71.黄色い、声援。
3人称視点です。
『爪の中級悪魔』を、アリリやキンちゃんを中心にした浄魔、霊獣たちが取り囲む。
「さあ観念するのじゃ! この迷宮に攻め入ったことを後悔させてやる!」
「前オーナーの敵は、うちがとるし! みんな手加減無しだかんね!」
「「「よっしゃー! 全力で行きやす!」」」
「ハハハ……ハハ……愚かなものよ……。哀れすぎて屠る気にもならん……。何度も言わせるな……うぬらに勝ち目など微塵もないのだよ……」
そう言うと……
『爪の中級悪魔』が面倒くさそうに、両手の剣爪を前方にかざす。
そして剣爪を小刻みに振動させると同時に、口からブレスのように何かを吐き出す。
そのわずかな動きが終わる刹那に———
———不可視の気体が一帯に充満する……
異変に気づいた時には……
……もう手遅れなのであった。
「う……、こ、これは……体が……う…動かない……」
「う……、う、うち……ああ……だ、だめだ……し……」
「「「はあ……………」」」
バタンッ———
ドスン———
ドスン———
ドスドス———
迷宮前広場にいた者たちが、次々に倒れていく。
空に浮かぶライジングカープたちも全て地面に落下してしまった。
これは『爪の中級悪魔』の種族固有スキル『呪怨の麻痺爪』による攻撃だった。
これは最上級の麻痺攻撃に、呪いの力が付与されたもので、広範囲に急拡散させる必勝の攻撃であった。
アリリを筆頭にした浄魔たちも、キンちゃんたちの霊獣たちも、全て、この術の効果で動きを封じられてしまった。
動けないが、意識だけはあるアリリを『爪の中級悪魔』が嗜虐の瞳で見下ろす。
おぞましい顔を長舌で舌舐めずりすると……
ドゴンッ———
アリリを弄ぶように蹴飛ばす。
苦しみを与えるため、敢えて殺さぬ程度の加減でいたぶっている。
周りの者たちも次々に蹴飛ばされる。
大きなライジングカープたちも次々に土煙りをあげる。
「う、うちの……仲間を……よ、よくも! あ、あんたは……ボコリ……決定だ……し……」
いつもは陽気なキンちゃんが怒りを滲ませる眼光で睨みつける。
「ハハハ、哀れなものだなぁ。お前はバカなのか……まぁ良い。焼き魚にしてやるか、ハハハ」
キンちゃんは全身に力を込めるが、全く体が動かない………
その時———
迷宮の入り口奥から小さな物体が飛来する———
それは『麻痺解除薬』のボトルだった。
ボトルは、ちょうどキンちゃんの真上に来たところで、『爪の中級悪魔』の剣爪で破壊された。
これが運良くキンちゃんの体にかかる———
『麻痺解除薬』のおかげで、少しだけキンちゃんが動けるようになる。
これを投げたのは迷宮入口奥に隠れていた『マナ・ハキリアント』のおばばであった。
入口奥にいたため、麻痺の効果をギリギリで避けていたのだ。
だが、この救援のために出てきたおばばは、投げると同時に、他の仲間たちのように麻痺の影響を受けてしまっていた。
……もう、入口奥に戻ることはできなかった。
「無駄なことを……我の麻痺攻撃は薬などでは治らんのだよ……うるさいハエめ、死ね! 」
そう言うと、『爪の中級悪魔』がおばばに向かって、無造作に石飛礫を投げつける――
シュッ———
———ズゴッ
ほんの一瞬のことだった。
超速弾道の石が、麻痺で倒れかけていたおばばの腹に風穴をあける。
おばばは、そのまま静かに膝を突き動かなくなる。
「よ、よくも……よくもおばばちゃんを……ぜ、絶対許さねーし! ボコボコにしてやんよ! ……おばばちゃんの敵は……絶対にうちがとるし! ウオーーーー、ああーーー、ワアーーーーー!」
キンちゃんが魂の雄叫びと共に浮上する———
「ば、馬鹿な……我の麻痺を受けて立ち上がるだと……さっきの薬がそんな効果を持っていたとでもいうのか……それともこの霊獣の力なのか……まぁ……いずれにしろ無駄なあがきだなぁ、ハハハッ」
少しの動揺を打ち消す様に、乾いた笑いを出す『爪の中級悪魔』。
「無駄じゃねーし! 絶対にボコるって決めたし!」
襲いかかるキンちゃんだったが、あっさり躱され、逆に爪を刻まれる。
ザシュッ———
剣爪に大きく傷つけられ、落下するキンちゃん……
だが、まだ目の奥で闘志は燃えている!
再度浮かび上がると、種族固有スキル『水芸』による水刃を吐きながら、泳ぎ進む。
だが、麻痺が残った体では、技にキレがない。
あっさり『爪の中級悪魔』に避けられ、また剣爪攻撃を食らう。
『爪の中級悪魔』は、あえて致命傷にならないように弄んでいた。
それでもキンちゃんには、深手であり、本来なら戦闘不能なレベルだった。
だが、キンちゃんの心は折れない!
再び浮かび上がる。
「う、うち……負けねっし! ド、ドラゴン王に……きっとなるしーーー!」
その時、キンちゃんの戦う姿に鼓舞された周りのライジングカープたちがキンちゃんの応援を始める。
「……わ、私たちに……で、できることを……しましょう!」
ギンちゃんがそう言うと、みんなでキンちゃんに魂の声援を送る!
「キ、キンちゃん……が、頑張るっす!」
「キンちゃん監督……お、応援しております! 大きな戦果を挙げると……し、信じております!」
「「「がんばれ! キンちゃん!」」」
「「「「フレー! フレーー! キンちゃん!」」」
「「「かっとばせ! キンちゃん!」」」
ライジングカープたちは、『黄色い声援』というスキルを発動していた。
『黄色い声援』は、声援をかけた対象のステータスを一時的に上昇させるスキルで、通常スキルではあるが、極めてレアなスキルであった。
そのレアなスキルをライジングカープたちは全員が習得していたのだ。
団結力のなせる技なのか、通常ではあり得ない習得率であった。
主人グリムのなんらかのスキルの影響か、短期間に恐ろしいほどの成長を遂げていたのだ。
このスキルは、使用者が多いほど、ステータス上昇率がアップする。
スキルレベルは、まだ低くても、十体からなるライジングカープたちの声援は、キンちゃんのステータスを三割ほどアップさせる威力があった。
キンちゃんの体が“黄色い声援”を浴びて、黄金色のオーラに包まれる。
キンちゃんの全身からエネルギーがほとばしる———
だが、キンちゃんが急に動きを止める………
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