689.乾燥の魔法道具と、水槽の魔法道具。
首領の部屋と同様に、発見されずに残っていたエリアに隠し格納庫があったようだ。
そしてその場所にあったのが、『マシマグナ第四帝国』が当時開発を進めていた『べつじん28号』と『メカヒュドラ』だったらしい。
首領のメモによると、これらの操縦型人工ゴーレムは、『ムーブトレースシステム』の損傷により、実戦投入されることなく格納されていたようだ。
格納庫には、他にもいくつかの魔法道具や研究資料が残っていたらしい。
『正義の爪痕』が持っていた技術力は、『マシマグナ第四帝国』の遺物を活用したものだったようだ。
人の魔物化については、『マシマグナ第四帝国』末期に大きな問題になっていたらしい。
人が突然魔物化し、周辺に被害を与えたり、身近な者を殺してしまうという事件が頻繁に発生していたようだ。
そこで、『魔物人』を検知して、自動で抹殺する兵器が考案されたらしい。
それがあの機械の殲滅兵だったようだ。
もっとも、皮肉なことに……人々を守るために開発されたその兵器が暴走させられて、人々を皆殺しにしてしまったということになる。
当時の帝国は、異世界から召喚した勇者の力を借りて、魔王と悪魔の恐怖を凌いだものの兵力の増強に迫られていたらしい。
『九人の勇者』の中で、帝国に残ったのはフミナさんだけだったらしいので、今後の脅威に対する備えが必要だったのだろう。
必要性に迫られたのはわかるが、よくある軍事国家の暴走という状態になっていたのかもしれない。
なぜ人が魔物化するのかということについては、当時も解明されていなかったらしい。
だが、当時進めていた人を強化するプロジェクトの一環で、『人造キメラ製造計画』というものがあり、その技術を基にした何かが一般の人々に広まったという説もあったようだ。
生物兵器として作ったウィルスが流出し、パンデミックを引き起こしたみたいなイメージだろうか……。
これもおそらく、悪魔が裏で糸を引いていたに違いない。
『人造キメラ製造計画』の資料が、部分的に残っていたらしく、それをベースに『死人薬』が開発されたようだ。
ただそのためには、血を操る技術が必要で、それを補う為にヴァンパイアに目をつけたらしい。
そして、ヴァンパイアを見つけ出し、組織に引き入れたということだろう。
そういえばこの遺跡の場所は、前にユーフェミア公爵が調べてきてくれたセイバーン公爵領周辺の遺跡のリスト情報には、入っていなかった。
今の時代では、この場所に『マシマグナ第四帝国』の遺跡があることは、全く知られていないのだろう。
そう考えると、遺跡荒らしの被害にあったのも、だいぶ前だと思われる。
滅亡して、三千年も経ってるからね。
仮に滅亡から千年後に遺跡が発見されて注目を集めていたとしても、それから二千年も経てば存在自体忘れ去られる可能性は十分にある。
しかもこの場所は魔物の領域で、普通の人は近づくこともできないからね。
そういえば……『マシマグナ第四帝国』は、魔物の領域であるにもかかわらず、あえてこの場所に『ラボ』を作ったということだった。
もしかしたら……魔素が濃い場所だからではないだろうか。
もしそうなら、『ラボ』だけじゃなくて『人造迷宮』を作るにも好条件だ……なぜ作らなかったのだろう……?
普通で考えたら、作りそうなものだが……。
なんとなく、そんなことが思い浮かんだ。
でも、もし『人造迷宮』あれば、首領が探して利用していただろうし、多分ないよね。
いや……待てよ……
迷宮の存在は、全て極秘事項で情報規制されていたらしいから、当時ここで働いていた技術者も知らなかった可能性がある。
だからそういう資料も、ないのかもしれない。
そして、首領も知らなかった可能性が高い。
そもそも、迷宮があると思っていなければ、探すことはありえない。
しかも同じ『マシマグナ第四帝国』の『ラボ』の近くにあるのに、その記録が残っていないとも普通は考えないだろう。
意外と……灯台下暗し状態だったりして……。
俺の直感が……そう言っている気がする。
後でこの近くを探してみよう!
