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716.悲しみの、掃除貴族。

『三領合同特別武官登用武術大会』のアナウンスをしていたシャイニング=マスカットさんの妹のシャイニー=マスカットさんを、『フェアリー商会』に迎え入れることになった。

 念願叶って、リングアナウンサーができる素晴らしい人材が確保できたのだ。


 これで、格闘技興行を成功させるポイントの一つである“お客さんの盛り上げ”は、間違いなく機能するだろう。

 しかも、シャイニーさんはかなりの美人さんなので、お客さんから大人気になるかもしれない。

 なんとなく……彼女が煽ったファングッズが、即日完売するビジョンが見える……ムフフ、大成功の予感しかしない。


 彼女には、格闘技興行のアナウンスをしてもらうが、『シンニチン商会』に入るのではなく、あくまで『フェアリー商会』に入ってもらうつもりだ。

 必要に応じて、いろんな部門で活躍してもらおうと思っている。


 格闘技興行をやる時は、『シンニチン商会』に出向いてもらって、歌劇団ができて演目を始めるようになったら、そちらでのアナウンスもやってもらおうと思っている。

 コンサートを行う場合もだ。

 大いに会場を盛り上げてくれるはずだからね。


 他にもイベントを中心に、彼女の能力を活かしてもらおうと考えている。


 最初の仕事は、もしかしたら十日後に『領都セイバーン』で行われる『美味い屋台決定戦! 屋台一番グランプリ』になるかもしれない。


 領で執り行う『希望の式典』は、おそらく兄のシャイニングさんがアナウンスを担当するだろうから、兄妹揃って式典と特別イベントのアナウンスをやるということが実現するかもしれない。




 ◇




 俺は少し時間ができたので、『セイセイの街』に足を運んだ。


 昨日の襲撃の時に、『セイセイの街』でも魔物化する人が現れて、『アラクネロード』のケニーが対応してくれたのだが、建物などに被害が出ている。


 特に最初に魔物化する人が現れた犯罪奴隷の収容所は、建物が半壊して大きな被害になっている。


 この被害も俺の魔法で直してあげても良いのだが、すでに街で復旧に着手していたので、そのまま任せることにした。


 今は瓦礫の片付けがほぼ終わり、綺麗にしている状況だ。

 掃除をしている人の中に、見覚えのある細身の初老の紳士がいた。


 あれは、デラウエ騎士爵だ。

 俺が最初にこの街を訪れたときに、『花色行商団』の皆さんに絡んでいたあのゲス衛兵の父親である。


 散らかった瓦礫の掃除を、手伝っているようだ。

 そして目には涙が浮かんでいる。


 あのゲス衛兵は、昨日、魔物化して命を落としている。


 いくら問題がある息子でも、失った悲しみは計り知れないだろう。


 そんな気持ちを噛み締めるように、鎮痛な面持ちで掃除をしている。


 彼は、息子であるゲス衛兵を貴族の地位を利用して、ゴリ押しで衛兵隊に入れていた。

 その罪と父親としての責任を問われるようなかたちで、ユーフェミア公爵によって、収入の一割を使っての炊き出しや奉仕活動、街の清掃などを一族総出で行うように命じられていたのだ。


 彼は、それを甘んじて受け入れ、毎日地道にコツコツ街の掃除をしていたらしい。


 元々は評判が良くなかったデラウエ騎士爵だが、この二十日あまりの間、毎日掃除をしている姿が街の人たちに認められ、今では『掃除貴族』という愛称で呼ばれているのだそうだ。


 新衛兵長のゼニータさんが、前に教えてくれたのだ。


 そんな矢先に、息子が魔物化してしまい、やるせない思いでいるに違いない。


 それでも掃除を続けている彼の姿は、立派に見えた。


 最初に守護の屋敷でユーフェミア公爵に詫びている姿を見たが、その時とは別人のように見える。


 サーヤの話では、最近になって、彼の息子と娘が『フェアリー商会』で働きたいと面接の申し込みをしてきたそうだ。


 なるべく雇用してあげる方向で考えてあげようと思う。

 死んだ者を悪く言いたくはないが、あのゲス衛兵みたいな人間性では困るが、そこを見極めて問題ないようなら雇用してもいいだろう。

 親兄弟が罪を犯したとしても、色眼鏡で見るのはよくないからね。


 毎日の掃除は、デラウエ騎士爵と第一夫人、第二夫人、長男、次男、四男、五男、次女、三女が揃って黙々と行っているようだ。

 犯罪奴隷となっていたゲス衛兵が三男で、長女は嫁に行っていないということなので、ユーフェミア公爵に言われた通り、家族総出で行っているらしい。


『フェアリー商会』に面接の申し込みをしてきたのは、四男と五男、次女と三女のようだ。

 デラウエ騎士爵は、『セイセイの街』の荘園の約半分の管理を任されているが、長男と次男はその仕事を手伝っているとのことだ。


 炊き出しも、今までに三回ほど行ったようだ。

 あまり量が準備できなかったようで、すぐに終わってしまったらしい。

 だが、やれるだけの努力はしたということだろう。

 騎士爵の俸禄では、もともと余裕がないはずだからね。


 そんな中でも、お金のかからない掃除は毎日行ったというのが立派だと思う。


 彼はそれによって、街の人々から『掃除貴族』という愛称をもらって認められることになったのだから、素晴らしいことだと思う。


 最近では、表情も明るくなっていたという話だ。

 そして病弱だった長男も元気になって、掃除の思わぬ効果も現れていた矢先だったようだ。


 三男のゲス衛兵が、反省して改心する間もなく命を落としたのは、やはり親としては切なくやるせない気持ちだろう。


 このデラウエ騎士爵一家には、できればこのまま掃除を続けてもらって、今後も『掃除貴族』として街の人々から愛される存在になってほしいと心から思う。





読んでいただき、誠にありがとうございます。

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次話の投稿は、5日の予定です。


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[一言] > 彼女には、格闘技興行のアナウンスをしてもらうが、『シンニチン商会』に入るのではなく、あくまで『フェアリー商会』に入ってもらうつもりだ。 > 必要に応じて、いろんな部門で活躍してもらおうと…
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