893.コボルトの作る、合金。
元『怪盗イルジメ』のオカリナさんは、『コボルト』のブルールさんとともに、城外の宿屋に向かった。
助け出した『コボルト』族のトウショウさんを迎えに行く為だ。
去り際の話によれば、ブルールさんは帰還転移の魔法道具を持っているので、そのまま『コボルト』の隠れ里に帰るとのことだ。
後日改めて、『コボルト』の里を訪れたいという話をオカリナさんがしていた。
その時には、是非とも俺も連れて行ってもらいたいと思っている。
それから、なぜボンクランドが『コボルト』の里から鍛冶職人のトウショウさんを拐ってきたのか、その目的が明らかになった。
第一王女で審問官のクリスティアさんが、ボンクランドに対する尋問で明らかにしてくれたのだ。
それによれば、『コボルト』族が作る『コボルト青鋼』で武器を作り、東の小国群の国に販売して、儲ける為だったらしい。
東の小国群で国同士の紛争が起こりそうだという情報をつかみ、武器を売って荒稼ぎしようという魂胆だったようだ。
『コボルト青鋼』は、鋼とコバルトを元に作った青き輝きを放つ合金で、軽くて強く、加工がしやすいのが特徴らしい。
それ故に、剣や全身鎧などを作るのに相性が良いとのことだ。
アクセサリーに使われることもあるらしい。
非常に劣化しにくく、錆ない性質を持っていて、魔力を通すことも可能で、簡易な魔法金属とも言えるようだ。
『魔鋼』と同程度の性能と考えていいようだ。
『魔鋼』は現代では貴重で、なかなか手に入らないので、同等の性能がある『コボルト青鋼』は引く手数多で、売れると見込んだらしい。
そのために、『コボルト』の鍛治職人を誘拐したようだ。
『コボルト』の隠し里については、コバルト侯爵家に極秘事項として伝わっていたらしく、その情報を手に入れたらしい。
今まで何百年も培ってきた『コボルト』族との信頼を、一瞬にして裏切ってしまったかたちになる。
『コボルト』族は、隠し里に住んでいてあまり人族と関わる事はなかったようだが、過去の歴史の中で何度かコバルト侯爵家を助けてくれたことがあったらしい。
恩を仇で返してしまったことになる。
海賊たちの秘密のアジトに鍛治工房を作って、そこで無理やり作らせる予定だったようだ。
そしてボンクランドの息のかかった二つの商会が、東の小国郡の商業国家である『ヘルメス通商連合国』の大きな商会に販売する予定だったらしい。
商品の輸送は、海賊たちが担当するということになっていたようだ。
ちなみに『ヘルメス通商連合国』は、『コロシアム村』で格闘技興行を行ってくれる『シンニチン商会』のアンティックくんたちの故郷である。
彼らに話を聞いたときには、自由な商業国家とは言え、いくつかの大きな商会が実権を握っていて、それ以外の者たちは夢が持てない閉塞感があるという話をしていた。
商業国家だけに紛争の動きを敏感に察知し、儲かると思えば武器でも何でも売って稼ぐと言うことなのだろう。
それ自体を責めることはできないが、東の小国群には注意が必要かもしれない。
今後俺たちが悪魔の根城を探すために向かう『アルテミナ公国』も、その小国群の一つなのだ。
もしかしたら、小国群に紛争が起こりそうなキナ臭い状況になっているのは、悪魔が関与している可能性もある。
これからは『アルテミナ公国』のみならず、小国群全体の情報を集めたほうがいいかもしれない。
『特命チーム』のゼニータさんとルセーヌさんは、もともと捜査を進めていた二つの商会の摘発に向かった。
ボンクランドの尋問で関与していたことが明確になったので、即刻検挙するようだ。
『マットウ商会』から入手した爆弾の流通先を全て明らかにし、今回使用されたもの及び押収されたもので全てかどうかを、確認する必要もあるからね。
海賊のアジトの制圧に向かったチーム付喪神からも連絡が入った。
『魔盾 千手盾』の付喪神であるフミナさんから、念話が入ったのだ。
