884.怨念に引き寄せられる、悪魔。
俺がテイムの上書きをした『竜馬』三十体と『軍馬』五十頭については、俺が引き取ることにした。
『竜馬』はオリョウに預け、『軍馬』は馬の霊獣である『スピリット・ブロンド・ホース』のフォウに預けようと思っている。
俺がテイムしたことによって、みんな『絆』メンバーになっているので、一旦は大森林に連れて行く予定だ。
まずはゆっくり休ませてあげて、その後希望するならレベル上げをして、本当に戦えるメンバーにしてもいいかもしれない。
なんとなく……オリョウの『竜馬軍団』、フォウの『軍馬軍団』ができてしまった気がしないでもない。
まだ国王陛下には言っていないが、事情を説明し俺の方で貰い受けることにしようと思っている。
普通なら、王国陛下の正規軍とか、セイバーン軍に組み込みたいところだろうけど、陛下やユーフェミア公爵なら、許してくれるだろう。
まぁセイリュウの化身獣であるオリョウが、虐げられているところを救出し、仲間にしたかたちになっているから、俺が求めなくてもそのままにしてくれるだろうけどね。
ちなみに『軍馬』たちは、俺の『絆』メンバーになったことで念話が通じるので、どうしたいか意思確認をしたところ、『竜馬』たちと一緒で、俺たちのところに来たいとのことだった。
『竜馬』たちが言っていたのと同じで、世話係の人間は悪い人間ではないが、テイムをしていた調教師と騎乗していた兵士たちは、道具としてしか考えておらず、酷い扱いをされていたらしい。
もともとは愛情を注いでくれる良い兵士たちもいたようだが、そういう心根の優しい兵士たちは将軍と衝突したりして、左遷されていなくなったとのことだった。
現在の軍のエリート兵士は、実力で選ばれたと言うよりも、将軍に擦り寄るような者が選ばれていたのだろう。
そういう意味では、エリート部隊である特別騎馬隊も、『軍馬』の騎馬隊も兵士たちも、実力は見掛け倒しだったのかもしれない。
ちなみに『軍馬』の騎馬隊は、第一騎馬隊という名前だったらしい。
第二騎馬隊、第三騎馬隊まであって、第二と第三は普通の『馬車馬』での騎馬隊らしい。
貴重な『竜馬』や高価な『軍馬』は、数を揃えるのに限界があったのだろう。
ただそれにしても、特別騎馬隊を含め四つの騎馬隊を作るぐらいコバルト侯爵軍は、騎馬にこだわっていたようだ。
第二騎馬隊、第三騎馬隊は、それぞれ五十頭の騎馬部隊らしいので、すごい力の入れようである。
『軍馬』たちからは、第二騎馬隊、第三騎馬隊の『馬車馬』たちも、できれば俺の仲間にして救出してほしいと頼まれた。
気持ち的にはそうしてあげたいところだが……そうしてしまうとコバルト侯爵軍の正規軍の主力が、ほとんど機能しなくなってしまうと思うんだよね……。
まぁ馬たちはいなくなっても、兵士は残るわけだけどね。
ただ……その兵士も、問題がある兵士が多いだろうから、今の地位を外される可能性が高い。
そうすると……馬たちがいなくなっても平気かもしれないけど。
コバルト侯爵軍自慢の騎馬隊が、根こそぎ失われるというのも自業自得で、ありかもしれない。
そもそも、なぜこんなに騎馬隊にこだわっていたのかがよくわからない。
確かに騎馬隊なら移動速度は早いので、領内の各市町で何かが起きたときに、救援に駆けつけやすいというのはあるだろう。
だが、それにしても無尽蔵に走れるわけではないから、それほど有効ではないと思うんだよね。
うがった見方をすると……領内の各市町に対して、睨みを利かせるための存在だったのではないかと思ってしまった。
そんな必要がないなら、無理に騎馬隊など組織せず各市町の衛兵の数を充実させてあげた方が、領民の為になると思うんだよね。
まぁ騎馬隊の存続も含め、俺が決めることではないけど、一度国王陛下に相談してみよう。
◇
コバルト侯爵領……領都コバルト……領城上空
「キ、キ、キ、まさかこんな上質な怨念を、偶然回収できるとはなぁ……。キ、キ、キ、ここの人間どもは、だいぶ混乱しているようだなぁ。せっかくだ……もう少し怨念の数を増やすとするか……。吾輩が作り込んだ『獣インプ』と『獣ジャキ』の仕上がりを見るのにも、ちょうどいいだろう」
空から城内の人々を見下ろしていた悪魔が、嗜虐の笑みを浮かべた。
この悪魔は、様々な種類がいる悪魔の中でも『獣の悪魔』という珍しい種類であった。
一般的な悪魔と違い、顔は狼の顔となっており、全身は灰色の毛で覆われ、獣人のような姿になっている。
だが頭から出た二本の角が、『中級悪魔』であることを示していた。
口からは、大きな牙がはみ出していた。
そして『中級悪魔』でありながらレベルは65で、『上級悪魔』に近い強さを持っていた。
近くの魔物の領域で小悪魔たちを捕獲していた『獣の悪魔』は、怨念を感じ取り、回収に来たのだった。
恨みを抱いて死んだ人の怨念が、悪魔に力を与えたり、仲間の悪魔を受肉させ顕現させるためのエネルギーになるのである。
人族の混乱した状況を感じ取った『獣の悪魔』は、好機と考えたのだ。
介入することで、更に多くの者の命を奪い、さらなる怨念の回収を企てたのだった。
運の悪いことに『獣の悪魔』は、独自能力によって改良し強化した眷属とも言える手駒を多く召喚できる状態だった。
『小悪魔 インプ』『小悪魔 ジャキ』という悪魔と魔物の中間のような生物に、自分の因子を植え付けることで強制的に強くするとともに、自らに従う手駒にしたのである。
通常は、『小悪魔 インプ』『小悪魔 ジャキ』も、15から20くらいのレベルなのだが、『獣の悪魔』の因子を植え付けられ、強制的に強化された結果、それぞれレベル35になっていた。
そして、姿も変容していた。
『小悪魔 インプ』は、通常、人間の子供ほどのサイズで、肌が赤く、頭からは触角が出ていて、背中にはコウモリのような翼が生えている。
『獣の悪魔』の因子を与えられたことによって、サイズは一回り大きくなり、顔は人に近かった状態から狼顔に変わっていた。
触角と翼はそのままだったが、全身が毛に覆われ筋肉質になり、より獰猛になっていた。
狂戦士のごとき雰囲気になっているのだ。
『小悪魔 ジャキ』も、通常は子供くらいのサイズで、緑の肌にスキンヘッドで人族に近い顔つきなのだが、同様に全身が毛で覆われ狼顔に変わっていた。
もともと生えている一本角は残っているが、長く伸びていた。
一回り大きくなった体は、より筋肉質になり、やはり狂戦士の如き獰猛さを表していた。
もはや別の生物と言っていいほど見た目が変わっている『獣インプ』と『獣ジャキ』だったが、『種族』としてはまだ『小悪魔 インプ』『小悪魔 ジャキ』を維持していた。
だが、その『状態』は『悪魔因子融合状態』『悪魔隷属状態』になっていた。
体が強化されていることとレベルが35になっていることで、並の兵士ではかなわない強さになっていたのだ。
この……まさに悪魔の使いと言える『獣インプ』と『獣ジャキ』は、『獣の悪魔』が領城の一画に作った召喚魔法陣から、次々に出現していた。
そして今まさに、牙をむこうとしていたのだ。
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