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876.奥義、連発。

 チーバ男爵は、少しでも早く海賊を制圧し、西門に向かわなければならないと強く思っていた。


 西門にはおそらく、領主であるコバルト侯爵の意向を受けた正規軍が現れると考えていたからだ。

 実際には、その息子のボンクランドの指示を受けたヤーバイン将軍と特別騎馬隊が向かって来ていたのである。


 チーバ男爵の切実な想いとは裏腹に、海賊たちはチーバ男爵に対しては積極的に攻撃をしてこなかった。

 名乗りを上げたのが、完全に裏目に出てしまったのだった。


 海賊たちはチーバ男爵を避け、衛兵たちに襲いかかった。


「このままではまずい……。皆、私の後ろに下がれ!」


 チーバ男爵は叫んだ。


 すると展開していた衛兵たちは、一気にチーバ男爵の元に集まり、指示通り後ろに下がった。


 そして、追撃してきた海賊は、チーバ男爵により斬って捨てられた。


 チーバ男爵は、事態を早く収集するために、あえて一人で全員を相手にすることを決めたのだ。

 この体制にしてしまえば、チーバ男爵を避けて衛兵を狙うということができなくなるのである。


「我が『ホクシン流』の奥義を見せてくれる! 『ホクシン流』奥義、一刀両断! トォォォォ!」


 チーバ男爵は、裂帛の気合で叫ぶと、すり足のような独特な足捌きで一瞬にして海賊に近づき、正面の三人を一太刀で斬り裂いた。

 目にも留まらぬ速さの横薙ぎの一閃だった。


「『ヒザマル』は、やはりよく斬れる。『ヒザマル』を持ってきて正解だったようだ」


 チーバ男爵は、満足げに独り言を呟いた。

 その顔は守護の顔から、一人の剣豪の顔になっていた。


 チーバ男爵は、通常の兵士が使っているような剣ではなく、刀と言われる珍しい武器を装備していた。


『ヒザマル』とは、初代チーバ男爵から伝わる伝家の宝刀の一つだった。


 凄まじい切れ味の刀なのである。

 鍔迫り合いをするのではなく、切断しようと思って打ち込めば、並みの剣など切断してしまう威力があった。


「時間がない……。貴様ら運がいいな。我が一族に伝承されている奥義をいくつも見れるとは……。『ホクシン流』奥義! 単刀直入! トォォォォ!」


 またもや独特の足捌きで、瞬時に海賊の集団に近づくと、突きの攻撃を放った。

 一人を串刺しにし、そのまま足捌きと共に押し込み、二人立て続けに串刺しにした。

 刀身の長さに収まる三人を、一気に串刺しにしたのである。


 チーバ男爵は、すぐに刀を引き抜くと、また身構えた。


「『ホクシン流』の極意は、“攻め”だからな……。出し惜しみは無しだ! 最終奥義が一つを見せてくれよう。刀耕火種(トウコウカシュ)!」


 チーバ男爵は、刀を下に向け、切っ先を地面につけながら残る海賊に向けて走り寄った。

 そして、ある程度距離が縮まったところで、そのまま下から斬り上げる攻撃を放った。


 地面を切り裂くような斬撃が飛び、その衝撃で海賊たちは吹き飛ばされた。

 刀の切っ先には、一瞬、炎が揺らめいていた。


 この技は、地面を切り裂き耕すほどの強力な一振りで斬り上げ、衝撃波を放つ技であった。

 地面を滑る切っ先から火花が飛び、切っ先に炎を纏わせるのだ。

 最終的には、念の力と相まって、刀身全体に炎を纏わせる火炎刀とするのである。


 火炎刀は、この最終奥義を完全に体得した者のみが出せるもので、実現できたのは歴代の当主の中でもほんの一握りしかいなかった。

 チーバ男爵は、未だその域には到達していなかったが、海賊を屠るには十分な剣技であった。


 ——ズバンッ

 ——ズバンッ

 ——ズバンッ

 ——ズバンッ

 ——ズバンッ


 ——カンッ、カンッ、カンッ、ズボッ、ズボッ


「ぐ、ぐうぅぅぅ……」


 優勢だったチーバ男爵が、腹と足から出血しうずくまった。


 海賊のリーダーと幹部たちが、魔法銃による集中攻撃をしたのだ。


 彼らは、この時を待っていた。

 十分に引きつけて、技を放った後の隙を突いたのだ。


 もちろん達人級の腕前のチーバ男爵は、その気配を察知し刀身で魔法弾を弾いたが、全てを防ぐことはできなかったのだ。

 顔や上半身に向けられた魔法弾は弾いたが、腹部と右足に被弾してしまったのだ。


 魔法銃は、現代においては一般的な武器ではなく、遭遇する機会が少なかったことと、一斉に攻撃された事で防ぎようがなかったのである。


「ぐ、ぐうぅぅ、ま、まだまだ……まだだぁぁぁ」


 かなりの重傷だったが、チーバ男爵は戦意を失っていなかった。

 刀を杖のように使い、立ち上がった。


「ヒッヒヒ、この領でも有名な強者らしいが……剣なんてなぁ……近づかなきゃ何もできないんだよ! 俺たちのような最先端の海賊はな……魔法銃を使うんだよ! ヒッヒヒ。さぁトドメだ! 死ね!」


 ——ベチッ

 ——ベチッ

 ——ベチッ

 ——ベチッ

 ——ベチッ


「ぐあぁ」

「ひいぃ」

「いたっ」

「なっ」

「て、手がぁ」


 万事休すかと思われたその時、魔法銃を持った海賊たちが銃を落とし呻き声を上げた。


「父上、しっかり、しっかりしてください!」


「サ、サナ……」


 チーバ男爵に駆け寄ったのは、次女のサナであった。


 ピグシード辺境伯領に仕官することになっている彼女は、セイバーン公爵領『セイセイの街』近くの『コロシアム村』に滞在していた。


 そこに『特命チーム』のゼニータが訪れ、コバルト侯爵領内での事件を伝え、チーバ男爵の力を借りるために、二人で迎えに来たところだったのだ。


 ゼニータの飛竜に騎乗して来た二人は、港の異変にすぐに気づき、舞い降りたのだった。


 魔法銃を持っていた海賊のリーダーと幹部たちは、ゼニータの投げ銭とサナの小太刀により手を負傷して魔法銃を落としたのだ。


「サナ……どうして……」


 チーバ男爵は口から血を吐き、言葉を繋ぐことができなかった。


「父上、しっかりしてください!」


「この回復薬をかけて!」


 ゼニータはそう言って、サナに魔法薬を投げた。

 サナは受け取ると、すぐにチーバ男爵にかけて、なんとか事なきを得た。


「父上、ここで休んでいて下さい。後は私たちに任せて」


 サナはそう言うと、一度目を閉じた。

 怒る気持ちを抑えて、冷静になる為である。

 そして大きく息を吐くと、刀に手を添えた。


「『ホクシン流』奥義……刀蝶乱舞(とうちょうらんぶ)! ヤァァァァ!」


 サナは、抜刀するとすり足のような独特な足運びで、海賊のリーダーや幹部たちに急接近し、舞うような動きで何度も斬り付けた。

 まさに蝶が花畑で舞い踊るような動きであった。

 優雅でかつ恐ろしい斬り付けである。


 サナは、峰打ちで斬り付けていたので、海賊たちが死ぬ事はなかったが、皆両手両足の骨を砕かれていた。





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次話の投稿は、14日の予定です。


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[一言] >「『ヒザマル』は、やはりよく斬れる。『ヒザマル』を持ってきて正解だったようだ」  兄弟刀にヒゲキリがありそう。
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