ツクゴロウ博士が張り切って、あっという間に制圧したらしい。
アジトに残っていた海賊は、十人足らずだったようだ。
ただそのアジトが少し変わっていて、小さな島だったとのことだ。
コバルト侯爵領の近海に浮かぶ孤島をアジトにしていたようだ。
海賊たちは、海賊島と呼んでいたらしい。
小さな島と言っても、『コロシアム村』の三倍くらいの大きさはあるようなので、一つの都市くらいの大きさはあるようだ。
もっとも海賊たちが使っていたスペースは、船を発着する桟橋周辺だけのようなので、島全体の十分の一程度しかないようだ。
ただ大きな屋敷があって、畑が作ってあったり、家畜が飼育されていたらしい。
畑と家畜の世話は、十人ほどの若い男がやっていたようだ。
海賊に捕まり、奴隷のように働かされていた人々とのことだ。
重りの繋がった足輪をはめられていたそうだ。
拘束した海賊たちと共に、その人たちも保護して戻るようにお願いした。
家畜については、後日改めて引き取りに行くことにした。
俺もちょっと行ってみたいしね。
俺の分身『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーからは、領都に各軍団を設置したという報告が念話で入った。
『エンペラースライム』のリンちゃんの『スライム軍団』、『スピリット・オウル』のフウの『野鳥軍団』、『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラの『野良軍団』、『スピリット・タートル』のタトルの『爬虫類軍団』である。
ナビーがリンちゃんたちを連れてきてくれて、『領都コバルト』の中にいる野生生物たちを仲間にしてくれたようだ。
短い時間だったので数が少ないが、今後増やしていけばいいだろう。
他の市町についても、各軍団を組織していこうと思う。
これからクリスティアさんが管理をする王家直轄領になるとの事なので、治安維持の面で少しでも協力してあげたい。
何よりも、人々のためになるだろう。
それから、ナビーが少し街中を歩いただけで、ガラの悪い連中が絡んできたようで、早くもチンピラをテイム……もとい捕まえたらしい。
いつものように悪事の程度が酷い者は、衛兵に突き出して、更生可能な者は『残念B組 ナビ八先生』に入れて教育するようだ。
もちろん、少しひねくれていた程度で更生施設に入れる必要がない者は、『舎弟ズ』として社会復帰させる予定らしい。
今後本格的に、領都にはびこるチンピラたちを掃討することになるのだろう。
なんとなくだが……トップである領主がかなり問題があったから、各市町にも素行の悪い者がはびこっていそうな気がする。
明日以降……ナビーさんが大活躍してしまうかもしれない……。
ナビーは、セイバーン公爵領の各市町でもチンピラの掃討作戦を実施する腹づもりでいたようだが、確かまだすべての市町ではやっていなかったはずだ。
それにコバルト侯爵領の各市町が加わったら、かなりの数になる。
ナビーさん、大忙しになりそうだ。
まぁ期限があるわけではないから、やれるときにやればいいと思う。
でも、きっとナビーさん……かなり張り切ってやっちゃうんだろうな……。
ナビーががんばってくれると、治安が良くなるからありがたいんだけどね。
それに更生可能な人は、更生してもらったほうがいいしね。
今後人々が精神波動を落とさずに、日々を楽しく生きるということが、この世界にとって重要になるはずだ。
そういう意味では、ナビーがやっていることは、非常に意義のあることなんだよね。
ナビーに感謝だ。
読んでいただき、誠にありがとうございます。
ブックマークしていただいた方、ありがとうございます。
評価していただいた方、ありがとうございます。
次話の投稿は、1日の予定です。
もしよろしければ、下の評価欄から評価をお願いします。励みになります。
よろしくお願いします。




