877.海獣軍団と、チーム付喪神。
ゼニータは、周囲の怪我人の状況を確認していた。
「怪我人の数が多すぎる……回復薬が足りない……すぐにでも治療しなければならない重傷者が多いのに……」
重傷者の多さに、ゼニータは焦りの声を上げた。
「大丈夫! 怪我人の治療は、私たちに任せてください! あー私たち、ニアちゃんの……妖精女神の使徒だから安心して!」
ゼニータに声をかけたのは、空飛ぶイルカだった。
イルカの群れが空を飛んでいるだけでなく、マナティーの群れも空を飛んでいた。
ゼニータは突然のことに驚いたが、妖精女神の使徒という言葉を聞いて、事態を飲み込んだ。
「ありがとうございます。お願いします」
「任せて! みんな、治療を頼む!」
仲間たちに指示を出したのは、リーダーである『川イルカ』のキューちゃんだった。
そう彼らは、『マナゾン大河』の平和を守る為にグリムに命名された『海獣軍団』なのである。
『海獣軍団』には、他にも巨大な川サメがいるが、巨大な川サメが空を飛んできたら人々が大混乱に陥るので、今回は川で待機してもらっているのだった。
『海獣軍団』のメンバーは、人の命がかかった緊急事態には、『空泳』スキルを使って人々を助けに行ってもいいという許可をもらっていたのだ。
グリムが事前に、様々な想定を話し、許可を出していたのである。
そのお陰で、キューちゃんたちは判断に迷うことなく、多くの命を救う事ができた。
もちろん、この時点で主人であるグリムには、念話で連絡を入れていた。
「なぜこの街を襲った!? なぜだ!?」
ゼニータは、海賊のリーダーを締め上げて、情報を引き出そうとした。
「もう遅いわっ! 今頃は……守護を殺す部隊が街に入る頃だろうよ。……それに、これで俺たちに勝ったつもりか? ヒッヒヒ」
リーダーの男はそう言うと、倒れたふりをしている部下の海賊に目配せで合図を送った。
——バゴォォォンッ
◇
俺は、ニアと俺の分身『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビーとともに、『ヒコバの街』の外壁の外側近郊に転移した。
転移が終わるとほぼ同時に、『川イルカ』のキューちゃんから念話が入った。
もうすでに襲撃が始まっていたようで、海賊たちが港から上陸し襲撃をかけたようである。
キューちゃんが駆けつけた時には、海賊たちはすべて倒されていたらしい。
細い剣を使う女性と硬貨を投げる女性が倒したようだと言っていたから、おそらく……女侍のサナさんと『特命チーム』のゼニータさんだろう。
ただ多くの怪我人がいたらしく、キューちゃんたち『海獣軍団』が上陸して、治療に当たっているところらしい。
港の海賊の襲撃が鎮圧できているなら、あとはヤーバイン将軍が率いる軍を止めればいいだけだ。
俺たちは、軍が来るであろう西門に向けて走った。
西門に着くと、通用門が閉ざされていた。
間に合ったようだ。
まだヤーバイン将軍には、襲撃されていない。
だが、もうすぐそこまで近づいて来ている。
地響きが伝わっているのだ。
——バゴォォォンッ
なんだ!?
街の中から大きな音が聞こえた。
(マスター、大変! 港で爆発が起きました。火を消して、怪我人を救助します。なんか……門を破壊されたみたい)
キューちゃんが、念話で報告をあげてくれた。
どうやら港の襲撃は、まだ終わっていなかったらしい。
(キューちゃん、人命救助を最優先で頼む!)
(はい、わかりました。あ、ちょっと待ってください……ゼニータっていう人が、伝えてくれって言っています。港門を爆弾で破壊したのは、門が閉じれないようにするためで、この後、海賊の仲間が襲撃しに来る計画のようですって言ってます!)
なんと!
海賊襲撃の第二波があるのか!
(わかった。海賊の襲撃にも備えて警戒体制をとって! すぐに俺かニアが行くから)
俺はそう指示を出したのだが、そこに割り込むように念話が入った。
(あのグリムさん、フミナです。私たちチーム付喪神も、今港につきました。ゼニータさんがキューちゃんに伝えている内容を、『聴力強化』スキルで拾いました。これから襲ってくるという海賊は、私たちが無力化しちゃいました。『高速飛行艇 アルシャドウ号』で来たんですが、この港に着く手前で怪しい船を見つけ……その時は川賊だと思ったのですが、船に乗り込んで無力化しました。中型船が三隻あって、五十人ぐらいいましたが、それが海賊団だと思います。だから海賊による襲撃はもうないと思います)
『魔盾 千手盾』の付喪神フミナさんからの念話だった。
出動要請はしていないが、自主的に出動してくれていたようだ。
領都での屋台巡りの後は、『コロシアム村』の俺の屋敷に戻ると言っていたから、もしかしたらゼニータさんからコバルト侯爵領での反乱の話を聞いて、様子を見に出動してくれたのかもしれない。
そして未然に、危機を防いでくれていたようだ。
(ありがとうございます。コバルト侯爵領に向かっていたのですか?)
(はい。ゼニータさんの話でコバルト侯爵領で反乱があったと聞いて、ツクゴロウ博士がどうしても出動するって言うものですから……。博士もコバルト侯爵領について調べていましたから、国王陛下の力になりたいと言っています)
なるほど……そういうことか。
確かに博士もいろいろ調査していたようだから、来てもらったら助けになってくれるはずだ。
そして博士が行くと言い出したら、誰にも止められないからね。
(ありがとう。じゃあ……他に近づく海賊はもういないと言うことですね?)
(はい。大丈夫です。この時間に、川を通行している船は他にはありませんでした。見るからに怪しい海賊船三隻以外は、船は見当たりませんでした。その船の海賊たちは、皆縛り上げています。ほとんどは、ツクゴロウ博士が一人で暴れまわって倒しちゃいました。私たちは縄で縛っただけです)
本当に大丈夫のようで良かった。
そして海賊襲撃の第二波が、未然に防げて本当に良かった。
それにしても……またツクゴロウ博士が杖を持って暴れ回ったのか……。
最初に会った時も、川賊を杖でボコボコにしていたからなあ……。
川賊といい海賊といい……もしかしてツクゴロウ博士の大好物だろうか……。
まぁいずれにしろ、港の方は完全に安心できる状態になったようだ。
(フミナさん、それではキューちゃん達と協力して、怪我人の救助をお願いします。落ち着いたら、『アルシャドウ号』で上空から街の様子を確認してください。問題がないようなら、西門にお願いします)
俺は、そう指示を出した。
(わかりました。できるだけ早く西門に向かいます!)
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