723.ワクワクの、闇オークション。
俺は、マリナ騎士団長、元怪盗ラパンのルセーヌさんと敏腕デカのゼニータさんの特捜コンビと共に『闇オークション』にやってきた。
『領都セイバーン』の『北ブロック』の『下級エリア』いわゆる下町エリアの大きな倉庫の中で、密かに開催されるのだ。
俺たち四人は、『マットウ商会』の参加資格を使い、『マットウ商会』の人間として参加する。
参加者は皆、仮面舞踏会でつけるようなマスクをつけている。
開催される大倉庫の前で、受付を待つ行列ができている。
それなりの身なりにマスクをつけている人が多いので、上流階級の参加者が多いようだ。
まぁお金を持っていないと参加できないから、当然かもしれないが。
ただマリナ騎士団長の話では、『闇オークション』はあくまで違法な非公式のオークションなので、貴族が直接参加するということはあまりないはずだとのことだった。
代理人を立てて参加するとか、出入りの商会に頼むというのが、一般的だろうとのことだ。
ただオークション好きな貴族もいるので、こっそり参加している可能性はあるとも言っていた。
俺たちも、マリナ騎士団長が用意してくれたマスクを付けている。
俺が黒、マリナ騎士団長が赤、ルセーヌさんが青、ゼニータさんが黄色のマスクだ。
周囲に羽飾りのようなものが付いていて、かなりド派手だ。
受付で、『闇オークション』への参加証を提示する。
「いつもありがとうございます。本日は担当の方が変わったのですか?」
受付の男性に、そう聞かれてしまった。
「はい。今回から担当が変わりました。今後ともよろしくお願いします」
俺は、平静さを装ってそう答えた。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。それでは最低資金の確認をお願いいたします」
受付の男性はそう言って、チェック用紙を出した。
最低資金の確認というのは、オークションに参加するための最低限の保証金として百万ゴル……金貨百枚を提示することだ。
俺は、事前にマリナ騎士団長に教えてもらっていたので、準備してきている。
金貨百枚が入る専用の小さなケース……アタッシュケースの小型版のようなものを、カバンから取り出して提示した。
これは預ける必要はなく、ただ提示すればいいらしい。
オークションで競り落とした物は、代金と引き換えでないと持ち帰れないので、オークションの開催者が取りっぱぐれることはないらしいのだが、冷やかしなどを防ぐためにやっているのだろう。
実際本気で落札する人たちは、百万ゴルよりもはるかに多くの金額を持ってきていると思う。
ただ防犯的な観点から、会場には持ち込まないで、別の場所で待機させている場合もあるそうだ。
腕に自信があれば良いが、そうでなければ魔法カバンごと盗まれてしまう可能性があるからね。
「ありがとうございます。確認させていただきました。本日は出品はございますか?」
「はい。いくつか出品したいと思っています」
「それでは、こちらの出品受付カウンターにて手続きをお願いいたします。その後、係の者がお席にご案内いたします」
俺たちはそう促され、一つ奥の部屋にある出品受付カウンターに向かった。
中に入ると受付の女性スタッフ二名と、初老の男性二名が椅子に座って待っていた。
この男性二名が『鑑定』スキルを持っていて、出品物の評価や説明文を作るようだ。
俺は、試しにいくつかの物を出品しようと思って、持ってきていた。
それらの品の出品手続きをした。
出品手続きを終えると、席に案内された。
『闇オークション』の会場の設営は、まるで学校の体育館のようなかたちになっている。
オークションする商品を紹介する舞台が前方にあって、それに向かって椅子が並んでいるのだ。
俺たちは、中列の後ろよりの席だった。
競りに参加する場合は、自分の番号がついた札を上げながら、金額を示す数字の書いてある札を上げるらしい。
一万ゴルの単位で競り上がるので、『5』の番号札を提示すると五万ゴル上乗せするという意思表示になるのだ。
それと共に、赤札を出せば桁を一つ増やして五十万ゴル上乗せするという意味になる。
青札と共に出せば、二桁増やして五百万ゴル上乗せするという意味になるのだ。
そういう仕組みなので、もし一人で参加する場合は、左手に自分を表す番号札を上げて、右手で上乗せ価格を示す札を一枚もしくは二枚提示するということになる。
できなくはないが、一人だと結構大変かもしれない。
二人以上で参加するなら、一人が自分を表す札を、もう一人が上乗せ価格を表す札を掲げることができるので楽なのだ。
それ故ほとんどの参加者は、二人以上で参加しているようだ。
この『闇オークション』は、全部で四部構成になっている。
第一部が『雑貨・装飾品』の部、第二部が『魔法道具・魔法素材・魔法薬』の部、第三部が『武具の部』、第4部が『生物・奴隷』の部となっている。
係りのスタッフの話では、今日のオークションは出品物がそれほど多くないので、二、三時間で終わるのではないかとのことだった。
オークションの司会者が登壇し、いよいよ始まるようだ。
本日の出品リストが、壁に大きく貼り出された。
どよめきが起こったが、何にどよめいているのかは俺にはわからない。
だが、何か珍しい逸品が出ているということなのだろう。
「それでは皆さんお待たせいたしました。早速、第一部『雑貨・装飾品』の部を開始したします。記念すべきオークション第一品目を飾るのは……最近では、新たに流通することがほとんどない、この品です!」
司会者がそう言って促すと、スタッフの女性がオークション商品を持ってきた。
会場にどよめきが起こる。
「なんと、失われた古代文明『マシマグナ第四帝国』の硬貨です! しかも金貨のみならず銀貨、銅貨、銭貨まで揃っています! コレクターの方には、たまらない逸品でしょう。まずは、金貨からです! 十万ゴルからスタートです!」
司会者がそう言うと、いきなり競りが始まった!
