表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/1442

71.黄色い、声援。

3人称視点です。

 

『爪の中級悪魔』を、アリリやキンちゃんを中心にした浄魔、霊獣たちが取り囲む。


「さあ観念するのじゃ! この迷宮に攻め入ったことを後悔させてやる!」


「前オーナーの敵は、うちがとるし! みんな手加減無しだかんね!」

「「「よっしゃー! 全力で行きやす!」」」


「ハハハ……ハハ……愚かなものよ……。哀れすぎて屠る気にもならん……。何度も言わせるな……うぬらに勝ち目など微塵もないのだよ……」


 そう言うと……


『爪の中級悪魔』が面倒くさそうに、両手の剣爪を前方にかざす。


 そして剣爪を小刻みに振動させると同時に、口からブレスのように何かを吐き出す。


 そのわずかな動きが終わる刹那に———

 ———不可視の気体が一帯に充満する……


 異変に気づいた時には……


 ……もう手遅れなのであった。


「う……、こ、これは……体が……う…動かない……」

「う……、う、うち……ああ……だ、だめだ……し……」

「「「はあ……………」」」


 バタンッ———

 ドスン———

 ドスン———

 ドスドス———


 迷宮前広場にいた者たちが、次々に倒れていく。

 空に浮かぶライジングカープたちも全て地面に落下してしまった。


 これは『爪の中級悪魔』の種族固有スキル『呪怨の麻痺爪』による攻撃だった。


 これは最上級の麻痺攻撃に、呪いの力が付与されたもので、広範囲に急拡散させる必勝の攻撃であった。


 アリリを筆頭にした浄魔たちも、キンちゃんたちの霊獣たちも、全て、この術の効果で動きを封じられてしまった。


 動けないが、意識だけはあるアリリを『爪の中級悪魔』が嗜虐の瞳で見下ろす。


 おぞましい顔を長舌で舌舐めずりすると……


 ドゴンッ———


 アリリを弄ぶように蹴飛ばす。


 苦しみを与えるため、敢えて殺さぬ程度の加減でいたぶっている。


 周りの者たちも次々に蹴飛ばされる。


 大きなライジングカープたちも次々に土煙りをあげる。


「う、うちの……仲間を……よ、よくも! あ、あんたは……ボコリ……決定だ……し……」


 いつもは陽気なキンちゃんが怒りを滲ませる眼光で睨みつける。


「ハハハ、哀れなものだなぁ。お前はバカなのか……まぁ良い。焼き魚にしてやるか、ハハハ」


 キンちゃんは全身に力を込めるが、全く体が動かない………


 その時———


 迷宮の入り口奥から小さな物体が飛来する———


 それは『麻痺解除薬』のボトルだった。


 ボトルは、ちょうどキンちゃんの真上に来たところで、『爪の中級悪魔』の剣爪で破壊された。


 これが運良くキンちゃんの体にかかる———


 『麻痺解除薬』のおかげで、少しだけキンちゃんが動けるようになる。


 これを投げたのは迷宮入口奥に隠れていた『マナ・ハキリアント』のおばばであった。


 入口奥にいたため、麻痺の効果をギリギリで避けていたのだ。


 だが、この救援のために出てきたおばばは、投げると同時に、他の仲間たちのように麻痺の影響を受けてしまっていた。


 ……もう、入口奥に戻ることはできなかった。


「無駄なことを……我の麻痺攻撃は薬などでは治らんのだよ……うるさいハエめ、死ね! 」


 そう言うと、『爪の中級悪魔』がおばばに向かって、無造作に石飛礫(いしつぶて)を投げつける――


 シュッ———

 ———ズゴッ


 ほんの一瞬のことだった。


 超速弾道の石が、麻痺で倒れかけていたおばばの腹に風穴をあける。


 おばばは、そのまま静かに膝を突き動かなくなる。


「よ、よくも……よくもおばばちゃんを……ぜ、絶対許さねーし! ボコボコにしてやんよ! ……おばばちゃんの(かたき)は……絶対にうちがとるし! ウオーーーー、ああーーー、ワアーーーーー!」


 キンちゃんが魂の雄叫びと共に浮上する———


「ば、馬鹿な……我の麻痺を受けて立ち上がるだと……さっきの薬がそんな効果を持っていたとでもいうのか……それともこの霊獣の力なのか……まぁ……いずれにしろ無駄なあがきだなぁ、ハハハッ」


 少しの動揺を打ち消す様に、乾いた笑いを出す『爪の中級悪魔』。


「無駄じゃねーし! 絶対にボコるって決めたし!」


 襲いかかるキンちゃんだったが、あっさり躱され、逆に爪を刻まれる。


 ザシュッ———


 剣爪に大きく傷つけられ、落下するキンちゃん……


 だが、まだ目の奥で闘志は燃えている!


 再度浮かび上がると、種族固有スキル『水芸』による水刃(ウォーターブレード)を吐きながら、泳ぎ進む。


 だが、麻痺が残った体では、技にキレがない。


 あっさり『爪の中級悪魔』に避けられ、また剣爪攻撃を食らう。


 『爪の中級悪魔』は、あえて致命傷にならないように弄んでいた。


 それでもキンちゃんには、深手であり、本来なら戦闘不能なレベルだった。


 だが、キンちゃんの心は折れない!


 再び浮かび上がる。


「う、うち……負けねっし! ド、ドラゴン王に……きっとなるしーーー!」


 その時、キンちゃんの戦う姿に鼓舞された周りのライジングカープたちがキンちゃんの応援を始める。


「……わ、私たちに……で、できることを……しましょう!」


 ギンちゃんがそう言うと、みんなでキンちゃんに魂の声援を送る!


「キ、キンちゃん……が、頑張るっす!」

「キンちゃん監督……お、応援しております! 大きな戦果を挙げると……し、信じております!」

「「「がんばれ! キンちゃん!」」」

「「「「フレー! フレーー! キンちゃん!」」」

「「「かっとばせ! キンちゃん!」」」


 ライジングカープたちは、『黄色い声援』というスキルを発動していた。


『黄色い声援』は、声援をかけた対象のステータスを一時的に上昇させるスキルで、通常スキルではあるが、極めてレアなスキルであった。


 そのレアなスキルをライジングカープたちは全員が習得していたのだ。

 団結力のなせる技なのか、通常ではあり得ない習得率であった。


 主人グリムのなんらかのスキルの影響か、短期間に恐ろしいほどの成長を遂げていたのだ。


 このスキルは、使用者が多いほど、ステータス上昇率がアップする。


 スキルレベルは、まだ低くても、十体からなるライジングカープたちの声援は、キンちゃんのステータスを三割ほどアップさせる威力があった。


 キンちゃんの体が“黄色い声援”を浴びて、黄金色のオーラに包まれる。


 キンちゃんの全身からエネルギーがほとばしる———


 だが、キンちゃんが急に動きを止める………




読んでいただき、誠にありがとうございます。

ブックマークしていただいた方、本当にありがとうございます。


次話の投稿は、14日の予定です。


もしよろしければ、下の評価欄から評価をお願いします。励みになります。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