926.ペルセポネ王国から来た、二人。
夕方になって、コバルト領内の魔物と小悪魔の討伐に出ていた各チームがコバルト城に戻って来た。
どのチームもかなり頑張ったようで、事前に目標にしていたレベルに到達したそうだ。
そして今日一日で、領内の市町とそれを結ぶ街道に近いエリアの魔物の領域や小悪魔の領域は掃討できたとのことだ。
これで当面、領民に被害が出ることはないだろう。
各チームの成果やトピックスなどを、簡単に報告してもらった。
最初は、ピグシード辺境伯領選抜チームからだ。
ピグシード辺境伯領選抜チームは、現在『イシード市』の衛兵隊長をしているマチルダさんと、現近衛隊長であるクレアさん、ピグシード辺境伯領に仕官してくれた女侍ことサナさん、マスク狩人ことアロンさんと、武術大会の予選敗退者の中からスカウトした女性剣士ケンナさんと女性槍士ヤリンさんの六名が選抜されている。
今後創設される女性だけの騎士団『華麗なる騎士団』の候補生に絞った少数精鋭チームなのである。
『三領合同特別武官登用武術大会』の予選敗退者の中からスカウトしたケンナさんとヤリンさんは、十六歳でチームの中で最年少だったし、レベルも18と低かった。
だが、がんばって乗り切ったようだ。
今日一日でレベル28と、10レベルもアップしたそうだ。
完全なパワーレベリングになってしまって、少しもったいない感じもあるが、まぁいいだろう。
今後は、じっくり技を磨きながら、レベルを上げていくことになるだろうからね。
アンナ辺境伯も、そういう育成方針のはずだ。
二人とは、ゆっくり話す機会がなかったのだが、今日一日がんばってくれたので、労いの言葉をかけ、少し話を聞いた。
ケンナさんは、銀髪をボブカットにしていて、引き締まった体付きをしている。
ヤリンさんは、紫髪をポニーテールにしていて、長身で同じくスリムな体型だ。
二人ともスレンダーで、軽鎧を身に付けていなかったら、とても戦う女子には見えない。
二人は、セイバーン公爵領ではなく『ペルセポネ王国』の出身だった。
『ペルセポネ王国』の『護衛請負専門商会マモリヤス』という商会で、護衛の仕事をしていた仲間だったらしい。
その商会では、孤児院を卒院する十五歳の者の中から見込みのある者を採用し、鍛えて護衛に育てているのだそうだ。
二人とも、別々の孤児院出身だが、その商会に採用してもらい、仲良くなったらしい。
訓練を積みながら雑用などの仕事をこなし、十六歳になって一人前の護衛として仕事をやりだしたところだったとのことだ。
その仕事で、顧客である商会の商船団の護衛をして、セイバーン公爵領『ウバーン市』に来ていたらしい。
護衛の仕事は、『ウバーン市』までで、少し休んで国に帰る予定だったそうだ。
だが、そのタイミングで本国の商会が、犯罪行為に加担したとして取り潰されたとの知らせが入ったらしい。
取り締まりを逃れたスタッフが、船に乗って『ウバーン市』まで知らせに来てくれたのだそうだ。
そして、『ペルセポネ王国』に戻ると逮捕される可能性があるので、このまま各自逃げるようにという話をされたらしい。
二人を入れて護衛の仕事で来ていたスタッフは十二人で、知らせを持って逃げ出してきたスタッフは、八人だったそうだ。
商会が摘発され取り潰しになったと知らせに来てくれた人の話によれば、護衛先の商会が犯罪行為を行なっていて、その一味と断定されてしまったのだそうだ。
巻き込まれただけのようだが、早々に商会は取り潰され資産も没収されたらしい。
そして会頭を始め、多くの人が捕まってしまったのだそうだ。
そんな状況を知らされた二人は、行くあてもなく悩んでいたところ、『三領合同特別武官登用武術大会』があることを知り、仕官の望みを抱いて参加したらしい。
なかなか複雑な事情を抱えていた。
二人が『ペルセポネ王国』出身なので、同じく『ペルセポネ王国』の出身のアルビダさんとその『八従士』について、少し話を振ってみた。
「はい、存じています。アルビダ様と『シレーヌ八従士』は、すごく有名です! みんなの憧れなんです!」
ケンナさんが、目を輝かせながら言った。
「特に私たちのような武術で身を立てる者には、憧れでもあり、目標でもあるのです。シレーヌ侯爵様は、大港湾都市『セイレン市』を含む『接海領』を収める大貴族様なのです。アルビダ様が出奔されたという話を聞いて『セイレン市』の市民は、皆大いに悲しみました」
ヤリンさんも、目を輝かせたが、後半は少し悲しそうな顔をしていた。
二人は、アルビダさんと同じ都市の出身で、憧れていたようだ。
領主の令嬢ということもあるし、評判の『シレーヌ八従士』の主でもあるし、人々に人気だったのだろう。
なんとなく……セイバーン公爵領でユーフェミア公爵や、その三姉妹がすごい人気なのを思い出した。
同じような感じだったのではないだろうか。
そして、アルビダさんと話したときには詳しく聞かなかったが、お父さんの収めている領は、港湾都市を含む領だったようだ。
「実は先ほど、アルビダさんや『八従士』の皆さんと会ってきたんです。今は女海賊として海賊団を率いていました。『自由の旗海賊団』と言って、このコバルト領で虐げられ逃げ出した人たちを助けていたんです」
「え、……アルビダ様が……。よかった……。ご無事だったんですね」
「女海賊をしているなんて……さすがアルビダ様だわ。まるで海賊女王みたい……」
二人は、目を輝かせた。
ヤリンさんが“海賊女王みたい”と言っていたが……アルビダさんが言っていた英雄譚の『海賊女王と無敵艦隊』の海賊女王のことを言っているのかもしれない。
「アルビダさん達は、『ペルセポネ王国』で指名手配されている可能性があるので、私が今言った事は、くれぐれも内密にお願いします」
俺は念のため、注意を促した。
「もちろんわかっています」
「はい、心得ています。あの……もしかしたら……いずれアルビダ様たちに、お会いできる時が来るでしょうか……?」
ヤリンさんが、言いづらそうに俺に尋ねると、ケンナさんも期待に膨らんだ視線を俺に向けた。
「ええ、いずれ会う時が来るでしょう。『フェアリー商会』の仲間になりましたから、ピグシード辺境伯領とも深い繋がりになると思います」
「ほんとですか!? ありがとうございます!」
「今から楽しみです! 憧れの人ですから」
二人は満面の笑顔になった。
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