698.魔物化させる、薬。
俺は、今ここにいる皆さんに、『マシマグナ第四帝国』の遺物である魔法の指輪…… 『魔法の指輪 シールドリング』『魔法の指輪 キャッチネットリング』を、一つずつ渡すことにした。
残りは、俺の判断で『フェアリー商会』のスタッフに渡してもいいし、必要と思える人に渡して有効活用してほしいと国王陛下に言われた。
とりあえず、今ここにいない特捜コンビのルセーヌさんとゼニータさん、『光柱の巫女』の三人には渡そうと思っている。
本当は、俺の『波動複写』で大量にコピーして、出来る限り多くの人に『シールドリング』を渡してあげたいのだが……『波動複写』の能力はオープンにしていないので、自重することにした。
ただ……この『護身装飾品』を作る技術を解明するか、手に入れることができれば、オリジナル品を生産できるようになる。
そうすれば、より多くの人に提供することも可能になるだろう。
そう思いつつ……『ドワーフ』の天才ミネちゃんに作れないか訊いてみた。
「指輪サイズだと小さすぎて、ちょっと難しいかもなのです。でも腕輪くらいのサイズなら、転移の魔法道具と同じサイズなので、何とかなると思うのです。魔力シールドを展開するやつはすぐ作れるかわからないけど、ちょっと考えてみるのです」
ミネちゃんが、笑顔で答えてくれた。
「私もミネちゃんを手伝います」
今度は、人族の天才ゲンバイン公爵家長女のドロシーちゃんが、ミネちゃんの手を繋ぎながら言った。
「素晴らしいね、ミネちゃん、ドロシー、ぜひ頼むよ。王立研究所にも全面的に協力させるから」
国王陛下が、いつものソフトな笑顔を作って二人の肩に手をかけた。
次に第一王女で審問官のクリスティアさんから、『正義の爪痕』の幹部『魔物の博士』と『酒の博士』や拘束した構成員たちの尋問結果の報告があった。
本来は午前中いっぱいかけて尋問を終了させる予定だったが、彼女も早朝から尋問を行なっていたようだ。
報告によれば……『魔物の博士』と呼ばれる新しい幹部は、魔物の捕獲を担当していた呼称のない幹部だったが、最近『魔物の博士』という名称を与えられリーダーに取り立てられたとのことだ。
『酒の博士』と呼ばれている幹部は、人の魔物化を促進する薬を混ぜ込んだワインを作る責任者で、『酒の博士』という個別名称を与えられリーダーに取り立てられたらしい。
二人とも、首領の正体やアジトについての情報は持っていなかったそうだ。
今までの幹部同様、一方的に指示を受けるというかたちだったらしい。
まぁこの組織は、そういうかたちで秘密を守る仕組みになっていたからね。
この二人の博士たちが使っていたアジトの場所は、白状させたとのことだ。
それは、『領都セイバーン』の近郊にあるようだ。
地下にあって、そこで『魔物化促進ワイン』を作っているらしい。
そして、そこにはまだ構成員が残っていて、現在もワインを作っているはずだと証言したとのことだ。
魔物化を促進する薬……『魔物化薬』についても、明らかになった。
それは、驚くべきものだった。
まず『死人薬』を人間に飲ませて『死人魔物』にする。
その『死人魔物』を倒すと心臓の近くに、『死人薬』が一回り大きくなって残っている。
もちろん、それは俺も見たことがある。
なんと、それを利用することで、人の魔物化ができるようになったらしい。
『正義の爪痕』でも、最近そのことに気づいたのだそうだ。
この『死人核』とでも言うべきものに、魔力を流した後に粉砕し、再度人間の血と合わせて丸薬の形に固めるらしいのだ。
それが『魔物化薬』らしい。
ただこれは、直接摂取すると、十人中九人は魔物になる過程で死亡してしまう不完全なものだったようだ。
しかも、死なずに『魔物人』になった者も、十日ほどで体組織が崩壊し死んでしまったらしい。
そして、いろんな実験検証の結果、編み出された方法が、その『魔物化薬』を粉砕して水に溶かした溶液を、ワインに少量混ぜ込んで定期摂取するという方法だったようだ。
定期摂取を繰り返すことで、魔物の因子を蓄えた状態になるらしい。
この状態で、負の感情を引き金として、魔物になると途中で死ぬことなく魔物化することを発見したとのことだ。
引き金として一番有効なのは、悪意だったようだが、無理矢理悪意を持たせることは難しいので、恐怖の感情を与えるという作戦にしたらしい。
『魔物化促進ワイン』は、完成して間もないために、ほとんどは『セイセイの街』と『コロシアム村』に投入されたらしい。
まぁ投入されたといっても、俺たちがすり替えていたから、事実上はほとんど投入されていないんだけどね。
領都にも試験的に導入していたらしく、数軒の酒場には流れてしまっていたようだ。
それらの酒場は、不平不満を持っているマイナス波動の人たちを拉致する場所にも使われていたらしい。
どうもあの総合教会の支部長とお付きのシスター二人は、そこでヤサグレているところを拉致されたようだ。
自業自得とはいえ、教会の人間とは思えない、あまりにも哀れな最期だった。
それからアジトには、まだ構成員が三十人ぐらい残っているらしい。
そして『魔物化薬』を作るために、血が必要となるので、若い女性が五十人ほど囚われているようだ。
ほとんどは、血の摂取のためにわざわざ購入した奴隷らしい。
それからアジトについては、その場所以外には、もう残っていないだろうとの証言が取れたようだ。
そういうことなら、今度こそ最後の残党ということになる。
一気に片付けて、スッキリしたいところだ。
そして女性たちも、早く救出してあげたい。
このアジトの壊滅と女性の救出は、『セイリュウ騎士団』が担当することになった。
マリナ騎士団長に転移の魔法道具を渡してあるので、領城まで転移で行けるのだ。
事前に、ユーフェミア公爵の転移の魔法道具で、マリナ騎士団長が領城を訪れて、マリナ騎士団長の転移の魔法道具にも転移先として登録してあるそうだ。
それゆえにセイリュウ騎士たちを連れて、領城まではすぐに行くことができる。
ただ『領都セイバーン』はかなり広いらしく、その領都の外にあるアジトの場所までは、飛竜船を使うことになった。
飛竜船は、『アラクネーロード』のケニーに同乗してもらおうと思ったのだが……マリナ騎士団長からご指名が入ってしまった。
「あんたも一緒に行きな! あんたがいた方が、色々と都合がいいんだ。私も飛竜船に乗ってる間は、デート気分が味わえるしね。ハハハ」
マリナ騎士団長は、俺にイタズラな笑みを向けた。
「「「おばあさま!」」」
そこにすかさず三姉妹……シャリアさん、ユリアさん、ミリアさんのツッコミが入った。
これも、もうお約束なんだろうか……?
俺としては、これからやろうと思っていたことが、いくつかあるのだが……。
事実上の強制状態なので、おとなしく付いていくしかない……まぁいいけどさ。
早く女性たちを救った方がいいしね。
気持ちを切り替えて、サクッと片付けてきてしまおう!
読んでいただき、誠にありがとうございます。
ブックマークしていただいた方、ありがとうございます。
評価していただいた方、ありがとうございます。
次話の投稿は、18日の予定です。
もしよろしければ、下の評価欄から評価をお願いします。励みになります。
よろしくお願いします。




