878.反乱軍を、有効活用?
さて、じゃあ俺たちは、ヤーバイン将軍と特別騎馬隊を無力化するか。
『視覚強化』スキルで確認をすると……先頭に見えるのは『竜馬』に騎乗した兵士たちだ。
あれが特別騎馬隊だろう。
三十騎いる。
『竜馬』が三十体も並ぶと、かなりの威圧感だ。
三十体とも、一般的な体色のグレー色をしている。
ちなみに、オリョウは珍しい青色なんだよね。
この特別騎馬隊の『竜馬』たちは、ボディーと両腕に鎧のようなパーツを装着している。
銀の甲冑を着ているようにも見える。
短い腕につけているパーツの先端には、短剣が装着されている。
腕を振り回して、攻撃できるようになっているようだ。
人を乗せるだけでなく、戦うために武装された『竜馬』たちだ。
騎乗している兵士たちも、銀色に輝く豪奢な全身鎧を身に纏っていて、めちゃめちゃ強そうに見える。
それが三十騎もいるのだから、領外にまで評判になるのは理解できる。
後に続いているのは、大きな馬に乗った騎馬隊だ。
特別騎馬隊とは、別部隊のようだ。
この騎馬隊が騎乗している馬は、すべて『軍馬』のようだ。
通常の馬よりも一回り大きい。
『軍馬』の騎馬隊は、五十騎もいる。
そして『軍馬』たちも、鎧のようなものを身に付けている。
二つの騎馬隊を合わせて八十騎。
おそらく『ヒコバの街』の衛兵隊は、八十人から百人規模だろうから、数的には互角な感じだが、普通の衛兵とエリート部隊の騎馬隊では戦闘力が全く違う。
もし街の中に入られたら、一瞬でひねり潰されてしまうだろう。
それに、海賊たちにまで襲撃をさせているわけだから、奴らの予定通り進んでいたら、街は蹂躙され尽くしただろう。
多くの死者が出たはずだ。
見せしめのために、街一つを犠牲にしようとしていたなんて、本当にボンクランドは最低野郎だ。
絶対に許せない悪事だ。
「マスター、この騎馬隊を無力化させる手段として、騎乗している『竜馬』や『軍馬』を戦闘不能にしてはどうでしょう? オリョウを呼んで、『竜馬』を従わせてみましょう。オリョウは、『龍馬』にクラスチェンジして、『竜馬・飛竜を統べる者』という『称号』を得ていました。オリョウが話せば、従う可能性があると思います」
俺の分身、『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビーが、そんな提案をしてくれた。
いつもながらに、俺の発想が及ばないところを提案してくれる……さすがである。
「なるほど、それは面白いかもしれない。戦いの最中に面白いというのは、不謹慎だけどそれを試してみよう! オリョウを連れてきてくれるかい?」
「はい。かしこまりました。それから兵士たちの無力化についても、研鑽の機会として対人戦の経験が少ない者に当たらせてはどうでしょうか? 不謹慎ではありますが、現時点では切迫した状況ではないので、この機会を有効活用した方がいいと思います」
なるほど!
さすがナビーである。
教育の場にするわけね。
最近は……魅惑の完璧美人秘書というよりも、『残念B組 ナビ八先生』を運営する熱血教師としての側面が強いから、そういう発想ができるのかもしれない。
倒してしまえばいい魔物戦と違って、命を奪わずに無力化する対人戦は結構難しいんだよね。
俺の仲間たちなら、『共有スキル』にセットされている『状態異常付与』スキルで、『麻痺』か『眠り』を付与すれば簡単に無力化はできるのだが、それにしても本気で襲ってくる人を相手に、避けながらスキルをかける必要はある。
実戦経験は、あった方がいいんだよね。
『状態異常付与』スキルを使わないで、通常の武術で倒して無力化する場合は、もっと難易度が上がる。
それこそ、実戦での経験が役立つ部分である。
戦いの最中で油断することはできないが、まだヤーバイン将軍たちは到着していないし、戦いも始まっていない。
今なら落ち着いて対処ができる。
ここはナビーの提案通りで行こう。
「わかった。じゃぁそうしよう。ちょうどチーム付喪神が来ているから、彼らに対処してもらうか……」
「ねぇねぇ、それならさぁ、私が仕込んでる猿の軍団『モンキーマジック』にもやらせてよ。対人戦の経験は無いから、ちょうどいいのよ。今後、街で悪さをするチンピラとか、不良兵士なんかにも対処させようと思ってるから!」
ニアが俺の言葉に重ねるように、そんな申し出をした。
そして悪い笑みを浮かべている。
ニアは『猿軍団』の中から選抜した特別チームである『モンキーマジック』に、どんな活動をさせようと思ってるんだろう……?
