697.特殊部隊用の、二つの指輪。
女性陣のための装飾品選びから、一転して『勇者武具シリーズ』の性能テストになってしまったが、それも無事に終了し、中庭から再び朝食をとっていた広間に戻った。
皆朝食は食べ終わっているので、お茶を飲みながら、もう少し打ち合わせをすることになった。
今の『勇者武具シリーズ』の性能テストを見て、国王陛下はいたく感心したようだ。
『突撃の勇者』が使っていたとされる『魔槍 フタマタ』と『愛の勇者』が使っていたとされる『魔具 ラブオーナメント』は、誰が見ても驚きの素晴らしい性能だったからね。
そして国王陛下は、王立研究所の研究員を総動員して古代文明の遺跡や遺物の情報を集めるように指示を出すという話をしてくれた。
どうも俺と同じことを考えたようだ。
他の『勇者武具シリーズ』も、出来る限り集めるべきということだ。
有力な情報が見つかることを、ぜひ期待したい。
元々やっていた女性陣の装飾品選びも終わったようで、皆気に入ったものを二点手に取っている。
男性陣も奥さんがいる人などは、宝石を選んだようだ。
プレゼントしたら、きっと喜ばれるだろう。
それから俺は、首領のアジトで見つけた武具の中から、スモールシールドを並べてみた。
これは『マシマグナ第四帝国』時代の物で、兵士に配備するための装備品だったようだ。
百個というまとまった数が置いてあったのだ。
一応『階級』は『上級』になっているが、何の変哲もない小さな五角形の盾である。
リリイとチャッピーが使っている丸盾と同じくらいのサイズの小盾……スモールシールドである。
五角形で、野球のホームベースのような形をしているのだ。
『正義の爪痕』の構成員たちも、使っていなかったようで手付かずの感じである。
スモールシールドは、普段持ち歩くにはかさばるし、実際の戦闘の時には保護できる面積が小さいので、微妙に使いにくかったりするんだよね。
だからあまり喜ばれないかもしれないと思ったのだが、一応出してみたのだ。
ところが、実際出してみると……俺の予想に反して、みんな目を爛々と輝かせて見ていた。
失われた古代文明の遺物としての価値を考えれば、そうなるのかもしれない。
皆実戦で使うのではなく、家に飾るのではないだろうか。
コレクションアイテムとしての価値は、非常に高いからね。
欲しい人に差し上げるという話をしたら、みんな大喜びしてくれた。
歓声が上がったのだ。
予想外に喜んでくれてよかった。
それから俺は、アタッシュケースを二つ出した。
これには『メカヒュドラ』の宝物庫で発見した『魔法の指輪 シールドリング』と首領のアジトの宝物庫で発見した『魔法の指輪 キャッチネットリング』の二種類の護身装飾品が入っているのだ。
『魔法の指輪 シールドリング』は、半透明のエネルギーシールドが張れる。
『魔法の指輪 キャッチネットリング』は、敵を捕らえる魔力ネットを発射できるのだ。
この魔力ネットは、一定時間が経過すると消滅しまうので、一時的なものだが、混戦の中で敵を捕えておくときは、非常に便利なものだと思う。
魔力が続く限り、何回でも発射できるからね。
これも有効活用した方がいいと思って、皆に見てもらうことにした。
シールドリングは護身用として使えるし、キャッチネットリングは捕縛用として使えるからね。
それぞれ百個ずつあるから、ここにいるみんなに配っても充分余るのだ。
そう思って見ていたら……なんとなくアタッシュケースの厚みから考えて、下にもう一段ありそうな気がしてきた。
上が持ち上がらないかと思って触ってみたら、あっさり外れて、下にもう一段あった。
同じ指輪のようだ。
そうなると、それぞれ百個づつではなく二百個ずつあるということになる。
これを見ていた『魔盾 千手盾』の付喪神フミナさんが、首を傾げながら指輪を手に取った。
「これは……帝国が特殊部隊に標準装備させていた魔法の指輪ですね……」
「この指輪について、知っているのですか?」
「はい。見たことがあります。これって確か……安全対策として……起動するのに専用の『発動真言』が必要だったはずです。その『発動真言』がわからないと、ただの指輪にしかならないという仕様になっていたはずですが……」
フミナさんは視線を上に向けて、思い出しながら教えてくれた。
なるほど……この指輪の起動には、『発動真言』が必要なのか。
こんな役立ちそうな魔法の指輪を、なぜ『正義の爪痕』は構成員に使わせていなかったのか不思議に思っていたのだが、『発動真言』を知らずに使うことができずにいたのだろう。
鑑定で確認できる詳細情報にも、起動の為の『発動真言』は表示されていなかったからね。
「フミナさんは、『発動真言』を知っていますか?」
期待を込めて、訊いてみた。
「はい……確か……エ、エンゲージだったと思います」
おお! フミナさんは知っていたようだ。
これはラッキーでしかない!
俺は、早速、試すことにした。
『魔法の指輪 シールドリング』を指にはめる。
……この指輪も、リングが自動調整でフィットするようになっている。
「エンゲージ!」
俺が『発動真言』を発すると、指輪が一瞬振動した。
たぶん起動に成功したということだろう。
「シールド展開」
俺は、シールドを張る『発動真言』を唱え、指輪をはめた腕を前に突き出した。
半透明のシールドが、腕の前に展開してるのがわかる。
かなり大きなシールドだが、半透明なので視界を大きく遮ることはない。
「どの程度の威力の攻撃まで防ぐことができるのか、ご存知ですか?」
実際どの程度使えるものなのかを把握するためにも、フミナさんに訊いてみた。
「そうですね……あくまで突発的な事態に対する、一時的な防御手段として作られていますから……性能はそれほど高くないと思います。ただ特殊部隊用ですので、通常の護身装飾品よりは強化されていると思います。それでも、本格的な戦闘の場合は、通常の盾の方が強固ではないでしょうか……」
なるほど……やはり一時的なものなのか。
それでも全くないよりはいいし、人間同士の争いやあまり強くない魔物の攻撃とかなら、十分機能するだろう。
いずれにしろ、かなり便利な魔法道具であることは間違いない。
あと、フミナさんが追加で教えてくれたことは、当時、やはり『護身装飾品』というものが流行していたということだ。
当時の帝国には、様々な『護身装飾品』があって、貴族や上流階級の者たちがこぞって買い求めていたらしい。
指輪、腕輪、ペンダントなどが多かったようだ。
当時の帝国は、いわば世紀末的な思想……『千年の呪い』により滅びるかもしれないという不安と、実際に魔王と悪魔による侵略の恐怖にさらされていたとのことだった。
そんな状況なら、誰でも護身用のアイテムである『護身装飾品』が欲しくなるよね。
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