868.爆破阻止の、お手柄。
俺は、引き続き、挨拶に来た貴族たちの対応をしている。
国王陛下と王妃殿下は、ホールの奥の中央で挨拶に来る貴族家と会話を交わしているのだが、その少し離れた横のスペースで、俺も同じような状態になっているのだ。
国王陛下たちと並ぶようなかたちで、貴族の挨拶を受けているのは、かなり気が引ける。
そんな時だ、衛兵の一人が慌てて入ってきて、ユーフェミア公爵に耳打ちした。
何事があったようだ。
俺は『聴力強化』スキルを使い、その報告を拾う。
なに! コバルト侯爵が暗殺された!?
ユーフェミア公爵になされていたのは、そんな衝撃的な報告だった。
「皆すまないが、私とグリムは少しだけ席をはずすから、気にせず引き続き歓談を楽しんでおいておくれ」
ユーフェミア公爵がそう言うと、俺に耳打ちした。
コバルト侯爵暗殺事件があったという話を、俺にもしてくれたのだ。
なぜかユーフェミア公爵は、俺も一緒に連れて行くつもりらしい。
ユーフェミア公爵と俺とニアは、早速、特大ホールを出て、城の西側出口に向かった。
出口にだいぶ近づいた通路に、血まみれのコバルト侯爵が倒れている。
体を二カ所刺されているようだ。
周囲には、衛兵たちと……なぜかナルシスト貴族のシャイン=マスカット氏と、元取り巻き美女集団の『マスカッツ』の面々がいる。
そして、コバルト侯爵の護衛をしていた四人の近衛兵が縛り上げられている。
なぜに……?
もしかして……近衛兵が暗殺したのか?
そして……シャインとこの子たちが、取り押さえたのか?
衛兵は、ユーフェミア公爵に詳しい報告をした。
それによれば、俺の予想は当たっていた。
シャインがたまたま遅れて来て、暗殺現場に鉢合わせしてしまったようだ。
もっともシャインが現れたときには、すでにコバルト侯爵は殺された後だったようだが。
さらに、この建物を破壊するために何かの装置をセットしていて、完了とともに逃げようとしていたところを、シャインと『マスカッツ』の子たちが取り押さえたらしい。
そして運良く、装置も起動されずに済んだようだ。
その装置は……爆弾だった。
俺たちが、探していたものだ。
『正義の爪痕』が作って、『マットウ商会』がコバルト侯爵領内にある二つの商会に販売してしまったものである。
まさかコバルト侯爵領の近衛隊が手に入れて、暗殺に使おうとしていたとは……。
いや……近衛隊が独自にそんな動きをするのは……不自然だ。
誰かの指示を受けていると考えるべきだろう……。
それにしても、起爆されずに拘束できた事は奇跡的だ。
シャインは、何か“持っている”のかもしれない。
というか……大金星だ!
