879.テイムの、上書き。
俺の分身『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビーが、『龍馬』のオリョウを連れて戻ってきた。
続いてニアが、猿のパーティー『モンキーマジック』を連れて帰ってきた。
「ご主人、やる事はナビーちゃんから聞いたし。あちしにお任せ! 『龍馬』になったあちしの思いを熱く語るって感じ。『竜馬』と『飛竜』には、念話で一斉に話しかけられるようになったし! 『龍馬』最高かよ!」
オリョウは、来るなりそう言った。
ナビーが説明してくれていたようなので、話が早い。
そして、オリョウは騎馬隊のほうに近づいて行った。
近づいて行ったと言っても、相手に認識されないであろうギリギリのところで止まっている。
オリョウは、そのまま動かない。
おそらく、念話で『竜馬』たちに語りかけているのだろう。
『竜馬』で構成されている特別騎馬隊の様子を、『視力強化』スキルを使って確認すると……『竜馬』たちは一斉にビクッとした感じではあったが、特に混乱する事はなく兵士を騎乗させたまま、走って近づいてきている。
すぐにオリョウが戻ってきた。
「ご主人、『竜馬』の子たちは、みんなあちしの所に来たいって告ってきたし! 扱いが酷くてマジ勘弁って言ってるし! 世話係には良い人間もいるけど、調教師と兵士はダメンズばっかって嘆いてるし。おさらばバイバイしたいって感じみたいだけど、調教師にテイムされていて、その縛りで自由になれないっていうマジ勘弁な状態みたいだし。ご主人の超絶パワーで、テイムできないかし?」
オリョウが、そんな報告をあげてくれた。
要するに……『竜馬』たちは、今の環境を良しとせず抜け出したいが、テイムされてるから逃げられないということなのだろう。
それで俺に、超絶パワーでテイムできないかと聞いてきているが……超絶パワーってなに?
まぁそれはいいけど……テイムされてる状態に、俺がテイムをしたらどうなるんだろう……?
「マスター、『限界突破ステータス』のマスターなら、テイムの上書きができるのではないでしょうか。十分可能性があると思います。もしこれがうまくいけば、今後、無理矢理テイムされて、奴隷のような状態になっている動物たちを強制的に救うことができます。既存のテイムの状態からマスターのテイム状態に切り替えて、その後解放してあげれば、自由にしてあげることが可能になります」
ナビーが、そんな指摘をしてくれた。
なるほど……理論的に可能なことなのかはわからないが……もしできたら、今後、悪徳テイマーから動物を救ったりできそうだ。
やってみるか!
俺は、『隠れ蓑のローブ』を纏い、姿と気配を消し『闇の掃除人』仕様になった。
そして、『飛行』スキルで、そっと騎馬隊に近づいた。
騎馬隊は、全く気づかない。
『竜馬』の特別騎馬隊は、隊列がコンパクトにまとまっているので、俺は『竜馬』たち全体に向けて、テイムをしてみることにした。
『テイム』スキルの中の技コマンドである『集団テイム』を使うのだ。
『集団テイム』は、特定の集団を一気にテイムできる特殊なコマンドなのである。
俺は、気合を入れて、心の中で「テイム」と叫んだ。
——ズズッ、ドンッ
——ズズッ、ドンッ
——ズズッ、ドンッ
——ズズッ、ドンッ
——ズズッ、ドンッ
「ぐあぁ」
「おぉ」
「なんだ」
「あぁ」
「いでぇ」
『竜馬』たちが一斉に立ち止まり、急停止されてバランスを失った兵士たちが、次々に前のめりに落馬した。
どうやら……テイムの上書きができたらしい。
やってみたら簡単にできてしまった……。
これって簡単にできちゃうことなんだろうか……?
いや……多分、簡単にできることではないな……。
これがもし簡単にできてしまったら、テイムされてる動物が簡単に強奪されてしまうからね。
俺が、『限界突破ステータス』という特殊な状態にあるからできたのか、もしくはレベル差がかなり開いているとできるのか……どちらかではないだろうか。
それを確かめるには、俺の仲間たちにも同じことをやってもらうしかないが、今はそんなことをしている場合ではないので、後でいいだろう。
俺は、引き続き、特別騎馬隊の後ろから来ている騎馬隊の『軍馬』についても、『集団テイム』コマンドを発動した。
『軍馬』たちの意思確認はしていないが、一旦全て俺がテイムしてしまうことにしたのだ。
そうすると、念話ができるようになるから、意思確認をして今の環境が良いものについては、戻してあげればいいだろう。
まぁ『竜馬』たちの話を聞く限り、『軍馬』も同じような扱いを受けているだろうから、そういう要望はあまりないかもしれないけどね。
『軍馬』たちも問題なく、テイムできた。
そして『竜馬』たちの時と同様に、急停止し、兵士たちが次々に落馬していった。
何人か踏みとどまった兵士たちもいたが、その兵士は俺が密かに近づいて落としてしまった。
このタイミングでオリョウに念話を入れて、『竜馬』たちをオリョウの下に呼んでもらった。
三十体の『竜馬』は、一斉にオリョウの下に駆け出した。
それに釣られるように、五十頭の『軍馬』たちも、一緒に走って行った。
これで兵士たちだけが残った。
『ヒコバの街』の西門までには、まだ少し距離があるので、戦場にするにはちょうど良い。
ここで、兵士たちを無力化することにした。
俺はすぐにニアとナビーのところに戻り、次の行動の許可を出した。
それは猿のパーティー『モンキーマジック』と『チーム付喪神』による兵士たちの無力化である。
特別騎馬隊の兵士三十人は『モンキーマジック』が対応し、数が多い軍馬の騎馬隊の兵士五十人は『チーム付喪神』が対応するというかたちにした。
「さぁあんたたち、訓練の成果を見せる時よ! 殺さないように思いっきり、やぁっておしまいなさい!」
ニアが猿たちに、ノリノリで指示を出した。
殺さないように思いっきりやるって……だいぶ難しいと思うんだけど……。
ニアは、すごく悪い笑みを浮かべている。
まるで悪の組織の女リーダーじゃないか……。
『モンキーマジック』たちは、特別騎馬隊に向けて、猛烈な勢いで走りだした。
土煙を立てている。
兵士たちも、何かが向かってくるのは確実にわかる状態だろう。
でも武装した猿たちが現れたら、結構ビビるんじゃないだろうか。
この猿たちは、それぞれ武装をしているのだ。
『ドワーフ』のミネちゃんが開発してくれたオリジナルの武器を持っている。
てか……この猿たち……本当に殺しちゃわないよね……?
まぁ殺しちゃっても、相手の自業自得だけどね。
鎮圧に来たのが俺たちじゃなくて、普通の兵士なら、殺されてしまう確率の方が高いだろうし。
でも殺さないで鎮圧するための実戦訓練だから、殺しちゃダメなんだよね。
一抹の不安がよぎるが……信じることにしよう。
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