806.わたあめの、威力。
「『わたあめ』はすごいのだ! ふわふわで……お口の中で、すぐなくなっちゃうのだ!」
「とろけるなの〜。雲さんを食べているみたいなの〜。毎日食べるなの〜」
「『わたあめ』ちゃんは、強すぎるのです! 見た目の可愛さに惑わされちゃいけないのです! 大きく見せて、口に入れるとすぐなくなっちゃうのです! これはおそらく……幻術なのです! またもや幻術を使う強者が現れたのです! でもミネは、見た目の大きさに惑わされて、お腹いっぱいになったりしないのです! 可愛くて……ふわふわで……甘くて……本当に恐ろしい相手なのです。こんなに強い『わたあめ』ちゃんを作り出す道具を作ってしまった自分が……怖いのです。でも……恐怖に打ち勝ち、これからも美味しいものを作る道具を作りまくるのです!」
「またすごい食べ物ができてしまいました。なぜグリムさんは、こんなこと思いつくのでしょう……? グリムさんの頭の中っていったい……。でも解剖するわけにはいかないし……やはり、一生そばにいるしかありませんわ」
リリイ、チャッピー、『ドワーフ』のミネちゃん、ゲンバイン公爵家長女のドロシーちゃんが、いつものようにそれぞれ独特な感想を述べてくれた。
今回も突っ込むのは、やめておこう。
まぁ喜んでくれているということで良いだろう。
それから……もう一組……感想が気になるあの子たちは……
「父上、口に入れると急に小さくなって、一瞬でなくなってしまうのです! そしてあまりの甘さに、体が軽くなるのです。これを食べ続けたら……多分空に浮くことができるようになると思います! そしてレベルも上がるかもしれません!」
「じゃあ僕は、『わたあめ』をずっと食べ続けます!」
「僕は、『わたあめ』を作る修練をします!」
ビャクライン公爵家のシスコン三兄弟……イツガくん、ソウガくん、サンガくんは、そんな感想を言っていた。
やっぱり、そうなるよね……。
もう……突っ込む気持ちはあまりないんだけど……。
一応、突っ込んでおくか……。
『わたあめ』食べ続けても、『浮遊』スキルとか身に付きませんから!
もちろんレベルも上がりませんから!
『わたあめ』をずっと食べ続けたら……太るよ!
『わたあめ』を作る修練を積んだら……屋台の親父になっちゃいますから!
「シンオベロン卿、これはすごい! なぜこんなものを思いつくのだ!? このふわふわ……どうすればこんなものが作れるのだ!? だが……シンオベロン卿、私もやられてばかりではないぞ! この『わたあめ』の秘密は、すでに見抜いたぞ! このふわふわを握っていくと、小さくなって硬くなる! そして口の中で……舐める! そういう楽しみ方を、隠していたのだろう? ハハハハハハ、お見通しだ!」
ビャクライン公爵が、超ドヤ顔でそんなことを言った。
『わたあめ』を手で小さくしていって、飴玉のようにしてしまったらしい。
本人は、それが秘密のもう一つの食べ方みたいな勘違いをしてるけど……何やっちゃってるわけ!?
『わたあめ』の良さ…… 0%なんですけど……。
絶対誰かやるとは思ったけどさぁ……ビャクライン公爵かい!
『わたあめ』の良さを完全に無くしたビャクライン公爵には、『わたあめ殺し』という称号を送りたい気分だ!