ここで爆発していたら、大混乱になっていただろうし、他にも犠牲者が出ていたかもしれない。
入口に近い場所で、周りに多くの人がいなかったが、それでもそれなりの被害になっていただろう。
なんとなくだが……本来は、もっと人が多いところで使うはずだったのかもしれない。
コバルト侯爵の下衆な行いで、強制退場になってしまったから、ここで実行するしかなくなったのではないだろうか。
ある意味……コバルト侯爵の下衆な発言での退場が、俺たちにとっては良い方向に作用したとも言える。
暗殺犯を殺さずに拘束したのも大きい。
四人のうちの二人は、あの弱々しかった『マスカッツ』の子たちが取り押さえたとのことだ。
その報告を聞いて、俺は涙が出そうになった。
あの腰が引けて、全く戦う力がなかった子たちが……この数日で、悪党を取り押さえることができるほどたくましくなった。
毎日頑張っている訓練の成果が出たようだ。
先生になってくれたクワの付喪神のクワちゃんに、お礼を言っておかなきゃ。
残る二人は……シャインをぼーっと見つめているから、魅了効果のあるあのスキルを使ったのだろう。
ナルシスト100%のスキルだが……絶妙に使えるスキルかもしれない。
「シャイン、『マスカッツ』のみんな、よくやったね。お手柄だよ! みんなのおかげで、無関係な人が命を落とさずに済んだ。ありがとう!」
俺は改めてシャインと『マスカッツ』のみんなに、労いの言葉をかけた。
「友よ、当然のことをしただけだよ。愛しのユーフェミア様の城に美しくない者がいたからね。美しさを教えてやらないと……」
シャインはいつも通りな感じで、そんなことを言った。
隣でユーフェミア公爵が、苦笑いをしている。
「グリム様、ありがとうございます。なんか今でも信じられないっす。グリム様が訓練できるようにしてくれたおかげっす!」
「「「ありがとうございました!」」」
サンディーさんが、興奮気味に笑顔を作った。
そして他のみんなも、一斉に俺に頭を下げた。
なぜか逆にお礼を言われてしまった。
なんか……自分たちが悪者を捕らえることができて、本当に嬉しいようだ。
少し自分に自信が持てたんじゃないだろうか。
今後も精進して、いろんな人の役に立って、さらに自分に自信が持てたら、今の外面的な美しさが内面的なものに拡充されて、より美しくなるんじゃないだろうか。
もしかしたら……最強美女集団になっちゃったりして……。
まぁ『高貴なる騎士団』という最強美女集団が既にあるから、最強という称号は難しいかもしれないけどね。
てか……下手をしたら最強美女集団のインフレが起きるかもしれないなぁ……。
ユーフェミア公爵が、密かに第一王女で審問官のクリスティアさんを呼んだ。
彼女の持つ『強制尋問』スキルで、計画の全容を聞き出すためだろう。
俺とニアとユーフェミア公爵も、クリスティアさんの尋問に立ち会った。
……その結果わかったのは、恐るべき計画だった。
侯爵暗殺の首謀者は、なんとその息子で次期領主のボンクランドという男らしい。
以前の打ち合わせで、コバルト侯爵領の話になった時に、様々な問題がある現侯爵よりも次期領主の息子の方が、より酷いという話を聞いていたが、本当のようだ。
実の親を暗殺するなんて……。
晩餐会で密かに暗殺した上で、爆破して大混乱に陥れる。
そして、自分は被害者面をして、セイバーン公爵領に賠償まで請求する腹づもりだったようだ。
暗殺の目的は、早く家督を継ぐためらしい。
そして驚くことに、今まさにコバルト侯爵領で、ボンクランドが武力によって実権を掌握しているだろうとのことだ。
将来邪魔になりそうな自分の兄弟姉妹やその家族、そして自分に反抗的な重臣もすべて抹殺する計画とのことだ。
完全な反乱行為である。
今まさに虐殺が行われているかもしれない。
止められるものならば、止めなければ。
「ユーフェミア様、コバルト侯爵領には私と仲間たちで先行します。もしまだ間に合うなら、虐殺を止めます!」
俺は、ユーフェミア公爵に申し出た。
「わかった。頼むよ。私は陛下に報告して、今後の対応を決める。一人でも多くの命を……頼む」
「わかりました」
俺はニアとともに、城を出て、人気のないところに移動した。
そして、俺の分身、『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビーに、顕現してもらった。
ナビーの転移の魔法道具には、コバルト侯爵領の領都が、転移先として登録されているからだ。
ナビーは、飛竜船でビャクライン公爵の近衛兵を、ビャクライン公爵領まで送る時に同行し、途中の領の都市を転移先として登録してたのだ。
俺たちは、『領都コバルト』の外壁の近くの人気のない場所に転移した。
この感じ……中が騒がしい……。
もうすでに、騒ぎが起きているようだ。
「まずは、領城に向かおう!」
俺はそう言って、飛び上がった。
『飛行』スキルが手に入ったので、もう自由に空を飛べるのだ。
俺とナビーは『飛行』スキルで空を飛び、ニアは元々飛べるので、一緒に空を飛んで領城に向かった。
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