739.取り巻く、『マスカッツ』
シャインさんの周りにいる六人の私兵の女性たちは、シャインさんの警護をするという名目の取り巻き集団で、『マスカッツ』という名前がついているらしい。
妹のシャイニーさんによれば、シャインさんが美しい取り巻きがほしいと言って、組織し名付けたのだそうだ。
だから取り巻きといっても、彼女たちが好きで取り巻いているのではないようだ。
シャインさんに言われて、仕方なくやっているのだろう。
いろんな事情を抱えた人たちで、皆シャインさんに恩義を感じているので、断れないらしい。
六人中四人は、奴隷だったところをシャインさんが購入するかたちで助けたのだそうだ。
奴隷だった当時は、ボロボロだったようだが、シャインさんのケアとプロデュースで、今では誰しもが振り向くような美人さんになっている。
ここまでなら、すごくいい話なのだが………その後無理矢理取り巻きにしているところが、微妙すぎる。
「美しい自分には、美しい女性の取り巻きがいるのが自然の摂理だ」というわけのわからない理屈で、取り巻き美女集団『マスカッツ』を組織したらしい。
そして、護衛をする為の私兵というのは、あくまで建前であって、彼女たちはめちゃめちゃ弱いそうだ。
それはさっきの様子を見ていても、すぐにわかったけどね。
彼女たちは、戦闘の適性があまりないらしく、またシャインさんも鍛えてあげるとかの対策もしていないらしいのだ。
美しければ良いということのようだ。
レベル制のこの世界の良いところは、戦闘が苦手と思われる人も、ある程度レベルが上がると強くなり、それなりに戦えるようになるというところだ。
そして、それによってやる気になり、更に強くなるという事はよくあることだと思う。
今後の彼女たちの人生のためにも、強くしてあげた方が安全だと思うんだけどなぁ……。
まぁ俺の考えを押し付けるわけにはいかないけど。
ちなみに、武器はみんな綺麗な剣を腰に下げている。
なんでも、サンディーさんは斧や鎌が使いやすいらしく、使ってみたいと申し出たらしいのだが……剣の方が美しいからという理由で、即却下されたらしい。
あくまで判断の基準は、『美しさ』らしい。
やっぱりこの人……判断基準がおかしいと思う。
そもそも美しさの基準自体も、完全に独りよがりの基準だしね。
それから、『ふさなり商会』を運営している人たちは、十人で全員男性だそうだ。
ほとんどが、おじさんらしい。
しかも、腕力があって力仕事は得意だし、ある程度腕も立つとのことだ。
下町の“ちょい悪オヤジ”みたいな人たちなのだそうだ。
大赤字な商会ということなので、その男性たちの仕事ぶりについて尋ねてみると、『マスカッツ』の赤髪ロングの美少女サンディーさんが教えてくれた。
「正直言って、シャイン様って商売のセンスゼロなんすよ。お店やってるおじさんたちも、基本的に筋肉の人たちなんで、細かい計算とか全くできないんすよ。売れ残りそうになると、すぐ安売りしちゃうし。その金額も気合で決めてるっすから、完全な大赤字っすよ。それなのに、お客さんが喜んでくれたって、みんなで嬉しそうにしてるっすから、正直やばいっす。私たち『マスカッツ』の方が計算とかもできるし、お客さんウケもいいと思うんすけどね。私たちが店をやって、おじさんたちがシャイン様の護衛をするっていう案も出してみたんすけど、自分とおじさんは似合わないって言って、即却下っす。もう打つ手なしっすよ」
サンディーさんは、困り顔でシャインさんを見た。
この子は、シャインさんがいる前でも、遠慮なく発言する子のようだ。
またそれを咎めないシャインさんも、その意味では素晴らしいと思うんだけどね。
話を聞けば聞くほど、ダメダメな所と結構いい奴的なところが混在していて……非常に複雑だ……。
というか……一言で言うなら“惜しい”って感じだよね。
ちょっと、何かが変わったら、シャインさんってめっちゃ凄い人になると思うんだけど……。
それにしても……シャインさんは、人を見る目がないというか……適材適所が全くできていないようだ。
サンディーさんが言ったように、『マスカッツ』の女性たちがお店をやって、おじさんたちが護衛をした方が色々上手くいくと思うんだけど……。
そもそも護衛が必要かという問題もあるけどね。
いずれにしろ、その案は却下ということのようなので……打つ手なしだよね。
一体どうしたらいいんだろう……?
『ふさなり商会』を立て直すのは、かなりの難題だ。
一番の問題が経営者だし……。
プロのコンサルタントなら、やりがいがあるかもしれないが……。
いや……逆かな……早々に諦めて、仕事を受けないパターンかもしれない。
周囲の人たちが必死に悩んでいるし、俺も今必死に考えているのに……当のシャインさんは、我関せずみたいな感じで、優雅に紅茶をすすっている。
この人の性格……ある意味、羨ましいが……。
いかん、いかん、羨ましいと思っちゃったら、こんな感じの『固有スキル』が発現してしまうかもしれない……なしなし!
「兄上、兄上の好きなユーフェミア様が、わざわざ兄上の為にグリム様に来ていただくように言ってくれたのですよ。『ふさなり商会』の赤字と兄上の散財で、我が家の資産がなくなりそうなのを心配してくれているのです。それから、これはユーフェミア様からの伝言です。シンオベロン卿の言うことを、ユーフェミア様の言うことだと思って、真摯に受け止め商会を立て直すようにとのことです」
シャイニングさんが、厳しい口調で言った。
「あゝユーフェミア様……我が愛しのユーフェミア様……私のことをそこまで気遣っていただけるなんて……。やはりこの愛は本物なのですね! あゝ美しい……」
シャインさんは、上機嫌でそんなことをほざいている……。
こっちは真剣に考えているというのに……。
こいつ……一体何なんだ!
“我が愛しのユーフェミア様”ってなんだよ!
ちょっと助けてやる気持ちが失せてきた……。
「兄様、浮かれてる場合じゃありません! ユーフェミア様に怒られますよ! とにかくグリム様に見てもらって、提案されたことをちゃんとやりましょう!」
シャイニーさんがキレ気味に言ったが、シャインさんはあまり気にしていないようだ。
ある意味、この人は打たれ強いのかもしれない。
良く言えば……究極のプラス思考だが……。
悪く言えば……打っても響かない人だよね。
柳に風……暖簾に腕押し……シャインにアドバイス……トホホ。
正直……関わりたくないんだけど……ユーフェミア公爵に頼まれたから、投げ出せないしなぁ……。
「私に何ができるかわかりませんが、ユーフェミア様からも頼まれていますし、お力になりたいと思います」
俺は、気を取り直してそう言った。
「ありがとうございます。私も嬉しいですよ。これからは、良き友人になりましょう。グリムさんと呼ばせてもらいます。私のことはシャインとお呼び下さい」
シャインさんは、爽やかに手を差し出した。
俺も手を出し、握手をした。
なんか……友達になってしまったようだ……まぁいいけどさ。
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