701.総資産五十億の、おまけ付き。
俺はユーフェミア公爵の提案を受け入れ、『マットウ商会』を引き継ぐことにした。
それに伴って、従来の悪い繋がりから接触があった場合、うまく誘導して検挙することにも協力することにした。
それは良いのだが……ただ冷静に考えると大きな問題が一つある。
「問題が一つありまして……人材の確保ができるかどうか。おそらく『マットウ商会』で働いていた者の中で、継続雇用できるのは末端の人たちだと思います。悪事を働いていた幹部がいない状態で、うまく対応できるような人材を確保できればいいのですが……。現時点では『フェアリー商会』のスタッフも確保できていない状況ですから……」
俺は、ユーフェミア公爵にそう言った。
実際それが一番の問題なのだ。
「確かにそうだが……まぁ心配しなさんな。前も言ったと思うが、貴族の子弟や姻戚に声をかけてある。今まで『フェアリー商会』に訪ねて来た者が、全てじゃないさね。特に領都については、多分問題ないと思うよ。むしろ雇い切れないぐらい来る可能性がある。他の市町は時間がかかる可能性があるけどね」
ユーフェミア公爵は、そう言ってニヤリとした。
公爵によれば、領都には貴族の子弟やその姻戚関係にあたる者が大勢いて、良い仕事や仕官の口を求めているらしい。
『セイバーン公爵領特別御用商会』の証書を持つ『フェアリー商会』なら、皆こぞって働きたがるはずだとのことだ。
貴族の子弟や姻戚の者は、一通りの教育は受けているから、人間性に問題がなければ、かなり使えるだろうとも言っていた。
敏腕デカのゼニータさんは、『マットウ商会』のおよその資産についても報告してくれた。
資産総額は、ざっと五十億ゴル以上になるらしい。
商会の会頭から聞き出して、各市町にある支店の資産も概算してあるようだ。
没収した現金だけでも、二十億ゴルあるらしい。
それに土地建物、商品在庫、馬車、荷引き動物、船などが入るそうだ。
『マットウ商会』が表向きの商いで販売している主要なものは、食料品だったようだ。
ワインなどの酒類、穀物類、香辛料、野菜、果物、干し肉、干し魚など幅広く取り扱っていたらしい。
これらは全て『正義の爪痕』のアジトでも必要な物なので、必要性もあって基本の商品になっていたのだろう。
その他に、装飾品や壺などの工芸品も扱っていたらしい。
これらの品は、貴族や有力者に取り入る際にも使われていたようだ。
装飾品や工芸品については、領都の下級エリアに大きな工房を持っていたらしい。
劣悪な環境の中で、多くの職人がこき使われていたようだ。
この中には、奴隷も数多くいたらしい。
馬車は、荷馬車を含めて全支店合わせて五十台以上あるようだ。
領都本部だけでも、二十台もあったらしい。
荷引き動物も、百頭以上いるということだろう。
船は、大型船が五隻、中型船が三隻、あるらしい。
改めて聞くとすごい資産だ。
この全てを、俺がもらっていいものか……。
だがここでそんなことを言うと、またユーフェミア公爵にダメな子供を見るような目をされるし、下手をしたらマリナ騎士団長と揃ってダブル攻撃されるかもしれない……。
二人にダブルで、ダメな子供を見るような目をされると……かなり落ち込みそうなので、発言をすることを我慢した。
まぁ冷静に考えると……セイバーン公爵領としても、新たに領の財源から俺に褒賞金を出すよりも、没収したものをそのまま褒賞にしてしまった方がいいのかも知れない。
今回の件をありがたく受け取った方が、結果としてセイバーン公爵領の負担を少なくできるのかもしれないと思えてきた。
ユーフェミア公爵の性格からして、俺に対して褒賞を全く出さないということは、ありえないだろうからね。
『マットウ商会』を引き継ぐということは、現在行われている食料品の販売と、装飾品や工芸品の販売を行うことになる。
『フェアリー商会』とも被ることになるが、『フェアリー商会』はもともとセイバーン公爵領では、パッケージ出店というかたちにする予定だった。
