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677.ツクゴロウと、愉快な付喪神たち。

 前にニアに聞いた付喪神の話を思い出したら、付喪神への興味が少しぶり返してしまった。

 そこで、ちょっとだけニアに尋ねてみた。


「ニアは、他の付喪神を見たことあるの?」


「ないわ。妖精族の里にはいなかったから。もっぱら本で読んだだけよ。でも面白い話がいっぱいあるのよ!」


 ニアは、ハイテンションで答えた。

 やはり相当、付喪神の話が好きなようだ。


 そんな話をしていたら、リリイとチャッピー、『ドワーフ』のミネちゃん、ゲンバイン公爵家長女で王立研究所の上級研究員のドロシーちゃんがやってきた。

 ハナシルリちゃんも、眠い目をこすりながらついてきている。


 結構前に眠気に耐えられず、寝たと思うんだけど……また起きてきたようだ。


「わたし、付喪神の本、持ってる。面白い!」


 ハナシルリちゃんが、四歳児の外見通り可愛く言った。

 中身は三十五歳なのだが……野暮なことを言うのはやめておこう……。


「ほんと!? 私も付喪神の話が大好き! 何の本持ってるの?」


 ニアがまるで同じ趣味の仲間を見つけたかのように、ハイテンションで訊いた。


「うんとね…… 『ツクゴロウと愉快な付喪神たち〜付喪神の記録と研究〜』っていう本」


「それ私も読んだ! 最高に面白いよね!」


 ニアのテンションが、さらに上がった。


「うん。私も大好きなお話がいっぱいあるの」


 ハナシルリちゃんも、嬉しそうだ。


「ツクゴロウ博士が、リュートの付喪神に出会って、無理矢理スリスリして怒られる話とか面白いよね!」


「うん。あと博士が、よしよしと言って撫で回すのを怖がって、泣いちゃった壺の付喪神の話も笑える」


「あぁ確かに! あれも超笑えた!」


 ニアとハナシルリちゃんが、すっかり盛り上がっている。


 俺は取り残されているんですけど……。


 ちなみにニアが言っていたリュートというのは、弦楽器の一種だ。

 この世界では、一般的な楽器なのだ。

 吟遊詩人も使っている。



「あの……その本を書いたツクゴロウ博士は、王立研究所の名誉研究員ですよ」


 ドロシーちゃんが、突然そう言った。


 ニアとハナシルリちゃんは、すごい喰い付きでドロシーちゃんを見た。


「ドロシーちゃん、会ったことあるの?」


 ニアは期待に満ちた表情で、ドロシーちゃんに尋ねた。


「はい。今は引退されていて、王立研究所にはいないんですけど、一度お会いしたことがあります。確か今九十五歳になってるはずです。全国を旅して、付喪神を探していると言っていましたが。その本は、確か……五十年くらい前に出版されたものだと思います」


