690.おやつで、ご機嫌とり。
俺は、一旦『コロシアム村』に戻ることにした。
本当は、この近くに迷宮がないか探してしまいたいところなのだが、だいぶ時間が経ってしまったので、そろそろ戻らないとまずいのだ。
みんな待っている。
もちろん起きたメンバーから、どこにいるのかと問いただすような念話が入ったので、状況は伝えてあるけどね。
『真祖吸血鬼 ヴァンパイアオリジン』のカーミラさんと、このアジトで拘束した十五名の構成員を連れて、転移で戻ろうと思っている。
『メカヒュドラ』は、『波動収納』に回収した。
ここにいた動物たち……『豆牛』と『鶏』については、俺の仲間にしたので念話が通じる。
そこで、この場でしばらくの間待っていてくれるように話をした。
餌などをしっかり準備して、自分たちで食べれるようにセットしてあげたので、大丈夫だろう。
後で準備が整ったら迎えに来て、『コロシアム村』に作る牧場のメンバーになってもらうつもりだ。
そして俺は、『コロシアム村』の俺の屋敷の中庭に転移した。
中庭では、昨日飲んだくれていたはずのセイリュウ騎士たちの何人かが、修練をしていた。
さすがセイリュウ騎士……いくら飲んだくれても、鍛錬を怠らないようだ。
突然、現れた俺たちに驚き、連れていた構成員に対して警戒の構えを取っていたが、すでに俺に拘束されお縄がかけられていたので、すぐに警戒を解いていた。
「なんで一人で行っちゃうのよ!」
「リリイも……行きたかったのだ……」
「チャッピーもなの〜……ひどいなの〜……」
ニアとリリイとチャッピーが、抗議してきた。
ニアはおかんむりで、リリイとチャッピーは涙目だ。
「ごめんごめん、外で『べつじん28号』と『メカヒュドラ』の調査をしてたんだけど、突然アジトを見つける方法を思いついちゃって、試したらうまくいっちゃったんだよ。置いていくつもりはなかったんだけど、『メカヒュドラ』が自動で動き出しちゃって、呼ぶタイミングがなかったんだよ……」
俺は、そう言い訳をした。
ニアはジト目で見ているし……リリイとチャッピーは、相変わらず抗議の涙目を向けている……これが一番辛い……トホホ。
「リリイ、チャッピー、ごめんね。置いていくつもりは全然なかったんだよ。ほんとにごめん。そうだ! いいものを見つけたんだ。美味しいから食べてみて!」
俺はちょっとズルいかもしれないが、気持ちを切り替えてもらうためにも、アジトで見つけた『バナナチップ』を出した。
リリイとチャッピーは微妙な表情になっていたが、そこは子供らしく受け取ってくれた。
「硬いけど……美味しいのだ!」
「バナナの防御力が上がってるなの〜。でも美味しいなの〜」
少しご機嫌が治ってきたようだ……。
「しょうがないわね。私も食べてあげるわよ。食べ物で釣るなんて……。悪い作戦じゃないけど……」
ニアも興味を惹かれたらしく、バナナチップに齧り付いた。
叫びはしなかったけど、無言でガリガリやってるから、美味しいということだろう。
そんなところに、食べ物の匂いを敏感に察知したフードファイターこと『ドワーフ』のミネちゃんと、仲良しのゲンバイン公爵家長女のドロシーちゃんがやってきた。
もちろん、すぐに『バナナチップ』をあげた。
「バナナ少年は、ただの甘い奴ではなかったのです! どうやら強化スキルを使うようなのです。でもミネにとっては、朝飯前なのです! 朝ご飯の前に食べ尽くしちゃうのです!」
「まぁバナナがお菓子に……。この硬さ……そして噛んでいると引き出される濃厚な甘さ……。歯ごたえを楽しませつつ、後から押し寄せる甘みで心を奪う……。さすがグリムさんです。朝の散歩がてらに、こんなものを見つけてしまうなんて……。やはりその生態を研究しなければなりません。グリムさんの研究一筋になるために……ペンネームを『グリゴロウ』にした方がいいかもしれません……」
この二人のコメントは、相変わらずだ。
朝っぱらから、ツッコむ気にはなれないのだが……ツッコまずにはいられない!
バナナ少年って!? ……どういう基準で少年認定?
『バナナチップ』は、スキル持ってませんから!