大きな建物に百貨店のように、いろんな業態をまとめて出店するのだ。
だから、あまり気にしなくてもいいかもしれない。
『マットウ商会』は、別の場所に別の店として存在しているので、直接競合する事はほとんどないだろう。
『マットウ商会』の支店が、たまたまユーフェミア公爵が用意してくれた『フェアリー商会』の用地と、すぐ近くにあるような場合以外は、競合しないと考えて良いだろう。
仮にそういう状況になったとしても、特に不都合は無いと思うんだよね。
逆に身内同士だから、安売り合戦などをすることなく適正価格で販売できるだろうし。
『フェアリー商会』と『マットウ商会』の経営者が同じということは、利用者にはあまり関係のないことで、良いものが適正価格で手に入れば問題ないと思う。
最後に、ゼニータさんから情報提供があった。
それは、明日領都の下町エリアのとある倉庫で『闇オークション』が開催されるというものだった。
これに『マットウ商会』も参加する予定だったようで、参加資格の証札があったらしい。
商品の出品を予定していたようだ。
そして寄付というかたちで、振舞酒用のワインをもって行く予定だったらしい。
集まった人たちに、『魔物化促進ワイン』を飲ませる計画だったのだろう。
ゼニータさんは、『マットウ商会』の資格で参加して、『闇オークション』を取り締まるつもりとのことだ。
「……ゼニータ、悪いけど、『闇オークション』の取り締まりは、見送ろうか……」
ユーフェミア公爵が、悪い笑みを浮かべながらゼニータさんを見た。
「……ユーフェミア様……何か……お考えがあるという事ですね?」
ゼニータさんは、一瞬ムッとした顔をしたが、すぐに真顔に戻ってユーフェミア公爵に尋ねた。
相変わらず、ユーフェミア公爵にも遠慮がないようだ。
というか、単に顔に出てしまうだけかもしれないが……。
「そうさね。これから、『勇者武具シリーズ』のような古代文明の遺物や優れた魔法のアイテムを集めようと思っているのさ。そういう物は、表の正式なオークションよりも『闇オークション』の方が出回る可能性があると思ってねぇ……。摘発はいつでもできるから、泳がせてオークションをやらせよう。掘り出し物が出ることを期待してね……」
ユーフェミア公爵がそう説明し、ゼニータさんは納得したようで、首肯していた。
「うん。さすが姉様! 『闇オークション』は取り締まるべき対象ですが、しばらく泳がせ珍しい武器を購入するということにしましょう! 王都でも『闇オークション』の情報を集めさせます。そして開催される場合は、誰かを送り込んで落札させるように手配しますよ」
国王陛下がそう言って、ユーフェミア公爵に笑顔を向けた。
まるで褒めてほしい犬の顔だが……。
相変わらず、お姉さん大好きオーラを出しまくっている……。
ユーフェミア公爵が少しだけ説明してくれたが、国が認めた公式オークションは開催される場所が限られているらしい。
王都では、年末に大きなオークションが開催されるそうだ。
それと小規模オークションが月に一度開催されているらしい。
その他は、中規模オークションが四つの公爵領で約半年に一度開催されるとのことだ。
四つの公爵領で開催されるオークションは、開催時期が重ならないように決まっているらしい。
二月……セイバーン公爵領、三月……ビャクライン公爵領、四月……スザリオン公爵領、五月……ゲンバイン公爵領、八月……セイバーン公爵領、九月……ビャクライン公爵領、十月……スザリオン公爵領、十一月……ゲンバイン公爵領となっているようだ。
王都で行われる年末の大規模オークションは、十三月ということになる。
話によると、貴族は皆オークションが大好きらしく、こぞって参加するらしい。
貴族の意地と意地がぶつかり合うと、競り上がり予想外の高値になることもあるらしい。
一般の人も裕福な人は参加するようだし、多くの商会も参加するのだそうだ。
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