表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

875/1442

866.ゲスな領主は、レッドカード!

 突然の国王陛下の登場に、コバルト侯爵はもちろんだが、周りのセイバーン領の貴族たちも一様に驚いている。


 サプライズ登場が、このタイミングになってしまったようだ。

 突然周りの人たちが、陛下に対して跪いた。


「へ、陛下……なぜこちらに……」


 コバルト侯爵が、驚きの声を上げたが、跪くことはしなかった。


「いや……明日の式典に、サプライズで出ようと思ってね。何といっても、『五神獣』様方が建国時の約束を守り、『神獣の巫女』と『化身獣』という危機に対処する力を遣わせてくださったのだ。私が来ないわけにはいくまい」


「くっ……」


 コバルト侯爵が、陛下を睨みながら歯を食いしばっている。


 前にコバルト侯爵の話が出たときに、陛下の言うことすら聞かない困った領主だと言っていたが、ほんとのようだ。


 普通なら、「ははぁ」と跪いて、悪事を咎められ一見落着するところだが……。

 このゲス領主……思いっきり陛下を睨みつけている。


 下手したら……不敬罪で打ち首だと思うんですけど……。

 というか……不敬罪ということで、いっそ打ち首にしてしまったほうが、いいんじゃないだろうか……。


「コバルト侯爵、私が許可した移民募集に、まさか本気で異を唱えているわけじゃないんだよね……? もう余興は充分だ。みんな楽しんだから、今日のところは宿に帰りたまえ」


 国王陛下は、蔑むような視線を送りながらそう言った。

 さしずめ陛下からのレッドカード……退場宣告といったところだろう。


 コバルト侯爵は、唇を噛み締めながら未だ陛下を睨んでいる。


「ここは、お暇いたしましょう」


 お付きの者たちが、両脇からコバルト侯爵を抱えるようにして、無理矢理下がるようだ。


 賢明な判断だろう。

 というか、お付きの者たちも、今まで何をしてたのかって感じだけど……。

 まぁ侯爵は忠言を聞くようなタイプじゃないから、何もできなかったのだろう。


「さあ、皆さん余興が終わったので、楽しい晩餐会を続けましょう」


 国王陛下は、みんなにそう声をかけた。


 せっかくの晩餐会の楽しい雰囲気を一瞬にして壊した暴言事件も、陛下の手によって、余興ということになってくれた。


 周りにいる貴族の皆さんも、そんな陛下の気持ちに応えるように、また精力的に会話を始めて、元の雰囲気に戻していた。


 大人の対応というやつだろう。


「ソフィアちゃん、タリアちゃん、立派だったよ。君たちの勇気ある行動が、本当に素晴らしかったよ」


 俺は二人の頭を撫でながら、褒めてあげた。

 そして、母を守るために頑張った二人を、思いっきり抱きしめた。


 なぜか二人とも真っ赤になっていたが、喜んでいるようだった。

 褒められて照れくさいのかもね。


「グリムさん、ありがとうございます。助けていただかなくても、私がやり込めましたのに……」


 アンナ辺境伯が、微笑みながら俺の肩を叩いた。


「すみません。アンナ様が対処できるのはわかっておりましたが、卑劣な物言いに我慢できなくなりまして……」


「まぁいいじゃないか。面白い余興になったよ。ハハハ」


 ユーフェミア公爵が、笑いながら近づいてきた。


 ユーフェミア公爵も、近くにいたけど放置状態だったからね。

 途中から楽しんでるような表情をしていたのを、俺はチラッと見ていた……。


「しかし、あんた、よく我慢したね。私だったら、二、三発入れたね……」


 今度は、ユーフェミア公爵の義母で、アンナ辺境伯の実母でもあるマリナ騎士団長が近づいてきて、俺の肩を叩いた。


 そしていつものように、俺の肩を抱いた。


 この男同士の友情みたいなパターン……いつも通りではあるけど……微妙にドキッとするんだよね。


「ほんとよ。グリムがあとちょっと出るのが遅かったら、私が出てたわよ。グリムが出て正解ね。私だったら、やっちゃってたからね……」


 ニアが近づいてきて、そんな物騒なことを言った。


 というか……実はニアさん……こっそり手を出してたよね?


