923.海馬で、水上バイク!
突然海から現れて、俺の仲間になりたいと申し出てきたタツノオトシゴの霊獣シーホンは、ほんとに最近霊獣として覚醒したばかりらしく、レベルは6とかなり低い。
元のタツノオトシゴだったときのレベルが、おそらく6で、そのままなのだろう。
『種族名』が『海馬』と表示される五十体くらいの軍団は、みんなレベル30くらいはあるようだ。
魔物や霊獣ではなく、通常生物のようなので、レベル30はかなり高い。
「あの……海から顔を出している馬のような生き物たちは……やはり『海馬』なのでしょうか?」
女海賊アルビダさんが、そわそわした感じで尋ねてきた。
やはり何か知っているようだ。
「ええ、『海馬』という種族のようです」
俺がそう答えると、アルビダさんは膝から砂浜に崩れ落ちた。
「なんと……実物を見ることができるなんて……」
アルビダさんは、『海馬』たちを見つめながら涙を流している。
そしてアルビダさんの護衛の『八従士』たちも、皆驚き、呆然とたたずんでいる。
「アルビダさんは、ご存知なんですか?」
「はい。現代では、幻の生物とも言えるほど非常に珍しい生き物です。水の中の荷引き動物のようなものですから、海の『竜馬』と言えるような生物です。過去の古い文献では、人族のテイマーがテイムして、船を引かせたという記録もあります。わが国で有名な『海賊女王と無敵艦隊』という英雄譚があるのですが……主人公の海賊女王の仲間となって、戦場で大活躍したとされています。馬のように背に乗ることもできるはずです。水上を進む騎馬となるのです。現代では、発見される事はほとんどなく……絶滅したとか、元々空想上の生き物だったのでは、と言われているほどなのです。それが群で現れるなんて……感無量です……」
アルビダさんはそう言って、目を閉じた。
感動に打ち震えているようだ。
後で詳しく聞きたいが……『ペルセポネ王国』で有名だという『海賊女王と無敵艦隊』という英雄譚が好きなのだろう。
なんとなくだが……女海賊をやっているのも、その英雄譚の影響だったりするのかもしれない。
英雄譚の内容が気になるが……今は我慢しよう。
「君たちも、俺の仲間になるかい?」
『海馬』たちに問いかけると……みんな一斉に海面から飛び出し、くるりと一回転した。
仲間になるという意思表示らしい。
念のために『固有スキル』の『絆』リストを確認すると、シーホンと『海馬』たちが仲間に加わっていた。
すると『海馬』たちは、今度は、三回連続で宙返りした。
この三回やる感じ……喜んでるということだろう。
さて仲間にしたのはいいけど……この子たち、これからどうしよう……?
俺が主になっている海の魔域である『大海域』に行ってもらってもいいけど……。
この『海馬』たちは、あくまでも通常生物なんだよね。
無理に鍛える必要はないのだ。
それに、みんなレベル30前後だから、既に充分強いとも言える。
シーホンはレベル6だから、もうちょっと鍛えたほうがいいけど……。
そうだ!
シーホンは、『魚使い』のジョージたちと一緒に行ってもらおう。
ジョージたちとチーム付喪神は、これからもう一つの海賊のアジトを壊滅させるに行くのだ。
その途中や帰りに、海の魔物退治も行う。
シーホンもチームに入れて戦ってもらって、パワーレベリングをしてもらおう。
もちろんパワーレベリングは、色々ともったいないのだが、レベル6はあまりにも低いから、レベル20くらいまでは上げておいたほうがいいだろう。
『海馬』たちは……アルビダさんの話からすると、幻の生き物みたいな感じになっているらしいから……突然人族のエリアに大量に現れたら騒ぎになってしまう。
一旦、この島の周辺で待機してもらうかたちにするか。
今後、アルビダさん達が海義賊として魔物退治したり、悪い海賊を退治するときに、手伝ってもらってもいいしね。
俺はそんな話をして、シーホンも『海馬』たちも了承してくれた。
ただ少し気になったというか……せっかく出会ったので……『海馬』に乗ってみたいんだよねぇ……。
『海馬』たちの話によれば、水面から上半身を出して泳ぐことができるようだ。
ほんとに水面をかける馬のようなかたちで、騎乗することができるらしい。
ゴツゴツに飛び出た体の突起がハンドルようになっていて、そこにつかまって背中に乗ることができるようだ。
人が騎乗するときは、普通のタツノオトシゴのようなまっすぐの状態ではなく、前傾姿勢になるらしい。
俺は、早速騎乗させてもらうことにした。
……すごい!
なにこれ!
めっちゃ楽しい!
まるで……水上バイクに乗ってるみたいだ!
そして出そうと思えば、スピードもかなり出せるらしい。
この子たちに乗って戦ったら、普通の海賊なんて全く敵じゃないだろう。
そして魔物とも互角に渡り合えるかもしれない。
英雄譚に出てきて大活躍したというのが、わかる気がする。
ニアさんもやりたいらしく、人型サイズになろうとしたのだが、シーホンが「私に乗って下さい」と言って、ニアを乗せた。
そして、『海馬』と同じように水面を滑走した。
シーホンは、宙に浮いているので、水に入る必要は無いのだが、ニアのために敢えてそうしてくれたようだ。
シーホンは、四十センチくらいの体長で、ニアより少し大きいので、ニアも何とか乗れる感じなのだ。
ニアも、めっちゃ楽しそうだ。
『魚使い』のジョージや珍しくサーヤも一緒になって、『海馬』に騎乗して遊びだした。
そしてアルビダさん達がやりたそうに、口をぽかんと開けて眺めていたので、声をかけてやらせてあげた。
『海馬』たちは俺の仲間になっていて、念話が通じるので、他のみんなも乗せてくれるように頼んだのだ。
もちろん快く了承してくれて、海賊のみんなや子供たちや村の人たちを乗せてくれた。
アルビダさんは、憧れの生き物に乗れて、感動していた。
水しぶきをあげながら、同時に涙のしぶきもあげていた。
泣き笑いしながら、乗っているという感じだった。
村長になったリョウシンさんも、子供みたいな顔で楽しそうに乗っていた。
意図せずして、“大水遊び大会”になってしまったが、みんな本当に楽しそうだ。
俺の仲間たちにも、やらせてあげたいなぁ……。
今度ここに連れてこよう。
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