「本当? いいなぁ……。今どこにいるの? 会ってみたい」

「私も会って、お話を聞きたい」


 ニアとハナシルリちゃんが、さらに食い付いた。


「もう高齢ですから、王国内にはいると思うんですけど……。自由奔放な方みたいなので……わからないです。今度、王立研究所の人たちに聞いてみます」


 ドロシーちゃんがそう言って、少し申し訳なさそうに頭を下げた。


「ほんと? ありがとう、ドロシーちゃん。もし居場所がわかったら、会いにいきましょう!」


 ニアは、興奮を抑えられないようで、くるっと空中で一回転した。


 このやりとりを聞いていて……俺も会ってみたくなった。


 そのツクゴロウ博士なら、現代においても多くの付喪神に会ったことがあるということだよね。

 もしかしたら個人的に……どうぶつ王国もとい『つくもがみ王国』みたいな……付喪神の楽園を作っているかもしれないし……。


 ちなみに……ニアが教えてくれたが、リュートの付喪神は、一度聞いたメロディーは演奏ができてしまうらしい。

 自分で音を奏でるらしいので……ある意味自動演奏だ。

 そして、誰かが口ずさんだメロディーも奏でてくれるらしい。

 その演奏は、優れた奏者が奏でるように美しく、心に響く素晴らしいものだと言われているようだ。


 壺の付喪神は、壺の中に入れたものを腐りにくくしたり、逆に熟成や発酵を早めたりという能力を持っているらしい。


 この二人の付喪神は共に、手足が生えて動き回れるし、会話ができるとのことだ。

 リュートの付喪神は、気難しいおじさんみたいな感じで、壺の付喪神は気の弱い女の子みたいな感じらしい。

 そんな話を聞いたら、ますます会ってみたい。


 そしてこの付喪神たちと、ぜひ友達になりたい。

 リュートの付喪神と友達になれば、俺でも作曲家になれるかもしれない。

 壺の付喪神と友達になれば、いろんな料理が作れそうだ。

 味噌などの熟成も早められるだろうし、薬草の発酵液など健康食品も時間をかけずに作れそうだ。


「ツクゴロウ博士の居場所なら知ってるよ!」


 突然、そう言いながら国王陛下が歩み寄ってきた。

 どうやら俺たちの話を聞いていたらしい。


「ほんと!? どこにいるの?」


 ニアは相変わらず上から目線で食いついた。


 でも国王陛下は、食いついてくれたことに嬉しそうな笑みを浮かべている。


「実は、ツクゴロウ博士は王国内をのんびり旅しているんだよ。そして各領内の情勢を手紙で報告してくれてるんだ。非公式の地方調査官みたいな感じのことをしてくれているんだよ。おそらく今は、隣のコバルト侯爵領にいると思うよ。最近コバルト侯爵領の評判が良くなくてね。この前手紙を返した時に、コバルト侯爵領に行ってくれるように頼んだから。郵便の魔法道具というのがあってね。箱型の魔法道具なんだけど、十個で一セットになっていて、その十個の箱の番号を指定して手紙を入れると、その箱にすぐに届くんだ。その十個のうちの一つを彼に渡してあるんだよ」


 国王陛下が、得意気に教えてくれた。


 もしかしたらツクゴロウ博士は、国王陛下直属の隠密なのかなぁ……?


 そして、郵便の魔法道具なんてものがあるのか……。

 なんとなくリアルなメールみたいな感じだけど。

 届けられるのは、十個の箱のうちのどれかということなんだろうけど、手紙自体を転移させているのか、もしくは別の箱にゲートを繋ぐのか……。


 いずれにしても、かなり貴重な魔法道具だろう。

 通信の魔法道具の方が、直接話せるから便利なように思えるけど、書類的なものを添付したいときとか、紙ベースの情報を見せたいときには、郵便の魔法道具の方がよさそうだ。


 一番いいのは、メールを見ながら電話するように、手紙を送りつつ通信もできることだろうけどね。


 少しだけ国王陛下に尋ねてみたら、手紙以外でも箱に入る大きさなら小包のように届けることができるらしい。

 まさに郵便だな。

 即時配達できる私的郵便局って感じだね。

 十個セットじゃなくて、百個セットだったらかなり使えそうだけどね。

 百個ぐらいあったら、王国内で本当に郵便局みたいなことができるんだけど。

 その魔法道具どこかで手に入れる方法は無いのかなあ……


 でもよく考えたら郵便事業みたいなことをするなら……現状でも転移の魔法道具を使えばできるんだよね。

 王国内のすべての領の領都を転移先として登録して、転移配達員みたいな人を作って届けることはできる。

 各領都限定だが、短時間で届く郵便網を作ることはできそうだ。


 あとは……そうだ! ドワーフのミネちゃんなら郵便の魔法道具を作れるんじゃないだろうか!

 もし彼女が百カ所くらいを結べるような郵便箱のネットワークの魔法道具を作ってくれるなら、『フェアリー商会』で郵便事業をやってもいいかもしれない。

 そしたら人々の暮らしに役立つかも。


 現状では、手紙を遠方の人に届ける方法は、行商人に預けるしかないようで確実に届くかどうかもわからない状態らしい。

 それ故に、そもそも手紙を書く人自体が少ないようだ。


 当然識字率の問題もあって、字の読み書きができない人もかなりいるから、手紙という需要自体が現時点では少ないだろう。


 もし郵便事業をやったとしても、当面は赤字事業になりそうだ。

 でも、将来的には人々の生活に役立つと思うんだよね。


 それに届ける方法が魔法道具なら、一瞬で届くから人件費はそれほどかからないだろう。

 赤字事業とはいっても、何とかやれるのではないだろうか。


 小包を送ることはできるから、貴族や裕福な人を相手にネット通販みたいなことをやってもいいかもしれないよね。

 そしたら黒字事業になっちゃうかもしれない!





読んでいただき、誠にありがとうございます。

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次話の投稿は、27日の予定です。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  まともっぽい博士がいそうな事? [一言] > ツクゴロウ  なんか王国を作ってそう。  ツクゴロウ博士は仮に命を落としていても付喪神として復活しそうだな? 或いは死んだかに見えたが実は…
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