「グリムさん、この『わたあめ』を作る装置は、販売しないのかしら? 王城において、ティータイムで食べたいのよね……」
王妃殿下が、そんな質問をした。
かなり気に入ってくれたようだ。
「『フェアリー商会』の独占商品にしようと思っているので、装置を販売するつもりはないのですが……王妃殿下には特別に進呈いたします」
俺は、少し茶目っ気をのせて答えた。
「まぁ、それは嬉しいわ。ありがとう」
王妃殿下は、目を輝かせた。
「グリム、もちろんセイバーン城の分もくれるんだろうね……?」
『セイリュウ騎士団』団長のマリナさんが、悪戯っぽく笑いながら言った。
「お義母様、グリムならくれるでしょうが、領城にこの『わたあめ』屋台を出してもらえばいいんですよ。そのほうが、みんな食べたい時に食べれます」
ユーフェミア公爵が、俺を見てニヤけながらそんなことを言った。
「実は私も、領城の屋台に追加してもらおうと思っていたのです」
「私もです」
ピグシード辺境伯領領主のアンナ辺境伯とヘルシング伯爵領領主のエレナ伯爵が、食い気味に言った。
「まぁ、それはいいわねぇ! じゃぁ王城にも、早速『フェアリー商会』さんの屋台を一式出店してもらおうかしら。王城は人数も多いし、屋台を出すスペースも二カ所ぐらい作ろうかしら。みんなが買いやすいようにするには、少しの移動で買えるように四カ所ぐらいのほうがいいかしらねぇ……」
王妃殿下が、「閃いた」とばかりに手を叩きながら、ノリノリでそんなことを言っている。
「そうだね。それがいい。王都に『フェアリー商会』を本格的に進出させるには準備もいろいろ大変だろうけど、屋台を出店するくらいなら、すぐにできるだろう?」
今度は国王陛下がそんなこと言った。
そして、ニヤけながらも、圧強めで俺を見た。
なにこれ……?
事実上の強制ってこと……?
「いいですなぁ! 我がビャクライン城にも、屋台を出してもらいましょう! 確かに商会の店舗を出すのは大変かもしれませんが、屋台ならすぐできるでしょう! 屋台で働く人ぐらいなら、私が見つけてもいいし、ハハハハハハ」
今度は、ビャクライン公爵がそんなこと言って、豪快に笑った。
完全に国王陛下の言葉に便乗しちゃっているし!
陛下に話しかける体で……俺に屋台を出せと強制しているようなもんだよね……。
完全に俺が置き去りにされて……話がどんどん盛り上がっている……。
そして……なぜかまだ出店していないセイバーン城や王城やビャクライン城にも屋台を出店する羽目になってしまっている……。
屋台なら簡単に出せるだろうって軽く言ってくれるけど……人の手配が大変なんですけど……。
屋台自体は、すぐできるけどさぁ……。
人材の採用とか、教育とか、どうするわけよ!?
あとで商会幹部のサーヤたちと打ち合わせするしかない……トホホ。
まぁそれはともかく、『わたあめ』は女性陣にもめちゃめちゃ好評だ!
貴族がよく行っているお茶会などでも、絶対評判になるだろうとのことだ。
『わたあめ』が時間をおくと、しぼんで硬くなってしまうという説明をしたら、領都や王都など貴族の多い場所では、毎日のようにどこかの貴族の邸宅でお茶会が行われているから、『わたあめ』屋台の出張サービスを実施したらどうかと提案された。
王妃殿下の提案である。
マリナ騎士団長も、「私もそう思っていたんだよ」とすぐに相槌を打っていた。
この二人……やはり商売のセンスがありすぎる!
他の貴族女子のメンバーも、絶対依頼が殺到するだろうと言ってくれた。
確かに、面白いかもしれない。
『わたあめ』屋台を可愛く綺麗にデコレーションして、ケイタリングサービスみたいな感じで貴族の屋敷の中庭で提供すれば、喜ばれそうだ。
貴族相手のケイタリングサービス事業……ありかもしれない。
ただ貴族の屋敷は、どこもお抱えの調理人がいるから、普通で考えるとケイタリングの需要はあまりないはずなんだよね。
でも今回の『わたあめ』みたいな特殊なものを、いくつか揃えて提供したら安定した事業になるかもしれない。
貴族相手の商売なので、結構いい稼ぎになるだろう。
後で考えてみよう。
読んでいただき、誠にありがとうございます。
ブックマークしていただいた方、ありがとうございます。
評価していただいた方、ありがとうございます。
次話の投稿は、3日の予定です。
もしよろしければ、下の評価欄から評価をお願いします。励みになります。
よろしくお願いします。