 コバルト侯爵が、二回目にコケたとき……ニアが最小威力の『風魔法——風弾(ウィンドショット)』を侯爵の足下に放っていたのだ。

 それで足がもつれて、転んだんだよね。

 だから……本当は……鼻の骨をへし折ったのは、ニアであるとも言えるのだ……。

 誰も気づいてなかったけどね。



 国王陛下に続いて王妃殿下も現れて、晩餐会の会場がさらに盛り上がった。


 俺が予想した通りに、セイバーン領の貴族たちは、国王陛下と王妃殿下の前に列をなした。

 せっかくの機会なので、間近に国王陛下と王妃殿下を見たいという気持ちと、一言だけでも挨拶をしたいという気持ちなのだろう。


 その仕切りは、マリナ騎士団長がしている。

 貴族たちが、順番に国王陛下と王妃殿下の前に進み出て、家族揃って跪いて挨拶をするというかたちになっている。

 一言二言、言葉を交わして、終了といった感じである。


 まるでアイドルの握手会のようだ。

 さすがに引き剥がし担当のスタッフはいないけどね。


 俺は解放されるかと思ったが、そう甘くはなかった。

 ユーフェミア公爵から、さっきのスペースに戻され、挨拶したいという貴族たちの対応をしなければならない。


「ゼニータとトッツァンがお世話になっております。私は、コウイチィ=ヘイジ準男爵と申します」


「姉と弟がお世話になっています。私は、ガタノ=ヘイジと申します」


 そう挨拶してくれた二人は、『特命チーム』のゼニータさんとトッツァンくんの父親と長男だった。


 ちなみに、ゼニータさんとトッツァンくんは、爆弾の捜索のためにコバルト侯爵領にいるので、今日の晩餐会には参加していないのだ。


 ヘイジ準男爵は、四十代後半くらいに見える。

 痩せてスラッとしていて背が高い。

 ゼニータさんやトッツァンくんと同様に黒髪だが、短く刈り上げられていて、少し角刈りっぽい。

 貴族の中では、珍しい髪型だと思う。

 長男のガタノくんも、同じ髪色、髪型だ。

 ちなみにゼニータさんは、部活少女のようなキュートな感じのショートカットで、トッツァンくんも姉を真似たのか、同じような髪型なのだ。


 話によるとヘイジ準男爵は、商事担当執務官の一人ということだった。

 商事担当執務官という役職は、『商人ギルド』の支援と監督をしたり、領内の商いの状況を把握したりする仕事とのことだ。

 商事つまり商い事の振興も仕事内容になっているし、適正化も仕事内容になっているらしい。

 買い占め等による相場操作などを、厳しく取り締まったりするとのことだ。

 商売の振興と適正な商取引の監視を担っているということだろう。

 ある意味……経済犯罪を取り締まるデカとも言えるかもしれない。


「新興商会の『マットウ商会』が、まさか『正義の爪痕』の関連機関だとは思いませんでした。まぁそれも突き止めて、悪事を暴くことができたので良かったです。『マットウ商会』は、グリム殿に引き継いでもらうことができ、良い商会に生まれ変わるでしょう。私の予想では、数年もしないうちに、このセイバーン公爵領で、『フェアリー商会』と『マットウ商会』が一位と二位の規模になると思っていますよ。ユーフェミア様から少し聞きましたが、『マットウ商会』は小さな規模の商人たちを助けてくれるような仕組みを作って活動するとか……さすがです。人々の生活が豊かになることを期待しています。産業振興執務官のマスカット家のシャイニング君だけでなく、私にも遠慮なく声をかけてください。協力させていただきます。ガハハハハ」


 ヘイジ準男爵は、そう言って大きな声で笑った。


 実直な感じの人柄で、まさにゼニータさんの父親という感じだ。

 一緒にいて気持ちのいい人である。





読んでいただき、誠にありがとうございます。

ブックマークしていただいた方、ありがとうございます。

評価していただいた方、ありがとうございます。


次話の投稿は、4日の予定です。


もしよろしければ、下の評価欄から評価をお願いします。励みになります。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] > この男同士の友情みたいなパターン……いつも通りではあるけど……微妙にドキッとするんだよね。  距離が近いけどグリムさんがその気になってもそれはそれでという感じはある。 >「ゼニータとト…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