで通り自由に護衛として生活したかったんじゃないでしょうか」
「なるほど、そういうことですか。場合によってはピグシード辺境伯領に仕官する気がないか話そうと思ったのですが……難しそうですね。『フェアリー商会』での雇用も望まないかもしれませんね。自分たちで商売を始めるのが一番いいんでしょうしね。まぁいずれにしろ、一度話をしてみたいと思っていますが……」
「ぜひお願いします。自分たちでやるにしろ、命からがら逃げて来た感じだったので、事業資金はそれほどないと思うんですよね。もし出資とかしていただけるなら、多分喜ぶと思います」
「それに、私たちほどじゃないですけど、まだ若い人もいるので、仕官の誘いがあれば、本気で考える人もいるかもしれません」
ケンナさんとヤリンさんは目を輝かせて、そんな話をしてくれた。
なるほど……まだ若い子がいるなら、仕官してくれるかもしれないね。
他の人たちは、無理に『フェアリー商会』に誘わなくても、自分たちで商売が出来るなら、それを応援してあげればいいだろう。
人間性に問題ない人たちなら、出資をしてあげてもいいと思っている。
もちろん、ある程度の経営能力の判断は必要だけどね。
本当は……『フェアリー商会』の警備部門にスカウトしたかったんだけどね。
まぁ一応、話だけはしてみるつもりだけど……。
ちなみに『フェアリー商会』の警備部門は、『警備保安事業本部』で『フェアリー警備』という名称になっている。
ただ、現状は『フェアリー商会』の各店舗や施設の警備を担当する部門で、外部からの警備の請負はまだ行っていないのだ。
将来的には、警備の請負や護衛の請負というのも考えていたところではあるんだよね。
もっとも特定の場所の警備をする仕事と、行商団に同行して旅をする護衛の仕事は、似て非なるものだと思う。
護衛の仕事のほうが、はるかに大変なのだ。
ただこの世界の旅はかなり危険なので、需要自体はあると思うんだけどね。
でも『フェアリー商会』であえてやる必要は無いから、この護衛の仕事については、それほど強くやろうと思っていたわけではない。
警備の延長線上というか……特定の人物をその街の中で警護するSPみたいなイメージのものは、やってもいいかと思っていたんだけどね。
いずれにしろ、早めに探し出して話をしてみたい。
そう思っていたら……ケンナさんとヤリンさんが、この後『ウバーン市』に探しに行くと申し出てくれた。
もう夕方の時間なので、明日からでもいいと言ったのだが、酒場にいる可能性もあるので、行くだけ行ってみたいとのことだった。
ついでに宿屋も、何軒か訪ねてみると言ってくれた。
もちろんアンナ辺境伯も許可してくれたので、後でサーヤに、転移で連れて行ってもらおうと思う。
ケンナさんとヤリンさんと同じく、仕官してくれる女侍ことサナさんとマスク狩人ことアロンさんは、レベル35に到達したとのことだ。
二人とも大幅レベルアップだ。
かなり頑張ってくれた。
アンナ辺境伯が弓の腕を見込んでスカウトしたアロンさんには、アンナ辺境伯がつきっきりで教えてくれたとのことだ。
アンナ辺境伯も、討伐に同行してくれたのだ。
そして、普段弓を使わない他のメンバーも、今回は弓での攻撃も行ったらしい。
事前に、アンナ辺境伯から弓のレクチャーを受けていたのだ。
アンナ辺境伯は、剣や槍で戦うメンバーにも弓での攻撃をマスターさせるつもりらしい。
確かに外壁防衛戦のときなど、みんなが弓を使えたほうがいいからね。
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