676.古の幼女の、目覚め。
『魔盾 千手盾』の付喪神フミナさんは、移動型ダンジョン『シェルター迷宮』の生体コアにされていた『ホムンクルス』の幼女ニコちゃんを見守りながら、俺に様々なことを教えてくれた。
それにしても、フミナさんはかなり疲労しているようだ。
最初は、ニコちゃんのことが心配で元気がないのだと思っていたが、それだけではなさそうだ。
もしかすると……
「フミナさん、もしかして急激にレベルアップしてませんか?」
「はい、付喪神となったときにはレベル1だったのですが、戦いが終わったところでレベル34になっていました」
なんと、フミナさんは33もジャンプアップしていた。
おそらく移動型ダンジョン『シェルター迷宮』に突入するときに、魔物を屠ったときの経験値が入っているのだろう。
俺は、千手盾を背負って魔物の濁流を遡りながら、大量に魔物を倒した。
その時彼女も、盾の状態で『固有スキル』の『千手拳』で攻撃していた。
それで俺のパーティーメンバーと認識されて、魔物を倒した経験値が大量に入ったのだろう。
やはり彼女は、ニコちゃんを心配していただけではなく『レベルアップ疲労』に陥っていたようだ。
ちなみに『ホムンクルス』の幼女ニコちゃんのレベルは20のようだ。
見た目は八歳児だが、休眠期間を除いた生命活動を営んでいた時間が三年らしく『年齢』には『三歳』と表示される。
それ故に、三歳児ともいえる。
そう考えると、レベル20はありえないぐらい高い。
ただ精神年齢も三歳児かというと、どうもそこは身体と同じように八歳児程度のようだ。
まぁそれにしても、八歳児でレベル20はありえないけどね。
リリイとチャッピーという特別な八歳児を見ているから、そういう感覚が鈍っていたけど。
ニコちゃんは、『ホムンクルス』としての身体能力を活かせるように、幼いながらも鍛えられたのだろう。
生体コアにされる以前に、レベル20になっていたのだと思う。
「う、うう……」
お、ニコちゃんが声を漏らした。
目覚めそうだ。
「ニコ、ニコ! しっかりして、お姉ちゃんよ! ニコ!」
フミナさんが必死で呼びかける。
「う、うう……お、お姉ちゃん……?」
ニコちゃんが、ゆっくり目蓋を開け、フミナさんの顔見て絞り出すように言った。
「あゝ、ニコ。よかった……ニコ。あゝよかった」
フミナさんは寝ているニコちゃんに、覆い被さるように抱きついた。
フミナさんは、抱きしめながら泣いている。
そして抱きしめられているニコちゃんも、だんだん意識がはっきりしてきているようだ。
目から大粒の涙をこぼしている。
「お姉ちゃん……お姉ちゃん……私……う、うわぁぁぁん」
ニコちゃんは意識がハッキリしたのか、感情が込み上げ大泣き状態になった。
目覚めてくれて、ほんとによかった。
俺はしばらく二人を見守った。
二人は言葉を交わすでもなく、ただお互いの肌の温もりを確かめるかのように抱きしめ合っていた。
少しして落ち着いたところで、二人が話し出した。
「お姉ちゃん、どうして? お姉ちゃん死んだはずなのに……。あたしも死んだの?」
「いいえ、そうじゃないの。ニコは、ちゃんと生きてるよ。お姉ちゃんは確かに死んじゃったの。ごめんね、あなたを残して。でもお姉ちゃんが使ってた盾があるでしょ、あの盾にお姉ちゃんの心が少し残っていて、精霊様の力で付喪神になれたの。そのお陰で、こうしてまたニコと会えたのよ」
「うん。……ありがとう。姉ちゃんに会えて嬉しい……うう」
ニコちゃんが、また泣いてしまった。
「もう何も心配いらないわよ」
「お姉ちゃん、あたし、悪い人たちにつかまって……その後どうなったの? ニト兄ちゃんは?」
ニコちゃんが不安そうに、フミナさんに尋ねた。
「捕まった後のことは覚えていないのね。よかったわ。いいのよ覚えてなくて。あなたは悪い人たちに利用されていたの。でももう大丈夫だから。それから……お姉ちゃんたちが生きていた時代から、三千年経ってるの。あなたはコールドスリープでずっと寝ていたのよ。ニトは、もう亡くなっているわ……」
フミナさんはそう言うと、ニコちゃんを抱きしめた。
ニコちゃんは、突然のことに頭が整理できていない様子だ。
もちろん気持ちの整理も追いつかないだろう。
また大粒の涙を流している。
「ニト兄ちゃん、ニト兄ちゃん……」
『正義の爪痕』の首領となってしまっていたニトくんも、正気を取り戻してからはニコちゃんのことを心配していたが、ニコちゃんもニト君のことが大好きだったようだ。
フミナさんは、ニト君が悪の組織の首領だったことは言わないつもりなのだろう。
三千年経っているから、当然のこととして、生きてはいないという印象に留めるつもりのようだ。
俺も、いずれ時が来たら話してあげればいいと思う。
それにしても、無事にニコちゃんが目覚めてくれて、ほんとによかった。
この二人は、これから俺が面倒をみるつもりだ。
もちろん俺の仲間たちも、歓迎してくれるだろう。
そして国王陛下やユーフェミア公爵たちも、俺に預けてくれるだろうと思う。
落ち着くまでは、しばらく二人にしてあげるつもりだ。
いくつか尋ねたいこともあるが、今日はこのままそっとしてあげることにした。
一応、『クイーンピクシー』のニアと『アメイジングシルキー』のサーヤと『家精霊』こと『付喪神 スピリット・ハウス』のナーナを呼んで、改めて紹介した。
他のメンバーは少し落ち着いてから……明日になってからでいいだろう。
俺はフミナさんに、何かあればサーヤやナーナに頼るように言った。
サーヤは仲間たちにとって母親ポジションだし、ナーナは同じ付喪神として通じるものがあると思ったのだ。
ただこの三人も、今は挨拶だけにして、俺と一緒に部屋を出た。
しばらくは、二人きりにさせてあげた方がいいだろう。
部屋を出た後に、ニア、サーヤ、ナーナと少し話をした。
当面、ナーナが担当となって面倒をみてくれることになった。
ニアは、「付喪神が、二人も仲間になるなんて凄い!」と能天気な発言をしていた。
まぁ確かに凄いことのようだ。
付喪神に出会うのは、かなり難しいらしいからね。
古い時代の記録や、物語などでは頻繁に人と交流していたらしい。
過去には、そういう時代も実際にあったと考えられているようだ。
なにせ、神と人が直接交流していた時代もあったとされているようだからね。
今は『お隠れの時代』と言われていて、神様を見たり会ったりすることはほとんどないようだ。
今日の五神獣との交流は、激レアで衝撃的な出来事と言えるわけである。
『お隠れの時代』というのもあって、付喪神にもあまり会えないのかも知れない。
ナーナもフミナさんも、家や盾に残っていた残留思念が主人格となって付喪神化しているが、これは特別な付喪神化ということだった。
通常の付喪神化は、残留思念なども全て取り込むが、元々その物についていた精霊たちが主人格となって、魂が宿るかたちになるらしい。
それ故に、人型として顕現するのではなく、道具そのものが魂を持って意識を持った存在になるというかたちのようだ。
前にも思ったが、通常の付喪神にも是非会ってみたい。
ニアが言っていた“話す鍬”とか……面白そうだ。
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