人造迷宮がある気がしてしょうがない……。
『マシマグナ第四帝国』の本格稼働迷宮は、まだ一つも発見していない。
テスト用迷宮のシリーズも、まだ全てを発見したわけではない。
前に『ミノタウロスの小迷宮』のミノショウさんに聞いた話が間違っていなければ、テスト用迷宮は八カ所以上あるはずだ。
俺は『テスター迷宮』『イビラー迷宮』『アイテマー迷宮』『トラッパー迷宮』『プランター迷宮』という一号迷宮から五号迷宮までの、ダンジョンマスターになっている。
そして、ピグシード辺境伯領を壊滅の危機に追い込んだあの白衣の男が潜伏しているのが、テスト用迷宮の一つと思われる。
今も監視を続けているが、迷宮として稼働してる気配はないので、遺跡と化した迷宮かもしれないが。
これを入れても、残り最低二カ所はテスト用迷宮があるはずなのだ。
場所的な近さを考えても、かなり可能性が高いと思えてきた。
もちろん、本格稼働迷宮である可能性もあるけどね。
本格稼働迷宮については、今のところ全く謎だ。
いくつあるのかも、わからない。
ただ一つわかっていることは、本格稼働迷宮のその当時の最新型が、あの空飛ぶヤドカリ……移動型ダンジョン『シェルター迷宮』だということだ。
奇しくも、そのダンジョンマスターにもなってしまったけどね。
テスト用の変わった迷宮と、最新型の迷宮のダンジョンマスターになって、通常規格の迷宮と縁がないというのも俺らしい気がして、我ながら笑えてしまった。
俺は、首領の部屋を後にして、拘束している幹部構成員に食料庫と家畜を飼育しているという場所に案内させた。
このアジトで活動している構成員が少ない割に、食料庫にはかなりの備蓄があった。
麦類、米類、芋類といった長期保存が効くものが多かった。
干し肉と干し魚もそれなりにあった。
特筆すべきは……干し野菜やドライフルーツが数多くあったことだ。
なんと『マシマグナ第四帝国』の遺物の中に、乾燥の魔法道具という箱型の魔法道具があったらしい。
そこに野菜やフルーツを入れると、短時間で乾燥できるらしいのだ。
また加熱することができるようで、オーブンのような使い方もできるようだ。
輪切りにして乾燥させた『ドライバナナ』と熱を加えた『バナナチップ』が作ってあって、思わず食べてしまった。
濃厚で美味しい!
『ドライバナナ』はしっとりとした食感で、甘みが凝縮されている。
『バナナチップ』はよく知っている味で、あの硬い歯応えがたまらない。
おやつにぴったりだ!
『バナナチップ』は、保存が効くからか、かなり作ってあったので、みんなに配ろうと思う。
特に子供たちは喜びそうだ。
その魔法道具を実際に見たら、飲食店なんかにある調理用の冷蔵庫くらいの大きさがあった。
この魔法道具は、色々と使えそうだ。
俺は、すぐに『波動収納』に回収した。
よく考えたら……美味しいおやつを作るための装置なら……フードファイターの『ドワーフ』のミネちゃんが、張り切って作ってくれそうだ。
この乾燥の魔法道具を参考にしてもらって、もっと大型の改良品を作ってもらおう!
家畜を飼育している場所に行くと、驚きの光景が目に入った。
水槽のようなものがあって、魚が飼育されていたのである。
というか……ほぼイケスだ!
水を浄化する魔法道具がセットされているらしい。
前に潰した『正義の爪痕』のアジトには、魚の養殖池を作っていたところもあったが、ここには養殖池はなく、この水槽のようなものが二十個もセットされている。
川魚が何種類かと、川エビが飼育されている。
これに、綺麗な魚とかを入れたら、ちょっとしたミニ水族館になりそうだ。
この水槽のようなものや水を浄化する魔法道具……ジョージが作ろうとしている水族館で絶対使えるな。
『魚使い』のジョージに見せたら、大喜びしそうだ。
だが……これを『波動収納』に回収することはできない。
仮に回収したとしたら、この水槽設備だけが回収されて、魂がある魚たちは取り残されるということになるだろう。
とりあえず、この設備はこのままにしておこう。
水質の維持や餌やりも自動でできるみたいなので、全く手がかからないようだ。
凄い優れ物じゃないか!
そして熱帯魚マニアだった記憶を思い出してしまったじゃないか!
水草とかを配置した綺麗な水槽を作りたいなぁ……。
後でゆっくり考えよう!
家畜として飼われていたのは、前にユーフェミア公爵からプレゼントされたセイバーン公爵領特産の『豆牛』という豚くらいのサイズの牛だった。
二十頭いる。
それから、鶏が三十羽いた。
これらの動物たちは、『コロシアム村』に牧場を作って飼うことにしよう。
『コロシアム村』は、独立自治村みたいな感じで『フェアリー商会』で運営することになっているので、独自に牧場も作ろうと思っていたのだ。
特産の『豆牛』が欲しいと思っていたから、ちょうどよかったのだ。
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