朝飯前に食べ尽くさないでください!
そして……ドロシーちゃん!
もう色々と……ほんとに、やばくなってきてるから!
早く元に戻ってほしい!
俺の生態を研究するのもやめてほしい!
グリゴロウってなによ!?
ツクゴロウ博士に影響されたわけ!?
お願いだから……可愛いドロシーちゃんのままでいてほしい……ペンネーム『グリゴロウ』はなしだから!
仲間たちの突然の騒がしい出迎えに、一緒に来たカーミラさんは少し引き気味だ。
そして挨拶をするタイミングをつかめないでいるようだ。
「みんな、首領のアジトに行ってきたんだけど、そこで囚われて利用されていた子なんだ。カーミラさんといって、吸血鬼の真祖の血統の子だよ」
俺が紹介すると、カーミラさんは続いて挨拶した。
「カーミラと申します。グリムさんに助けていただきました。しばらくお世話になると思いますので、よろしくお願いします」
おとなしい優等生タイプの彼女らしく丁寧な挨拶だが……しばらくお世話になるような話は、まだしていないんだけど……。
まぁお世話するつもりではいたけどさ。
放り出すわけにはいかないからね。
そこにちょうど『ヴァンパイアハンター』のエレナ伯爵と、俺の眷属『聖血鬼』でもあるキャロラインさんがやってきた。
「真祖の血統の方ですか? 私はエレナ=ヘルシングと申します。ヘルシング伯爵領の領主を務めています。最近まで『ヴァンパイアハンター』として活動していました」
「キャロライン=クルースと申します。ヘルシング伯爵領の執政官をしています。『ヴァンパイアハンター』でもあります」
エレナ伯爵とキャロラインさんは、少し緊張した面持ちで挨拶をした。
「そうですか。あなた方が今代の『ヴァンパイアハンター』なんですね。立派に勤めてらっしゃるとグリムさんに聞きました。これからも、よろしくお願いします」
カーミラさんも、微笑みながら声をかけていた。
そんな感じで簡単に挨拶を済ませ、他のみんなにも紹介するために食堂に行くことにした。ちょうど朝食のタイミングだからね。
みんな揃ったタイミングで、改めて保護してきたカーミラさんを紹介しようと思っている。
そして、改めて紹介する人がもう二人いる。
それは『魔盾 千手盾』の付喪神となったフミナさんと移動型ダンジョン『シェルター迷宮』から救出した『ホムンクルス』のニコちゃんだ。
本当は、この二人のことは秘密にしたいところだが、ここに集まっている人たちは昨日の戦いで大体のことを見ているので、今更隠す意味もない。
それに、皆信頼できる人たちだから大丈夫だろう。
セイリュウ騎士の中には、まだそれほど親しくない人もいるが、ユーフェミア公爵の下で忠誠を誓っている人たちなので、信用できる。
「フミナです。よろしくお願いします」
「ニコです。よろしくお願いします」
「カーミラと申します。よろしくお願いいたします」
三人が簡単に挨拶をした。
この三人は、極めて特殊な存在だ。
一人は『付喪神』だし、一人は『ホムンクルス』だし、一人は吸血鬼の『真祖の血統』だ。
だが俺の仲間たちはもちろん、ここにいる俺が家族同然と思っているメンバーは、誰も偏見を持っていない。
素直に受け入れてくれる人たちばかりなのだ。
一部のセイリュウ騎士たちは、ヴァンパイアのことをよく知らないので、警戒していた感じだった。
俺は、善良なヴァンパイアが多いということと、真祖であり始祖であるドラキューレさんとその直系の『真祖の血統』の人たちは、ヴァンパイアが悪事を働くこと認めておらず、それを正す存在として、自ら『ヴァンパイアハンター』を育てたという話をしてあげた。
その話を聞いて皆納得し、警戒心を解いてくれていた。
それからこの国のトップである国王陛下と王妃殿下が積極的に、気さくに声をかけてくれていたことも大きい。
そういう光景を見ていると、俺がこの異世界に来て、最初に関わった国が『コウリュウド王国』で本当に良かったと思う。
最初に関わった国のあり方によって、この異世界の印象が全然変わったはずだからね。
これもイージーモードなんだろうか……神様ありがとう! イージーモード万歳!!
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次話の投稿は、10日の予定です。
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