この『マシマグナ第四帝国』の硬貨は、俺が試しに出品してみたものなのだ。
金貨一枚は、コウリュウド王国金貨なら一万ゴルの価値なわけだが、いきなり十万ゴルからのスタートだった。
俺は少し驚いた。
やはり古代文明の遺物という付加価値なのだろう。
完全なコレクターアイテムだよね。
そして金額が、どんどん競り上がっていっている……
三十万ゴルを超えているけど……
——カン、カン、カン
落札決定の鐘の音が鳴った。
最終的に、三十八万ゴルで落札された!
ちょっと笑ってしまった。
こんな値段がつくとは、思ってもみなかった。
でもよくよく考えてみたら……ちょっとした記念メダルだって付加価値があるのに、これはそれ以上の希少な価値があるからね。
「なんだい、渋いねぇ……。五十万ゴルは行くと思ったけどね。貴族が多数参加する公式オークションだったら、五十万ゴルは下らないと思うけどね。最近じゃ新たに古代文明の金貨が発見されることは、ほとんどないからね。既存の物もコレクターが持っているから、流通することはほとんどないのさ」
マリナ騎士団長がそう言って、渋い顔した。
俺は予想外の高値に喜んでいたのだが、落札価格としては低かったらしい。
次に銀貨の競りが始まった。
これも普通の銀貨なら、千ゴルの価値なのだが……何故か金貨と同じ十万ゴルからのスタートだった。
この時点で、ちょっと吹き出しそうになった。
だが競りの結果は、もっと驚くべきものだった!
なんと、四十七万ゴルで落札されたのだ。
金貨よりはるかに高い!
「なんだい、これまた渋いねぇ……。もっと上がってもいいけどね……」
マリナ騎士団長がそう言ったので、ちょっと尋ねてみた。
「金貨よりも高い値段がつくんですか?」
「そりゃそうだよ。古代文明の硬貨が発見されるのは遺跡からが多いんだけど、その場合、隠し財宝として金貨がほとんどなのさ。だから銀貨や銅貨、銭貨の方が希少価値はあるんだよ。楽しみに見てな、銀貨より銅貨、銅貨より銭貨の方が値段が上がる可能性があるから。ははははは」
マリナ騎士団長はそう言って、楽しそうに笑った。
なんかこの人……一人でオークションを満喫してますけど……。
まぁそれはいいんだが。
でも説明のおかげで、納得できた。
要は、どれだけ希少性があるかっていうことなんだよね。
そして……マリナ騎士団長の予測通り……銅貨と銭貨の競りは白熱したものになった。
結果、落札価格は……銅貨が六十万ゴル、銭貨が六十五万ゴルという価格だった。
コウリュウド王国の硬貨なら、一万一千百十ゴルの価値になるものが、合計落札価格二百十万ゴルになってしまった。
もう笑うしかない……。
だが改めて思った。
これは、すべて希少価値のなせる技だから、俺が大量に保有している『マシマグナ第四帝国』の硬貨をある程度放出した時点で、相当な値崩れを起こすということなのだ。
やはり流通させることは、自重したほうがいいようだ。
今後も俺のコレクション品として……換金できないお宝として……保管しておくしかないらしい。
ただ時々なら、一枚づつお遊び的な感じで、出品してみてもいいかもしれないけどね。
とりあえず一回くらいは、公式オークションに出品してみたい。
いくらの値段がつくか、楽しみだ。
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