一抹の不安を感じるが……ニアが一生懸命教育しているから、機会を与えるか。
ちなみに『モンキーマジック』は、俺が『闇オークション』に参加したときに、保護するために落札したこの地方では珍しい猿たちに、ニアの『猿軍団』から選抜したメンバーを加えて作ったチームなのである。
あくまで普通の生物なので、無理矢理戦わせる必要はないと思うのだが……ニアさんは戦う軍団として教育しているようだ。
いつもながら……猿たちが不憫でしょうがない。
そして『ドワーフ』のミネちゃんとゲンバイン公爵家長女のドロシーちゃんの開発コンビに、特別な武装の開発まで依頼していた。
どういうスイッチなのかわからないが、ニアさんはかなり気合が入っているんだよね。
簡単な試作品ができたようだったが、もしかしてそれを使いたいのかなあ……?
なんとなく……その武器を使ってみたいだけのような気もするが……まぁ深く考えたら負けだな……。
「わかった。じゃあ……『モンキーマジック』とチーム付喪神に任せよう」
俺はそう言って、ニアに『モンキーマジック』を連れて来るように頼んだ。
ナビーには、オリョウを連れて来るように頼んだ。
そして俺は、フミナさんに念話を入れ、チーム付喪神に俺のところに来てくれるように頼んだのだ。
チーム付喪神は、『高速飛行艇 アルシャドウ号』に乗ってすぐに来てくれた。
「グリムさん、街の中は、もう大きな混乱はありません。港のところ以外では、混乱は生じていなかったようです」
『アルシャドウ号』の付喪神であるエメラルディアさんが、報告してくれた。
「ありがとうございます。これから反乱軍がやってきます。『竜馬』に乗った特別騎馬隊と『軍馬』に乗った騎馬隊が来ます。最初に、『竜馬』と『軍馬』の無力化を試みます。その後、兵士たちの無力化を皆さんにお願いするつもりです。対人制圧戦は、殺してしまえばいい魔物戦と違い、独特の難しさがありますので、皆さんの経験の場にしたいと思います。それなので、対人戦が得意なツクゴロウ博士は、できればフォローに回ってもらえると助かるんですが……」
俺は、反乱軍の制圧を任せる趣旨を説明した。
そしてやる気満々のツクゴロウ博士に、やんわりとお願いしてみた……。
「まぁそういうことならば、いいじゃろう。ワシは、チーム付喪神のリーダーとしては、フォローに回る。趣旨から考えれば……フミナちゃんとクワちゃんもフォローでいいじゃろう。エメラルディアちゃんは、武装のテストということで参加したほうがいいの。闇さんとニコちゃんとリューさんとツボンちゃんが、メインでがんばるのじゃぞ!」
ツクゴロウ博士は、趣旨を理解し了承してくれた。
そしてリーダーらしく、メンバーに指示を出していた。
ツクゴロウ博士の指示によれば、対人戦経験がある元勇者の残留思念体であるフミナさんと、クワの付喪神クワちゃんは、フォローに回るようだ。
約三千年前、『九人の勇者』たちと共に戦っていた『マシマグナ第四帝国』の第四皇女の残留思念体であるエメラルディアさんも、経験的には参戦する必要はないのだが、新武装のテストのために参加するらしい。
メインで戦うのは、最近付喪神化したばかりの『闇の石杖』の付喪神の闇さんと、『ホムンクルス』の幼女ニコちゃんと、ツクゴロウ博士が連れていたリュートの付喪神リューさんと、壺の付喪神ツボンちゃんのようだ。
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